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春日と“気晴らし”探し
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「——さて春日、今日は何するか、私のプランで良いんだよね?」
「おう!」
土曜日。
私と春日の二人は駅前に集合していた。
互いに見慣れぬ私服姿。
でも別に異性として意識している訳でもないので、そんな所には触れない。
今、問題があるとすれば、それは今日の予定のことだった。
「大体、最初から何をするかって目的がある訳でもなく、ただ“遊ぶ”って言われると困るんだけど。春日はいつも、休日は何してるの?」
「休みの日か? オレは大体、部活かバッティングセンターだな。後は家でゲームしてたりダチん家行ったり」
「………聞いた私がバカだった」
彼の大半は、野球で出来ているようだ。
今日は彼に、野球ではない物にも目を向けさせるのが目的。それとは関係ないルートにしよう。
「そうだな…。ありきたりだけど、映画にでも行こうか。それから昼食は喫茶店で軽く。その後は本屋。まあ、それだけだと春日はつまらないかも知れないから、ゲームセンター行って終わり。こんな所でどう?」
少々私の好みにばかり沿っている気もするけど、それ以外に思い浮かばなかった。
「んー。まあ良いんじゃねーか? 俺が行かないような所ばっかだけど、その方が良いんだろ?」
「うん。いつも行ってる場所に行っても、新しいことを始めることはできないから」
「んじゃ決定だな!」
早速二人で映画館へと向かう。
「そっちは部活、忙しいのか?」
「文化部でも夏休みは大会あるからね。今はその準備中。そっちこそ、大会、頑張ってね」
「おう!」
しばらくそうして話していれば、私達は目的地に着いた。
「——んで、何の映画観るんだ?」
「そうね……」
公開中の映画一覧を見て、一つのタイトルに絞る。
「じゃあコレで」
「ん、これならオレも楽しめそうだな!」
その後は二人、それぞれ飲み物とポップコーンを買って上映室に入った。
——ポップコーンは、食べたいんじゃなくて、“映画館のお約束”だと思ってる。
選んだ映画はアクション物。
ミステリー系を選ぶ事が多い私の趣味ではなく、春日の好みに合わせた形だ。
今上映中の物でホラーやコテコテの恋愛物があったが、それは端から除外した。ホラーはともかく、最後のは私にしろ春日にしろ、この二人で観たいなんて絶対思わない。
——ホラーは、ただ私が苦手なだけだではあるが。
二時間程の上映時間を経て、私のおすすめの喫茶店に向かう事にする。
「この映画、けっこう面白かったな!」
「そうだね」
消去法で選んだけど、意外と当たりだった映画は楽しかった。
映画の話ならチャットで藤田とも話せるかな、と話題ができた事に嬉しくなる。
「春日はどこが面白かった?」
「ライバルが主人公にバコーンって飛ばされた所だな。スカッとしたぜ!」
「……うん。春日に感想を求めたのが間違いだった」
主人公に殴られ飛ばされたライバルではないけれど。春日の映画感想を聞いた私の頭も、彼の言葉によって殴られたみたいだった。
せっかく一緒に見たのに感覚が違い過ぎて、喫茶店でしようと思っていた彼との感想戦は、無理かも知れない。
「ここが田嶋の言ってた店か?」
「ええ。中々落ち着ける場所でしょう」
「何つーか、こう……古そうな建物だな!」
「……そこはせめて、レトロって言って欲しかったな」
決して真新しさがあるワケではないけれど、小ざっぱりとした店内は木造らしく、照明も温かみの感じられる色合いだ。
「んで、田嶋は何頼むんだ?」
「そうだなぁ。ここは珍しく、紅茶の種類も豊富なんだ。今の気分だと……オレンジペコだな」
「……それ、昼メシじゃねーと思う」
