嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸

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一章:嘘つきな貴方

貴方って馬鹿なのかしら

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眩しいほどの照明がギラギラと辺りを照らす。
ルーレットの上を玉が転がりその様子を息を呑んで見つめる人々に、下世話な会話で盛り上がる男たち。

そんな賭場、アルカーヌムの中央には赤髪の男が座っていた。


「久しぶりだね、お嬢にメイドちゃん」

エッカルトはフレイアとコレットを見つけたようで、馴れ馴れしく手を振る。シュッとした琥珀色の瞳、片目には黒い眼帯をつけている彼の妙に整った顔は、この賭場には不釣り合いである。彼はそんな顔をフレイアたちに向けてニカッと笑う。

エッカルトはここ、アルカーヌムのオーナーで賭場を営んでいる。

「情報をお願いしたいのだけれど」

フレイアが小声で囁くと彼は嬉しそうな顔をし、頷いた。

「了解!」

エッカルトが立ち上がり、パンッと手を叩いた。
シン……と店内が静まり返った。

チラチラとフレイアたちを見る者もいたが、皆あっという間に賭場から出ていく。
彼は情報のやり取りをするときは人を賭場から出すのだ。賭場から出ないとゴネた客を半殺しにしたとかしなかったとか。

「それで、お望みの情報は?」とエッカルトがビリヤード台に肘をつきながら尋ねた。

「ロベルト・バルツァー公爵令息と婚約破棄出来る様な情報が欲しいの」

「「は?」」

フレイアのストレートな発言に驚いたのか二人は目をまんまるにしている。エッカルトは真顔になり、コレットは固まっている。

「お嬢様とロベルト様はその……」

数秒経った後にやっとコレットは口を開いたが、言い淀む。
彼女はおそらくこう言いたかったのだろう。
ロベルトと愛し合っていたのにどうして、と。

側から見たら、二人は愛し合っているように見えるのだろう。

「それは……、今は聞かないで欲しいわ」

コレットはフレイアの言葉に黙って頷き、一歩下がった。

エッカルトは少し考えるそぶりを見せた後、二本の指を突き出した。

「二日あれば、集められる」

「お願いするわ」

エッカルトの人間性は褒められたものではないけれど、情報屋としての腕は確かなのよね。お世話になったわ。

地下から上がり、酒場から出た頃には寒空に月が掛かっていた。
フレイアはクリスマスローズが酒場の前に咲いているのを見て、エッカルトが花を植えるなんて意外ね、などと呑気に考えていた。
それと同時に、少しの憂いが芽生えた。

一刻も早く婚約破棄をしたい所だが、何せ名門の公爵家同士の婚約だ。この婚約に伴って沢山の金と利益が生まれる。家族は勿論、世間もそれを許してはくれないだろう。

(情報が集まったところで……と言った感じね)

思わず息を吐くと、思ったより白い息が出た。


報告書が届いたのはあれから二日後の朝だった。

眩しいほどの光が頭上に降り注ぎ、目が覚める。
フレイアが起き上がろうとするとカサリ、と音がした。枕元を見やると、其処には真紅の封蝋がされた手紙が置いてあった。エッカルトが従獣魔法でも使って届けたのだろうか。エッカルトは蜘蛛を操ることができるので、情報集めに最適だといつも豪語していた。

フレイアはペリリ、と手で封を破った。ペーパーナイフなどで悠長に開けている暇はない。

(事実を知る、覚悟を決めないと)

フレイアは息を吸い込んだ。
覚悟を決めるために。読んだことを後悔しないために。

そして、どんな残酷な事実が待っていたとしても耐えられるように。

紙を開き、一文字一文字噛み締めるように読む。


報告書の内容が終盤に差し掛かっていくうちにフレイアの顔が能面のようになっていく。
報告書にはロベルトとマーガレットのが事細かに書かれていた。
御丁寧にマーガレットとロベルトの逢瀬の瞬間の写真も入っていた。おまけにキスの写真も。

「マーガレットだけを愛している」
「ええ、私もあなたと結ばれたいわ」
などという二人が実際に交わしたであろう言葉が紙の上で踊っている。

マーガレットは男爵家の令嬢だ。名門公爵家のロベルトと結ばれることなんてありもしない絵空事だ。
二人がそんな甘々な絵空事を語りながらもは次々と進んでいく。

「マーガレット、君が婚約者だったらよかったのに」
じゃあ私とさっさと婚約破棄して頂戴。

「マーガレット、僕が愛しているのは君だけなんだ」
マーガレットを愛しているから私を陥れたっていうの?

ロベルト、貴方は不貞をしながらも私に白々しく、愛の言葉を囁いていたのね。
それを信じ切っていた私も馬鹿だわ。

フレイアの目は完全に冷めていた。
ロベルトへの愛情全てが嫌悪感に変わったかのように。

ロベルトがフレイアを陥れた理由は彼女の想像していた何倍も馬鹿らしいものだった。
公爵令嬢のフレイアとは婚約破棄することが許されない。マーガレットと結ばれたいから、邪魔者のフレイアを消す。

なんて単純で馬鹿な思考なのかしら。

フレイアは自分の婚約者の想像以上の浅はかさに呆れを覚えた。フレイアの記憶上、ロベルトはもう少し聡明な男だったはずだ。いっときの恋情で婚約者を陥れないほどには。

マーガレット・ロベリア男爵令嬢。
彼女のことも調べる必要がありそうね。

フレイアは鋭い視線をマーガレットの写真に向けた。

マーガレットはまん丸な桃色の瞳でロベルトを捉え、笑っていた。



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