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名前を知らない君と
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“ただいま~”
“あ、まだそっちは部活中かな? オレは帰宅部だから気にしてなかったや”
赤く染まった陽の光が影を伸ばす中、校舎を出てスマホを見ると、そんな文字がチャットに並んでいた。
“こっちは今から帰り”
短い文を打ち込んで、送信する。
チャット相手は流石に帰るのが早い。
送られてきていたチャット横の時刻を見ると、一時間以上前になっていた。
“あ、お疲れ様!”
“気を付けて帰ってね”
“ありがとう。気を付けて帰るよ”
スマホをカバンのポケットに戻して、赤い夕焼けを背に自転車にまたがった。
***
「ただいま、お母さん」
「おかえり~」
家に帰り着いてすぐ、母親に帰宅の挨拶を済ませて自室に直行した私は、チャット画面を開いた。
窓の外は、既に陽が沈み暗くなっている。
“ただいま”
椅子の上にカバンを置いて、制服から着替える。
窓を開ければ、心地よい風が前髪を撫でた。
“お。おかえり~。そっちは電車通学?”
ピロン、と机の上に置いたスマホが音を立てて、すぐに返信が返ってきた。
それなりに帰宅に時間が掛かっていたからか、そんな質問も飛んでくる。
“いや、自転車。だから帰り途中にスマホ触っていられない”
“なるほど。オレは歩きだよ、近いから”
ポンポンと朝の警戒を無くした言葉が返ってきて、思わず口が笑みを形作る。
“そうか。近いのは良いな”
“うん。っていうか、近いからこの学校にしたんだけど”
極力 力が抜ける所は抜いている普段の藤田が想像できて、納得してしまった。
今日の授業中も、しっかり眠っていたその姿を思い出す。
“それにしては、睡眠時間が足りてないんじゃないか?”
“君は授業中、寝過ぎだぞ?”
“あー、授業全然ついてけなくて寝ちゃうんだよな……”
“まあ、今日は本当に寝不足だったけど”
寝不足、と聞いて眉を寄せる。
昨日の事もあるし、悩み事だろうか。
“悩みがあるなら、聞こうか?”
送信の後、すぐに返ってきていた返事が止まる。
(聞いてはいけない事だったか……?)
でも、それを聞くために、匿名でもチャットをしようと手紙を書いたのに。
やはり迷惑だったのか、と考え始めた頃。
ピロン
暗く落ちてた画面が、通知音と共に明るくなった。
慌てて通知をタップして、チャットを表示させる。
“昨日寝るのが遅くなったのは、君にフレンド申請を送るかどうか悩んでたから”
“君が悪いわけじゃないけど、イタズラなのか判断が付かなかったんだ”
悩みのタネを増やしてしまった、と自分を責める言葉が頭を巡る。
だけど、「君が悪いわけじゃない」という言葉に救われて。
“そうか……。悩ませたならゴメン”
“でも手紙に書いたのは本心だから”
許して欲しいと願って、スマホを額に付けた。
***
“そうか……。悩ませたならゴメン”
“でも手紙に書いたのは本心だから”
そんな返信が来て、俺はそっと机に置いていた手紙を持ち上げた。
(ここに、この人の気持ちが乗ってる)
じんわりと、胸が温かくなる。
柔らかな風が頬を撫で、俺の髪を揺らす。
“謝らないで”
“嬉しかったんだ。俺を気にしてくれる人がいるんだ、って”
感謝の気持ちを伝えたくて、でも直接言えないのがもどかしい。
“……なあ、やっぱり名前教えてくれないのか?”
思わずそんな文を送ってしまう。
責めたいわけじゃないのに。
“知りたいの?”
“君が思うような人じゃないかも知れないのに”
返された言葉に不安が滲み出てて、どうしてだろう、と思う。
“そんな事ないんじゃない?”