春日に苦笑され、「分かってるけど」と少しムッとして言いつつ、机の端に立ててあったメニューの一つを選ぶ。
「私はそんなにお腹空いてる訳じゃないし、サンドイッチにするよ。春日はどうするの? 注文決まったなら店員呼ぶけど」
「んじゃ、俺はオムライスで」
「了解」
近くに居た従業員を呼び、注文したい品名を教えれば再度注文表が読み上げられる。間違いもなかったので「それで良い」と答え、去って行った所で春日が質問を投げ掛けてきた。
「田嶋。この前、藤田ン家行ったって聞いたんだけど」
「ああ……、母親同士が昔からの知り合いでね。その縁で」
此処も、佳奈さんが「紅茶付きの私に合うんじゃない?」と勧めてくれた事で知った店だ。
今では私の方が常連になってしまっているけど、佳奈さんも光宏さんと夫婦で来たりするらしい。
「藤田とも友達になったんだろ? 良かったな!」
「そ、だね。うん、ありがとう」
春日は友人の居なかった私を心配して、遊びに誘ってくれたのか。
最初から拒否の姿勢で居たのは良く無かったかな、と内省した。
カランカラーン
入り口のドアに付けられたベルが、軽快に音を鳴らす。
「いらっしゃい。……おや、誰かと思ったら」
聞こえてきたマスターの声から察するに、今来たのはどうやら常連客みたいだった。
知ってる人だろうか、と思った所で。
「久しぶりだな。ここは変わらなくて安心するぜ」
「っ、熱!」
聞き覚えのある、でも予想してなかった声が返事をして。丁度マスターの奥さんが置いてくれたカップを、驚いて動かした手で倒してしまった。
「大丈夫か?!」
「だ、大丈夫? 薫ちゃん、今氷持ってくるわね!」
いくら顔は見えないとはいえ、狭い店内なので彼らにも聴こえてしまっただろう。それを裏付けるように、先ほどの驚きの元凶から声がかかった。
「薫…? そこにいるのはもしかして、田嶋薫ちゃんか?」
——今、藤田は居ない。
やって来た彼は、その父親だった。
クラスメイトの男子と二人。
そんな中で、好奇心に目を光らせた彼の視線を逃れられるのか。
手の痛みをこらえながら、漠然とそんな事を考えた。
「おう!」
土曜日。
私と春日の二人は駅前に集合していた。
互いに見慣れぬ私服姿。
でも別に異性として意識している訳でもないので、そんな所には触れない。
今、問題があるとすれば、それは今日の予定のことだった。
「大体、最初から何をするかって目的がある訳でもなく、ただ“遊ぶ”って言われると困るんだけど。春日はいつも、休日は何してるの?」
「休みの日か? オレは大体、部活かバッティングセンターだな。後は家でゲームしてたりダチん家行ったり」
「………聞いた私がバカだった」
彼の大半は、野球で出来ているようだ。
今日は彼に、野球ではない物にも目を向けさせるのが目的。それとは関係ないルートにしよう。
「そうだな…。ありきたりだけど、映画にでも行こうか。それから昼食は喫茶店で軽く。その後は本屋。まあ、それだけだと春日はつまらないかも知れないから、ゲームセンター行って終わり。こんな所でどう?」
少々私の好みにばかり沿っている気もするけど、それ以外に思い浮かばなかった。
「んー。まあ良いんじゃねーか? 俺が行かないような所ばっかだけど、その方が良いんだろ?」
「うん。いつも行ってる場所に行っても、新しいことを始めることはできないから」
「んじゃ決定だな!」
早速二人で映画館へと向かう。
「そっちは部活、忙しいのか?」
「文化部でも夏休みは大会あるからね。今はその準備中。そっちこそ、大会、頑張ってね」
「おう!」
しばらくそうして話していれば、私達は目的地に着いた。
「——んで、何の映画観るんだ?」
「そうね……」
公開中の映画一覧を見て、一つのタイトルに絞る。
「じゃあコレで」
「ん、これならオレも楽しめそうだな!」
その後は二人、それぞれ飲み物とポップコーンを買って上映室に入った。
——ポップコーンは、食べたいんじゃなくて、“映画館のお約束”だと思ってる。
