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一章:嘘つきな貴方
二度目の人生へ
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「嘘……でしょ……」
フレイアはベッドの上で手のひらをしきりに動かしていた。それもそのはず、彼女は先程死んだはずなのだから。
「死んで、ないの……?」
近くにあった鏡を急いで覗き込む。
そこに映ったのは額に傷がついた自分だった。
(どうして十六歳の頃の私が映っているの……?)
フレイアが鏡に映った自分が十六歳だと気づいたのには訳がある。
彼女は十六歳になりたての頃、階段から足を踏み外し転落したのだ。幸いにも額の怪我は数ヶ月ほどで消えたのだが、当時は顔に傷がついたということでこの件は大きなショックを与えた。
そういえば、ロベルトと婚約したのもこの時期だったか。
フレイアはロベルトの姿を思い浮かべては振り払った。
あれは悪夢だ。そう思えば思うほど、最期に見た彼の笑顔が頭に残る。
「さっさと死んでくれ」という言葉にひんやりとした刃の感触。
あまりにも生々しいものを思い出してしまい、呼吸が荒くなっていく。
フレイアが苦しんでいるところに一人の男が部屋にやって来た。
「フレイア、大丈夫かい?階段から落ちたと聞いたのだが」
優しく、聞き覚えのある声。かつて彼女が愛していた声。
しかし、その声は私に動揺を与えるだけだった。フレイアの脳裏には最期に聞いた言葉が繰り返し響いている。「さっさと死んでくれ」と。
フレイアは動揺を相手に悟らせないよう、平静を装いこう言った。
「大丈夫ですわ。ご心配をおかけしまして」
「そうか、本当に良かった」
安心しきったような顔。
──その顔は偽りなのかしら。
「ロベルト様、何かお荷物を持っているようですけれど」
「ああ、これか?これは紅茶だ。最近流行っていると聞いて、フレイアの為に用意したんだ」
流行りの紅茶をフレイアのために、と手渡す。階段から落ちた日と一緒。
フレイアはロベルトにしてもらったことを日記として記していた。ロベルトからの愛情を忘れないために。
そのため、ロベルトにされたことは全て記憶として残っている。
これで確信した。あれが悪夢ではないことを。
顔が青くなっていく。声を絞り出そうとするが、うまく出てこない。
小刻みに体が震え出す。
「……フレイア、どうかしたのか?」
「(悪夢であって欲しかった……)」
必死に笑顔を作り、にこりと笑って見せる。冷や汗が頬を伝う。
「なんでもございませんわ」
「それなら良いんだ」
ロベルトは笑顔にあっさり騙されたようで、安心したように頬を緩めて笑った。けれど今のフレイアにはそんな笑顔さえも異質なものに見えた。
全て偽りの様な、そんな気がして止まなかった。
ロベルトが去ってからもフレイアの震えは止まらなかった。
ロベルトは優しく笑っていたがその表情の節々に直感できる何かがあった。これまでの彼女なら気づかないような。
それくらい、愛していたのよ。
しかし、その愛は先程崩れ去った。
(ロベルト様は私のことなど愛していなかったのね)
フレイアは愚かな自分を笑った。静かな笑いは自分でも驚くほど乾いていた。
空が橙と紫で混じり合った頃、ノック音が部屋に響く。
「失礼致します、お嬢様」
ドアを開けると一人の侍女が立っている。どうやら寝込んでいたフレイアのために夕食を持ってきたようだ。
彼女の名はコレットと言い、幼少期からフレイアに仕えてくれている侍女で、焦茶の長い髪に切れ長の翡翠色の瞳が特徴的だ。
フレイアが罪を着せられた時も、最後まで助けようとしてくれた。手紙を送るだけのロベルトと違って。
今、一番信用できるのは彼女だ。
そう考えたフレイアは一瞬躊躇った後口を開いた。
「アルカーヌムに行きたいの」
コレットの焦茶の睫毛が微かに震えた。
コレットは静かに動揺していた。自分の主人が突拍子もないことを言い出した、と。
「お嬢様、アルカーヌムは……」
「知っているわ。情報処のことでしょう」
アルカーヌムはエーメリー家御用達の情報処だ。酒場の地下に位置する其処はお世辞にも治安が良いとは言えない。賭場と並行して営んでいるというところもコレットの懸念のポイントなのだろう。
しかし、ロナルドの事を調べるにはアルカーヌムにいく他ない。彼は面の皮が厚く、簡単には情報をつかませてくれそうにないから。
「今すぐ馬車を出して頂戴」
コレットは一瞬躊躇った。大切な主人をあのような場所に連れていくなんて、と。
「お願い、コレット」
主人の静かな、それでいて強い意思を察し、コレットは一泊置いてから頷いた。
「畏まりました。お嬢様の御心のままに」
フレイアはベッドの上で手のひらをしきりに動かしていた。それもそのはず、彼女は先程死んだはずなのだから。
「死んで、ないの……?」
近くにあった鏡を急いで覗き込む。
そこに映ったのは額に傷がついた自分だった。
(どうして十六歳の頃の私が映っているの……?)
フレイアが鏡に映った自分が十六歳だと気づいたのには訳がある。
彼女は十六歳になりたての頃、階段から足を踏み外し転落したのだ。幸いにも額の怪我は数ヶ月ほどで消えたのだが、当時は顔に傷がついたということでこの件は大きなショックを与えた。
そういえば、ロベルトと婚約したのもこの時期だったか。
フレイアはロベルトの姿を思い浮かべては振り払った。
あれは悪夢だ。そう思えば思うほど、最期に見た彼の笑顔が頭に残る。
「さっさと死んでくれ」という言葉にひんやりとした刃の感触。
あまりにも生々しいものを思い出してしまい、呼吸が荒くなっていく。
フレイアが苦しんでいるところに一人の男が部屋にやって来た。
「フレイア、大丈夫かい?階段から落ちたと聞いたのだが」
優しく、聞き覚えのある声。かつて彼女が愛していた声。
しかし、その声は私に動揺を与えるだけだった。フレイアの脳裏には最期に聞いた言葉が繰り返し響いている。「さっさと死んでくれ」と。
フレイアは動揺を相手に悟らせないよう、平静を装いこう言った。
「大丈夫ですわ。ご心配をおかけしまして」
「そうか、本当に良かった」
安心しきったような顔。
──その顔は偽りなのかしら。
「ロベルト様、何かお荷物を持っているようですけれど」
「ああ、これか?これは紅茶だ。最近流行っていると聞いて、フレイアの為に用意したんだ」
流行りの紅茶をフレイアのために、と手渡す。階段から落ちた日と一緒。
フレイアはロベルトにしてもらったことを日記として記していた。ロベルトからの愛情を忘れないために。
そのため、ロベルトにされたことは全て記憶として残っている。
これで確信した。あれが悪夢ではないことを。
顔が青くなっていく。声を絞り出そうとするが、うまく出てこない。
小刻みに体が震え出す。
「……フレイア、どうかしたのか?」
「(悪夢であって欲しかった……)」
必死に笑顔を作り、にこりと笑って見せる。冷や汗が頬を伝う。
「なんでもございませんわ」
「それなら良いんだ」
ロベルトは笑顔にあっさり騙されたようで、安心したように頬を緩めて笑った。けれど今のフレイアにはそんな笑顔さえも異質なものに見えた。
全て偽りの様な、そんな気がして止まなかった。
ロベルトが去ってからもフレイアの震えは止まらなかった。
ロベルトは優しく笑っていたがその表情の節々に直感できる何かがあった。これまでの彼女なら気づかないような。
それくらい、愛していたのよ。
しかし、その愛は先程崩れ去った。
(ロベルト様は私のことなど愛していなかったのね)
フレイアは愚かな自分を笑った。静かな笑いは自分でも驚くほど乾いていた。
空が橙と紫で混じり合った頃、ノック音が部屋に響く。
「失礼致します、お嬢様」
ドアを開けると一人の侍女が立っている。どうやら寝込んでいたフレイアのために夕食を持ってきたようだ。
彼女の名はコレットと言い、幼少期からフレイアに仕えてくれている侍女で、焦茶の長い髪に切れ長の翡翠色の瞳が特徴的だ。
フレイアが罪を着せられた時も、最後まで助けようとしてくれた。手紙を送るだけのロベルトと違って。
今、一番信用できるのは彼女だ。
そう考えたフレイアは一瞬躊躇った後口を開いた。
「アルカーヌムに行きたいの」
コレットの焦茶の睫毛が微かに震えた。
コレットは静かに動揺していた。自分の主人が突拍子もないことを言い出した、と。
「お嬢様、アルカーヌムは……」
「知っているわ。情報処のことでしょう」
アルカーヌムはエーメリー家御用達の情報処だ。酒場の地下に位置する其処はお世辞にも治安が良いとは言えない。賭場と並行して営んでいるというところもコレットの懸念のポイントなのだろう。
しかし、ロナルドの事を調べるにはアルカーヌムにいく他ない。彼は面の皮が厚く、簡単には情報をつかませてくれそうにないから。
「今すぐ馬車を出して頂戴」
コレットは一瞬躊躇った。大切な主人をあのような場所に連れていくなんて、と。
「お願い、コレット」
主人の静かな、それでいて強い意思を察し、コレットは一泊置いてから頷いた。
「畏まりました。お嬢様の御心のままに」
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