“いや、私はあまり人に好かれる事がないって、自分でよく分かってる”
優しい人のはずなのに、好かれない、と言うのが寂しくて、悔しくて。
スマホを握る手に力がこもる。
“じゃあ、君のことを教えてよ”
“それで君を見つける”
“君が誰でも、嫌だとは言わないから”
少し恥ずかしい言葉な気もしたけど、その人の不安を拭い去りたくて。
“——ありがとう”
“じゃあヒントだけ出すから、君に当てて欲しい”
伝わったことに、安堵の息を漏らした。
“あ、まだそっちは部活中かな? オレは帰宅部だから気にしてなかったや”
赤く染まった陽の光が影を伸ばす中、校舎を出てスマホを見ると、そんな文字がチャットに並んでいた。
“こっちは今から帰り”
短い文を打ち込んで、送信する。
チャット相手は流石に帰るのが早い。
送られてきていたチャット横の時刻を見ると、一時間以上前になっていた。
“あ、お疲れ様!”
“気を付けて帰ってね”
“ありがとう。気を付けて帰るよ”
スマホをカバンのポケットに戻して、赤い夕焼けを背に自転車にまたがった。
***
「ただいま、お母さん」
「おかえり~」
家に帰り着いてすぐ、母親に帰宅の挨拶を済ませて自室に直行した私は、チャット画面を開いた。
窓の外は、既に陽が沈み暗くなっている。
“ただいま”
椅子の上にカバンを置いて、制服から着替える。
窓を開ければ、心地よい風が前髪を撫でた。
“お。おかえり~。そっちは電車通学?”
ピロン、と机の上に置いたスマホが音を立てて、すぐに返信が返ってきた。
それなりに帰宅に時間が掛かっていたからか、そんな質問も飛んでくる。
“いや、自転車。だから帰り途中にスマホ触っていられない”
“なるほど。オレは歩きだよ、近いから”
ポンポンと朝の警戒を無くした言葉が返ってきて、思わず口が笑みを形作る。
“そうか。近いのは良いな”
“うん。っていうか、近いからこの学校にしたんだけど”
極力 力が抜ける所は抜いている普段の藤田が想像できて、納得してしまった。
今日の授業中も、しっかり眠っていたその姿を思い出す。
“それにしては、睡眠時間が足りてないんじゃないか?”
“君は授業中、寝過ぎだぞ?”
“あー、授業全然ついてけなくて寝ちゃうんだよな……”
“まあ、今日は本当に寝不足だったけど”
寝不足、と聞いて眉を寄せる。
昨日の事もあるし、悩み事だろうか。
“悩みがあるなら、聞こうか?”
送信の後、すぐに返ってきていた返事が止まる。
(聞いてはいけない事だったか……?)
でも、それを聞くために、匿名でもチャットをしようと手紙を書いたのに。
やはり迷惑だったのか、と考え始めた頃。
ピロン
暗く落ちてた画面が、通知音と共に明るくなった。
慌てて通知をタップして、チャットを表示させる。
“昨日寝るのが遅くなったのは、君にフレンド申請を送るかどうか悩んでたから”
“君が悪いわけじゃないけど、イタズラなのか判断が付かなかったんだ”
悩みのタネを増やしてしまった、と自分を責める言葉が頭を巡る。
だけど、「君が悪いわけじゃない」という言葉に救われて。
“そうか……。悩ませたならゴメン”
“でも手紙に書いたのは本心だから”
許して欲しいと願って、スマホを額に付けた。
***
“そうか……。悩ませたならゴメン”
“でも手紙に書いたのは本心だから”
そんな返信が来て、俺はそっと机に置いていた手紙を持ち上げた。
(ここに、この人の気持ちが乗ってる)
じんわりと、胸が温かくなる。
柔らかな風が頬を撫で、俺の髪を揺らす。
“謝らないで”
“嬉しかったんだ。俺を気にしてくれる人がいるんだ、って”
感謝の気持ちを伝えたくて、でも直接言えないのがもどかしい。
“……なあ、やっぱり名前教えてくれないのか?”
思わずそんな文を送ってしまう。
責めたいわけじゃないのに。
“知りたいの?”
“君が思うような人じゃないかも知れないのに”
返された言葉に不安が滲み出てて、どうしてだろう、と思う。
“そんな事ないんじゃない?”
“いや、私はあまり人に好かれる事がないって、自分でよく分かってる”
優しい人のはずなのに、好かれない、と言うのが寂しくて、悔しくて。
スマホを握る手に力がこもる。
“じゃあ、君のことを教えてよ”
“それで君を見つける”
“君が誰でも、嫌だとは言わないから”
少し恥ずかしい言葉な気もしたけど、その人の不安を拭い去りたくて。
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