選んだ映画はアクション物。
ミステリー系を選ぶ事が多い私の趣味ではなく、春日の好みに合わせた形だ。
今上映中の物でホラーやコテコテの恋愛物があったが、それは端から除外した。ホラーはともかく、最後のは私にしろ春日にしろ、この二人で観たいなんて絶対思わない。
——ホラーは、ただ私が苦手なだけだではあるが。
二時間程の上映時間を経て、私のおすすめの喫茶店に向かう事にする。
「この映画、けっこう面白かったな!」
「そうだね」
消去法で選んだけど、意外と当たりだった映画は楽しかった。
映画の話ならチャットで藤田とも話せるかな、と話題ができた事に嬉しくなる。
「春日はどこが面白かった?」
「ライバルが主人公にバコーンって飛ばされた所だな。スカッとしたぜ!」
「……うん。春日に感想を求めたのが間違いだった」
主人公に殴られ飛ばされたライバルではないけれど。春日の映画感想を聞いた私の頭も、彼の言葉によって殴られたみたいだった。
せっかく一緒に見たのに感覚が違い過ぎて、喫茶店でしようと思っていた彼との感想戦は、無理かも知れない。
「ここが田嶋の言ってた店か?」
「ええ。中々落ち着ける場所でしょう」
「何つーか、こう……古そうな建物だな!」
「……そこはせめて、レトロって言って欲しかったな」
決して真新しさがあるワケではないけれど、小ざっぱりとした店内は木造らしく、照明も温かみの感じられる色合いだ。
「んで、田嶋は何頼むんだ?」
「そうだなぁ。ここは珍しく、紅茶の種類も豊富なんだ。今の気分だと……オレンジペコだな」
「……それ、昼メシじゃねーと思う」
春日に苦笑され、「分かってるけど」と少しムッとして言いつつ、机の端に立ててあったメニューの一つを選ぶ。
「私はそんなにお腹空いてる訳じゃないし、サンドイッチにするよ。春日はどうするの? 注文決まったなら店員呼ぶけど」
「んじゃ、俺はオムライスで」
「了解」
近くに居た従業員を呼び、注文したい品名を教えれば再度注文表が読み上げられる。間違いもなかったので「それで良い」と答え、去って行った所で春日が質問を投げ掛けてきた。
「田嶋。この前、藤田ン家行ったって聞いたんだけど」
「ああ……、母親同士が昔からの知り合いでね。その縁で」
此処も、佳奈さんが「紅茶付きの私に合うんじゃない?」と勧めてくれた事で知った店だ。
今では私の方が常連になってしまっているけど、佳奈さんも光宏さんと夫婦で来たりするらしい。
「藤田とも友達になったんだろ? 良かったな!」
「そ、だね。うん、ありがとう」
春日は友人の居なかった私を心配して、遊びに誘ってくれたのか。
最初から拒否の姿勢で居たのは良く無かったかな、と内省した。
カランカラーン
入り口のドアに付けられたベルが、軽快に音を鳴らす。
「いらっしゃい。……おや、誰かと思ったら」
聞こえてきたマスターの声から察するに、今来たのはどうやら常連客みたいだった。
知ってる人だろうか、と思った所で。
「久しぶりだな。ここは変わらなくて安心するぜ」
「っ、熱!」
聞き覚えのある、でも予想してなかった声が返事をして。丁度マスターの奥さんが置いてくれたカップを、驚いて動かした手で倒してしまった。
「大丈夫か?!」
「だ、大丈夫? 薫ちゃん、今氷持ってくるわね!」
いくら顔は見えないとはいえ、狭い店内なので彼らにも聴こえてしまっただろう。それを裏付けるように、先ほどの驚きの元凶から声がかかった。
「薫…? そこにいるのはもしかして、田嶋薫ちゃんか?」
——今、藤田は居ない。
やって来た彼は、その父親だった。
クラスメイトの男子と二人。
そんな中で、好奇心に目を光らせた彼の視線を逃れられるのか。
手の痛みをこらえながら、漠然とそんな事を考えた。
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