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母、佳奈の観察
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母さんが夕食に連れて来ると言った母さんの友人の娘さんは、クラスメイトの田嶋さんだった。
食卓ではそれなりに会話も弾んで、母さんと田嶋さんの母親の関係を聞いたりしたけど、終始母さんは笑顔で、田嶋さんは苦笑いを浮かべていた。
「あっ、そうだ! 薫ちゃん、ちょっと空の勉強見て貰えないかしら?」
母さんの言葉に、田嶋さんは迷わず頷いたけど、俺は勢い良く首を振った。
「そ、そんな悪いって! 田嶋さんも家に帰って宿題しなきゃいけないだろうし…」
「私の宿題はあと少しすれば終わるよ。藤田はせめて五時間は机にかじり付かないと終わらないでしょ? それに、私が教えながらやった方が、早く片付くよ」
「そ、そりゃ田嶋さんに手伝ってもらえれば、ありがたいけど…」
「なら気にしないで。これは夕ご飯をご馳走になったお礼だから」
結局押しに負けた俺は彼女に宿題を見てもらうことになり、帰りが遅くなるだろう田嶋さんは一晩泊まって行く事になった。
「そういや田嶋さん、着替えは持って来てるの?」
「うん。母さんから聞いてた通り、佳奈さんはお節介焼きだって分かったから……ご飯食べてくなら泊まってけって話になると思ったからね」
この時、どうやら彼女は他の人の感情の機微に聡いらしいと知った。
***
食事していたテーブルを片付けて、向かい合うようにして座る二人は、静かに宿題に取りかかっていた。
その横で私——藤田佳奈は、静かに本を読む。
けど沈黙は長く続かず、本日何度目かになる空の質問によって、静けさは破られた。
「ねぇ、ここなんだけどさ……」
「ああここか。ここはこの文法を使って……」
「そ、そっかなるほど! ありがとう!」
「うん。じゃあまた分からなくなったら言って」
教えるために薫ちゃんから近づいた距離に、空の顔が少し赤くなる。
(ふふ、照れてるわね……)
薫ちゃんは根気良く理解出来る様に解説して教えている。
私はダメね。先に答えを教えちゃいそうになる。だから私は、勉強を教えることに向いていない。
それに比べ、薫ちゃんは勉強を教えるのが上手い。相手が理解出来る様に噛み砕いて説明するし、答えを教える訳でなく、ゴールに導いていく感じ。
——それに、なんだか空の勉強の仕方を良く分かってるみたい。
ふと。
本から顔を上げて、二人の進み具合を見る。
薫ちゃんはすでに宿題を終わらせ、空はその半分ほどを終わらせた所だった。
「薫ちゃん、空に勉強を教えるのは今回が初めて?」
「……そうですよ? 何かありましたか?」
「………いや、何でもないわ」
気にしないで、と言外に言って本に視線を戻すと、少々訝しみながらも薫ちゃんは予習を始めた。
(空と薫ちゃんが初めて話したのは最近だって二人は言ってたわよね。…でも、それなら何で、薫ちゃんは空に合った勉強法が分かるのかしら?)
空のぎこちないやり取りは、親の目から見ても薫ちゃんと話すのに慣れていない感じがした。なのに時々、ふとその口調が柔らかくなる。
一方で、薫ちゃんは何か、時々何か言いた気に開いた口を閉じては黙る事を繰り返していて、距離を測りかねている感じだった。
(まだ私が知らない何かが、二人の間にある……。何を隠しているのかしら?)
そして、絶対だと自信を持って言えること。
(おもしろい話が出てきそうよね)
私はこれから、この二人を注意深く見ていこうと決めた。
食卓ではそれなりに会話も弾んで、母さんと田嶋さんの母親の関係を聞いたりしたけど、終始母さんは笑顔で、田嶋さんは苦笑いを浮かべていた。
「あっ、そうだ! 薫ちゃん、ちょっと空の勉強見て貰えないかしら?」
母さんの言葉に、田嶋さんは迷わず頷いたけど、俺は勢い良く首を振った。
「そ、そんな悪いって! 田嶋さんも家に帰って宿題しなきゃいけないだろうし…」
「私の宿題はあと少しすれば終わるよ。藤田はせめて五時間は机にかじり付かないと終わらないでしょ? それに、私が教えながらやった方が、早く片付くよ」
「そ、そりゃ田嶋さんに手伝ってもらえれば、ありがたいけど…」
「なら気にしないで。これは夕ご飯をご馳走になったお礼だから」
結局押しに負けた俺は彼女に宿題を見てもらうことになり、帰りが遅くなるだろう田嶋さんは一晩泊まって行く事になった。
「そういや田嶋さん、着替えは持って来てるの?」
「うん。母さんから聞いてた通り、佳奈さんはお節介焼きだって分かったから……ご飯食べてくなら泊まってけって話になると思ったからね」
この時、どうやら彼女は他の人の感情の機微に聡いらしいと知った。
***
食事していたテーブルを片付けて、向かい合うようにして座る二人は、静かに宿題に取りかかっていた。
その横で私——藤田佳奈は、静かに本を読む。
けど沈黙は長く続かず、本日何度目かになる空の質問によって、静けさは破られた。
「ねぇ、ここなんだけどさ……」
「ああここか。ここはこの文法を使って……」
「そ、そっかなるほど! ありがとう!」
「うん。じゃあまた分からなくなったら言って」
教えるために薫ちゃんから近づいた距離に、空の顔が少し赤くなる。
(ふふ、照れてるわね……)
薫ちゃんは根気良く理解出来る様に解説して教えている。
私はダメね。先に答えを教えちゃいそうになる。だから私は、勉強を教えることに向いていない。
それに比べ、薫ちゃんは勉強を教えるのが上手い。相手が理解出来る様に噛み砕いて説明するし、答えを教える訳でなく、ゴールに導いていく感じ。
——それに、なんだか空の勉強の仕方を良く分かってるみたい。
ふと。
本から顔を上げて、二人の進み具合を見る。
薫ちゃんはすでに宿題を終わらせ、空はその半分ほどを終わらせた所だった。
「薫ちゃん、空に勉強を教えるのは今回が初めて?」
「……そうですよ? 何かありましたか?」
「………いや、何でもないわ」
気にしないで、と言外に言って本に視線を戻すと、少々訝しみながらも薫ちゃんは予習を始めた。
(空と薫ちゃんが初めて話したのは最近だって二人は言ってたわよね。…でも、それなら何で、薫ちゃんは空に合った勉強法が分かるのかしら?)
空のぎこちないやり取りは、親の目から見ても薫ちゃんと話すのに慣れていない感じがした。なのに時々、ふとその口調が柔らかくなる。
一方で、薫ちゃんは何か、時々何か言いた気に開いた口を閉じては黙る事を繰り返していて、距離を測りかねている感じだった。
(まだ私が知らない何かが、二人の間にある……。何を隠しているのかしら?)
そして、絶対だと自信を持って言えること。
(おもしろい話が出てきそうよね)
私はこれから、この二人を注意深く見ていこうと決めた。
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