4 / 7
4章
接続不能の夜
しおりを挟む
夜京の夜は、今日もまた闇が濃い。 朝比奈奏は、夢の残滓を引きずったまま、現実の床にうずくまっていた。
あの少女──ユメ。 九条のかつての恋人、“真白”と瓜二つの幻影。 彼女は自分の名前を知っていた。九条の記憶が、自分の中で目を覚まそうとしている。
「……僕の中に、誰かがいる」
冷たい汗が背中を伝う。身体は重く、手足の感覚も薄れていた。 現実の感覚が、ぼんやりと滲む。
──まさか、まだ夢の中?
思考が混濁していた。
そこに九条からのメッセージが届く。
『今夜は一人で潜るな。状態が不安定だ。』
だが奏は、それに返信しなかった。
自分が壊れかけていることを、誰かに告げるのが怖かった。
ソムニアのケーブルが、再び彼の首元を這う。 意識が沈む。もう一度、確かめたい。 “自分の中の真実”を。
◆
夢の中。 そこは見知らぬ図書館だった。 無数の本棚が並び、空間はどこまでも続いていた。 ページをめくる音だけが響く。
そこに、少女がいた。
「また来たのね、奏くん」
ユメ──いや、“真白”の幻。
「どうして、僕の中にいる?」
「わたしじゃないよ。あなたの中に、“礼の記憶”がいるだけ」
「記憶……?」
「あなたはね、奏くん。“器”なの。礼が大事にしていたものを閉じ込めておける、特別な器」
その声に、恐怖が走った。 自分の“輪郭”が崩れていく。自我が、他人の感情に浸食されていく。
「やめてくれ……僕は、僕だ……」
叫んだ。 けれど視界は揺れ、床が崩れ、本棚が倒れ、自分という存在が剥がれていく。
◆
その時──
「奏!」
九条の声が響いた。 夢の奥に、彼が飛び込んできた。
「馬鹿が……ひとりで潜るなと、言っただろう」
その声に、涙が溢れた。
「先生……僕、怖いんです……自分じゃない誰かになってしまいそうで……」
九条は無言で奏の手を取り、強く抱きしめた。 その腕の力が、現実よりもずっと強く感じられた。
「大丈夫だ。お前は、朝比奈奏だ。それ以外の何者でもない」
ユメが遠くで笑った。
「礼……また、誰かを守ろうとしてる。壊れてるのは、あなたのほうなのに」
彼女の姿が霧のように溶けていく。
◆
目を覚ましたとき、奏は九条の膝枕で横たわっていた。 額には冷たいタオル。九条の手が彼の頬をなぞる。
「……すまなかった」
「え?」
「お前を巻き込んでいる。俺の過去が……まだ終わっていない」
「いいんです。僕は、先生の過去ごと、見ていたい」
その言葉に、九条の瞳が揺れた。 長い沈黙のあと、彼は初めて素直に笑った。
「なら、お前にも責任を取ってもらうぞ。最後まで、一緒に見届けるんだ」
夢と現実の間で、ようやく交わされた“約束”だった。
あの少女──ユメ。 九条のかつての恋人、“真白”と瓜二つの幻影。 彼女は自分の名前を知っていた。九条の記憶が、自分の中で目を覚まそうとしている。
「……僕の中に、誰かがいる」
冷たい汗が背中を伝う。身体は重く、手足の感覚も薄れていた。 現実の感覚が、ぼんやりと滲む。
──まさか、まだ夢の中?
思考が混濁していた。
そこに九条からのメッセージが届く。
『今夜は一人で潜るな。状態が不安定だ。』
だが奏は、それに返信しなかった。
自分が壊れかけていることを、誰かに告げるのが怖かった。
ソムニアのケーブルが、再び彼の首元を這う。 意識が沈む。もう一度、確かめたい。 “自分の中の真実”を。
◆
夢の中。 そこは見知らぬ図書館だった。 無数の本棚が並び、空間はどこまでも続いていた。 ページをめくる音だけが響く。
そこに、少女がいた。
「また来たのね、奏くん」
ユメ──いや、“真白”の幻。
「どうして、僕の中にいる?」
「わたしじゃないよ。あなたの中に、“礼の記憶”がいるだけ」
「記憶……?」
「あなたはね、奏くん。“器”なの。礼が大事にしていたものを閉じ込めておける、特別な器」
その声に、恐怖が走った。 自分の“輪郭”が崩れていく。自我が、他人の感情に浸食されていく。
「やめてくれ……僕は、僕だ……」
叫んだ。 けれど視界は揺れ、床が崩れ、本棚が倒れ、自分という存在が剥がれていく。
◆
その時──
「奏!」
九条の声が響いた。 夢の奥に、彼が飛び込んできた。
「馬鹿が……ひとりで潜るなと、言っただろう」
その声に、涙が溢れた。
「先生……僕、怖いんです……自分じゃない誰かになってしまいそうで……」
九条は無言で奏の手を取り、強く抱きしめた。 その腕の力が、現実よりもずっと強く感じられた。
「大丈夫だ。お前は、朝比奈奏だ。それ以外の何者でもない」
ユメが遠くで笑った。
「礼……また、誰かを守ろうとしてる。壊れてるのは、あなたのほうなのに」
彼女の姿が霧のように溶けていく。
◆
目を覚ましたとき、奏は九条の膝枕で横たわっていた。 額には冷たいタオル。九条の手が彼の頬をなぞる。
「……すまなかった」
「え?」
「お前を巻き込んでいる。俺の過去が……まだ終わっていない」
「いいんです。僕は、先生の過去ごと、見ていたい」
その言葉に、九条の瞳が揺れた。 長い沈黙のあと、彼は初めて素直に笑った。
「なら、お前にも責任を取ってもらうぞ。最後まで、一緒に見届けるんだ」
夢と現実の間で、ようやく交わされた“約束”だった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる