嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸

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プロローグ

断頭台への道と静かな絶望

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公爵令嬢フレイアは断頭台への階段を登っていた。
冷たい風が彼女の肌を掠める。

──どうして、こんなことに。



フレイア・エーメリーはグレイトリア国でも有数の公爵家の一人娘である。
そんな彼女は容姿端麗、才色兼備であり、貴族令嬢のお手本のようだと常に噂されていた。
実際に彼女の夜の闇を集めたような紺の髪は目立ったし、人形のような長い睫毛まつげに星を封じ込めたような黄金色の瞳も注目を集めていた。それに加えて彼女の一つ一つの動作には、確かな品格があった。

だから、公爵令息のロベルト・バルツァーの婚約者として選ばれたのも当然とも言えるのだ。
バルツァー公爵家はエーメリー公爵家と同じく、名門貴族だったため婚約者は厳選される。その中でもフレイアが最適だとバルツァー公爵は思ったのだろう。

ロベルトの爽やかな萌葱もえぎ色の髪に瑠璃るり色の目は貴族間でも有名で、神が与えたと謳われる声は優しくそれでいて色気を放っていた。

あくまで政略的な婚約だったがフレイアは婚約者のロベルトを愛していた。ロベルトもフレイアのことを愛してくれている、

フレイアが違和感を覚えた頃には、すでに崩壊が始まっていた。

フレイアが十七歳になってすぐのある日、ロベルトはフレイアに一人の女を紹介してきた。
その女の名前はマーガレットと言い、フレイアの凛とした美しい雰囲気とは真逆な可愛らしい、ストロベリーブロンドに桃色の瞳。彼女は常にふわふわとした雰囲気を纏っていた。
フレイアは度々二人が極端に近い距離で談笑しているところを目撃した。
そんな二人に不安を覚えながらも、月日は経っていった。


──それは柔らかな日差しが降り注ぐ午後のことだった。
 
がちゃん。
侯爵令嬢、クラリスがティーカップを落とし、倒れた。フレイアの目の前で。
紅茶がテーブルから流れ落ち、ぽたぽたと水溜りを作る。それに木漏れ日が反射し、まるで物語のワンシーンのような光景を作り上げていた。

お茶会に参加していた令嬢が一人悲鳴をあげる。それを中心として悲鳴が広がっていく。
フレイアは意味がわからなかった。

しかし、クラリスと同じテーブルを使っていたのはフレイアだけ。
紅茶に毒が含まれており、フレイアは取り調べのため騎士団へと連れられた。

フレイアが拘束されてからすぐ、信じられないことにフレイアが犯人だと断言できるような証拠が次々と出てきた。クラリスに盛られた毒と同じものがフレイアのハンカチから検出されたり、使用人の証言だったり。
フレイアはただただ、困惑していた。自分が罪を着せられているというこの状況に。

フレイアが頃には、もう何もかも遅かった。
公爵令嬢だということでまだ丁寧な扱いを受けていたのが、犯人と決まった時には手枷を付けられすぐさま牢に入れられた。彼女の言い分も聞かずに。

牢に入れられたフレイアの唯一の楽しみはロベルトから時々来る手紙だった。
彼女は《フレイアが毒なんて盛っていないことは知ってるよ》などという言葉に救われていた。

フレイアはロベルトからの手紙が来るたびまだ生きられる、そう思った。誰よりもロベルトを愛し、信じていた。


ロベルトから《フレイアの無実を晴らすことができなかった》という手紙が送られてきた頃には、もう自分がどうなるのかなんて知っていた。


フレイアは明日処刑される。
フレイアはどうせ死ぬのなら朝に死にたいと常に思っていた。朝の暖かな日差しはきっと私の死を暖かく包んでくれる。そんなことまで考えていた。
 
静かな死が、迫ってくる。

彼女の希望通り、斬首刑は朝一番に行われることになった。
漠然とした恐怖がそこにあった。
フレイアは深呼吸をする。
高なる鼓動を抑えるために。
自分に言い聞かせるように。私は最愛の人に愛されて最期を迎えるんだ、と。


断頭台が置かれた広場にはかつてないほどの人が集まっていた。
 
貴族も、庶民もフレイアの処刑を見にきていた。
位をつけても結局人間の考えることは一緒なんだと思うと笑えて仕方なかった。

フレイアは罵詈雑言を浴びせられ、唾を吐きかけられた。

わたくしが何をしたというんだろう)
 
強引に鎖を引っ張られる。
 
こんな状況に反して、空は綺麗だった。
 
フレイアが処刑人の横をふと見やると、そこにはロベルトが立っていた。
どうやら婚約者としてフレイアの処刑を見届けにきたようだ。

最愛の人に見届けられるなら。
フレイアは一段、また一段と死への道を登っていく。
不思議と怖さは無かった。
 
フレイアの首が固定される。

ロベルトがフレイアの正面に立ち、彼女と目線を合わせるためかしゃがんだ。
フレイアは最愛の彼の名を呼ぶため、潰れた喉から声を搾り出す。

「ロベル……」

そんなフレイアを見たロベルトはの笑顔で、こう言った。


「さっさと死んでくれ」


フレイアの目が見開かれた。
 
「クラリス嬢に毒を盛って正解だったよ」

はは、と笑みを溢す婚約者の姿をフレイアはただただ見つめるだけだった。

なんで、私をめたの。

「なん、で───」


鋭利な刃がフレイアに向かっておろされた。



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