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三章:貴方に報復を sideマーガレット
しあわせの崩壊
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「マーガレットは幸せになりなね」
それが私の双子の姉、ローズマリーの口癖だった。
──
ベッドの上から姉様が身を乗り出し、チョコレートの入った箱を差し出す。
「ねえ、マーガレット!何食べる?」
姉様の飄々とした姿に思わず苦笑する。
病に侵されている者の姿とは到底思えない。
姉様は、生まれた時から病弱で持病を持っていた。それに反して健康体である私と違い、性格は活発なのだけれど。
勉強面においても、芸術的な面においても姉様は私より上だ。それに対して羨ましいという思いが芽生えないでもなかったが、私は姉様が大好きだ。
「どれでも良いよ。姉様が先に選んで」
「私の妹は本当に無欲だねー」
姉様が私の頭を撫でてから、口にチョコレートを押し込む。あまりの甘さに少しむせた。
「このチョコレートもあの人に頂いたの?」
「そうなの!」
姉様の顔色が少し明るくなる。姉様には両想いの相手がいる、らしい。
「サファイアみたいな瞳で……」
「はいはい」
姉様の惚気は嫌というほど聞いている。相手は随分前にお茶会で会った公爵家の令息で、体調が良い時に時々こっそり会いに行っているみたいだ。
「お父様たちには内緒だよ」
姉様は人差し指を唇に当てて、微笑む。
両親は私達にいい意味でも悪い意味でも興味がない。二人は政略結婚で愛を育むことなく私達を産み、何かあると外聞が悪いから仕方なく育てている、といった感じだ。私達の元にたまに来ては何で丈夫な子に生まれてこなかったの、だとか元気に生まれた私が役立たず、だとかヒステリックに叫ぶ人という印象しか持っていない。
苦めだと予想したチョコレートを箱から頂戴し、一粒頬張る。
「マーガレットは幸せになりなね」
姉様がどこか遠くを眺めて言った。
「……、十分幸せだよ」
ローズマリーがいるだけで。
そう言おうとして、恥ずかしくて、やめた。
それから何ヶ月か経ち、姉様の容態も良くなっていった。医者も奇跡の回復だと驚いていた。
「マーガレット、見て」
姉様は若草色の花を模した髪飾りを付けて、くるりと一周回って見せた。
「姉様、似合ってるわ」
パチパチ、と手を鳴らす。
相手に贈って貰ったようだ。マーガレットにも似合いそう、と私にもその髪飾りを付けようとするがすっと避ける。
「お洒落とかは興味ないの」
「折角可愛いのに、勿体無い」
最近は魔毒の研究に凝っている。自分がわからないことを解き明かすのは、楽しい。
そうだ、と姉様が手を小さく叩いた。紅茶の瓶を差し出す。
「マーガレットはお上品だから、紅茶が喜ぶかなと思って」
姉様は冗談めかした調子で笑う。
紅茶は大好物なので、喜んで受け取っておいた。
それは、突き刺すような雨が降った日のことだった。
「マーガレット様!ローズマリー様が!」
一人の侍女が書庫に駆け込み、叫んだ。
急いで姉様の自室に行き、姉様の容態を見る。
姉様は誰がどう見ても、手遅れだった。顔は真っ青になって小刻みに震えており、手はひんやりと冷たかった。
姉様は屋敷の玄関で倒れていたらしい。
こんな時になっても来ない両親を思って思わず唇を噛んだ。
姉様付きの医者はゆっくりと頭を振り、悲しげな声を漏らした。
「持病が突然悪化したようで……」
頭がまっしろになった。
そして咄嗟に姉様に魔法をかけようとした。
私の魔法は、他人の夢に干渉する事ができる。
使い道は二つあって、一つはその人に起こった直近の出来事を見る事ができる、というものだ。そしてもう一つは他人に自分の作った夢を見せることができるというもので、夢を見ている間、その人間はもぬけの殻になって老いることも死ぬこともない。
私がかけようとしたのは、勿論後者だ。
抜け殻でもいいから、姉様に生きていて欲しい。その一心だった。
かけようとした、その時。
「いいよ、使わないで」
か細い、小さな声が私を刺した。
姉様は、微かに笑いながら私の小指に自分の小指を絡ませた。
「マー、ガレット、しあわせ、なって」
そのまま、姉様は一言も喋らなくなった。
嫌だ、ねえ、置いてかないで。そばに居て。
なんで私の魔法は自分に使えないんだろうか。使えたら姉様と一生一緒にいられるのに。
私の“しあわせ”は壊れてしまった。
それが私の双子の姉、ローズマリーの口癖だった。
──
ベッドの上から姉様が身を乗り出し、チョコレートの入った箱を差し出す。
「ねえ、マーガレット!何食べる?」
姉様の飄々とした姿に思わず苦笑する。
病に侵されている者の姿とは到底思えない。
姉様は、生まれた時から病弱で持病を持っていた。それに反して健康体である私と違い、性格は活発なのだけれど。
勉強面においても、芸術的な面においても姉様は私より上だ。それに対して羨ましいという思いが芽生えないでもなかったが、私は姉様が大好きだ。
「どれでも良いよ。姉様が先に選んで」
「私の妹は本当に無欲だねー」
姉様が私の頭を撫でてから、口にチョコレートを押し込む。あまりの甘さに少しむせた。
「このチョコレートもあの人に頂いたの?」
「そうなの!」
姉様の顔色が少し明るくなる。姉様には両想いの相手がいる、らしい。
「サファイアみたいな瞳で……」
「はいはい」
姉様の惚気は嫌というほど聞いている。相手は随分前にお茶会で会った公爵家の令息で、体調が良い時に時々こっそり会いに行っているみたいだ。
「お父様たちには内緒だよ」
姉様は人差し指を唇に当てて、微笑む。
両親は私達にいい意味でも悪い意味でも興味がない。二人は政略結婚で愛を育むことなく私達を産み、何かあると外聞が悪いから仕方なく育てている、といった感じだ。私達の元にたまに来ては何で丈夫な子に生まれてこなかったの、だとか元気に生まれた私が役立たず、だとかヒステリックに叫ぶ人という印象しか持っていない。
苦めだと予想したチョコレートを箱から頂戴し、一粒頬張る。
「マーガレットは幸せになりなね」
姉様がどこか遠くを眺めて言った。
「……、十分幸せだよ」
ローズマリーがいるだけで。
そう言おうとして、恥ずかしくて、やめた。
それから何ヶ月か経ち、姉様の容態も良くなっていった。医者も奇跡の回復だと驚いていた。
「マーガレット、見て」
姉様は若草色の花を模した髪飾りを付けて、くるりと一周回って見せた。
「姉様、似合ってるわ」
パチパチ、と手を鳴らす。
相手に贈って貰ったようだ。マーガレットにも似合いそう、と私にもその髪飾りを付けようとするがすっと避ける。
「お洒落とかは興味ないの」
「折角可愛いのに、勿体無い」
最近は魔毒の研究に凝っている。自分がわからないことを解き明かすのは、楽しい。
そうだ、と姉様が手を小さく叩いた。紅茶の瓶を差し出す。
「マーガレットはお上品だから、紅茶が喜ぶかなと思って」
姉様は冗談めかした調子で笑う。
紅茶は大好物なので、喜んで受け取っておいた。
それは、突き刺すような雨が降った日のことだった。
「マーガレット様!ローズマリー様が!」
一人の侍女が書庫に駆け込み、叫んだ。
急いで姉様の自室に行き、姉様の容態を見る。
姉様は誰がどう見ても、手遅れだった。顔は真っ青になって小刻みに震えており、手はひんやりと冷たかった。
姉様は屋敷の玄関で倒れていたらしい。
こんな時になっても来ない両親を思って思わず唇を噛んだ。
姉様付きの医者はゆっくりと頭を振り、悲しげな声を漏らした。
「持病が突然悪化したようで……」
頭がまっしろになった。
そして咄嗟に姉様に魔法をかけようとした。
私の魔法は、他人の夢に干渉する事ができる。
使い道は二つあって、一つはその人に起こった直近の出来事を見る事ができる、というものだ。そしてもう一つは他人に自分の作った夢を見せることができるというもので、夢を見ている間、その人間はもぬけの殻になって老いることも死ぬこともない。
私がかけようとしたのは、勿論後者だ。
抜け殻でもいいから、姉様に生きていて欲しい。その一心だった。
かけようとした、その時。
「いいよ、使わないで」
か細い、小さな声が私を刺した。
姉様は、微かに笑いながら私の小指に自分の小指を絡ませた。
「マー、ガレット、しあわせ、なって」
そのまま、姉様は一言も喋らなくなった。
嫌だ、ねえ、置いてかないで。そばに居て。
なんで私の魔法は自分に使えないんだろうか。使えたら姉様と一生一緒にいられるのに。
私の“しあわせ”は壊れてしまった。
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