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脱獄しました1
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「レイナ・ヴェネディクト、貴様との婚約を破棄する!」
目の前の男性は、黒髪で長身、凛々しい顔立ち。よくある少女漫画の王子様というより、少年漫画のキャラクターっぽかった。
「理由をお聞かせください、エイトール王子」
「何をいまさら。貴様がユウナ・ローズに行った嫌がらせの数々、忘れたとは言わせないぞ」
「そんなこと……、婚約者にまとわりつく不心得者に怒るのは、当然のことではありませんか!」
どっかの物語にありそうなセリフが続く。
ヒステリックで甲高い女の声が、自分の口から吐き出され続けていた。
……困ったな。自分の身体なのに、全くコントロールできない。オートモードみたいだ。
周囲の冷ややかな視線に、私はもう少し落ち着いて対応した方がいいと思うのに、身体が言うことをきいてくれなかった。
私はひたすら、目の前の王子様と、彼にとってのヒロインらしい女の子を罵倒していた。
そのうちに、私はヒロインにつかみかかろうとして、取り押さえられた。
「お前の家が今までさんざん行ってきた悪事の証拠はそろっている。処刑の日まで、地下でせいぜい反省することだな」
そのまま騎士たちに引きずられて、私は豪華なホールをあとにした。
行きつく先は、地下牢だった。
牢に入れられ、しばらく鉄格子ごしに抗議の叫び声をあげていた身体は、やがて体力がつきてその場に座り込んだ。
そのときに、ふと自分の身体の支配権が私に戻ってくる感覚があった。
「……声が出せる。オートモードが終わったみたいだ」
薄暗い牢の中、混乱した頭を落ち着かせるために、私はまず、深呼吸をした。
カビ臭い。
こんなところに長く居たら、それだけで病気になりそうだ。
「えっと、何がどうなってるんだろう。夢なのかな……」
あの婚約破棄シーンは最近流行ってるから、アニメや漫画で見たことがある。
そう。あれは、私にとって画面越しに見る世界のはずだった。レースをふんだんに使ったドレスなんて、生まれてから今まで一度も着たことがない。
「すごい。ドレスってけっこう重いんだ。いや、ドレスというより、宝石が重いのかな」
これでもかと装飾をほどこしたドレスは、着心地を完全に無視していた。
「いくら綺麗だからって、こんなの着なきゃいけないなんて、お姫様も大変だなぁ。……重さまで感じるなんて、夢にしてはリアルだよね」
夢……だよね?
昨日、いつ寝たっけ?
たしか、金曜日の夜で、ちょっと夜更かししてオンラインゲームして……寝落ちしたのかな。
「寝落ち!? ヤバ。パーティー組んでたら迷惑かかる……いや、たぶん大丈夫だ。記憶が確かなら、装備の製作をしようと材料を集めてて、ソロだったはず……。うぅ、寒いな」
冷たい鉄格子。
石畳の床。
何でこんなにリアルなんだろう。
「まさかと思うけど、異世界トリップとか……」
そんなわけないよね。
落ち着いて。こういうときは自分のことを思い出そう。
基本情報の整理だ。
私は、日本の平凡な高校2年生だった。
趣味は定額制のオンラインゲーム。ゲーマーの叔父さんにもらったお古のパソコンで、のめり込んでいた。
……って、こんな危機的状況で、何でゲームのことなんか思い出してるんだろ。おかしな状況すぎるから、ゲーム世界というか、夢の中みたいって思っちゃうのかな。
「そう。私は日本人。……あれ?」
違う。
この身体の主は“私”じゃない。
フラネット王国の最上位貴族、公爵令嬢レイナ・ヴェネディクトだ。
さっきまで声を張り上げていたのが、この身体の本当の持ち主だ。
頭の中に、私と、私じゃないもう一人の、二人分の記憶が詰まっている。そんな、ありえないことが起こっていた。
目の前の男性は、黒髪で長身、凛々しい顔立ち。よくある少女漫画の王子様というより、少年漫画のキャラクターっぽかった。
「理由をお聞かせください、エイトール王子」
「何をいまさら。貴様がユウナ・ローズに行った嫌がらせの数々、忘れたとは言わせないぞ」
「そんなこと……、婚約者にまとわりつく不心得者に怒るのは、当然のことではありませんか!」
どっかの物語にありそうなセリフが続く。
ヒステリックで甲高い女の声が、自分の口から吐き出され続けていた。
……困ったな。自分の身体なのに、全くコントロールできない。オートモードみたいだ。
周囲の冷ややかな視線に、私はもう少し落ち着いて対応した方がいいと思うのに、身体が言うことをきいてくれなかった。
私はひたすら、目の前の王子様と、彼にとってのヒロインらしい女の子を罵倒していた。
そのうちに、私はヒロインにつかみかかろうとして、取り押さえられた。
「お前の家が今までさんざん行ってきた悪事の証拠はそろっている。処刑の日まで、地下でせいぜい反省することだな」
そのまま騎士たちに引きずられて、私は豪華なホールをあとにした。
行きつく先は、地下牢だった。
牢に入れられ、しばらく鉄格子ごしに抗議の叫び声をあげていた身体は、やがて体力がつきてその場に座り込んだ。
そのときに、ふと自分の身体の支配権が私に戻ってくる感覚があった。
「……声が出せる。オートモードが終わったみたいだ」
薄暗い牢の中、混乱した頭を落ち着かせるために、私はまず、深呼吸をした。
カビ臭い。
こんなところに長く居たら、それだけで病気になりそうだ。
「えっと、何がどうなってるんだろう。夢なのかな……」
あの婚約破棄シーンは最近流行ってるから、アニメや漫画で見たことがある。
そう。あれは、私にとって画面越しに見る世界のはずだった。レースをふんだんに使ったドレスなんて、生まれてから今まで一度も着たことがない。
「すごい。ドレスってけっこう重いんだ。いや、ドレスというより、宝石が重いのかな」
これでもかと装飾をほどこしたドレスは、着心地を完全に無視していた。
「いくら綺麗だからって、こんなの着なきゃいけないなんて、お姫様も大変だなぁ。……重さまで感じるなんて、夢にしてはリアルだよね」
夢……だよね?
昨日、いつ寝たっけ?
たしか、金曜日の夜で、ちょっと夜更かししてオンラインゲームして……寝落ちしたのかな。
「寝落ち!? ヤバ。パーティー組んでたら迷惑かかる……いや、たぶん大丈夫だ。記憶が確かなら、装備の製作をしようと材料を集めてて、ソロだったはず……。うぅ、寒いな」
冷たい鉄格子。
石畳の床。
何でこんなにリアルなんだろう。
「まさかと思うけど、異世界トリップとか……」
そんなわけないよね。
落ち着いて。こういうときは自分のことを思い出そう。
基本情報の整理だ。
私は、日本の平凡な高校2年生だった。
趣味は定額制のオンラインゲーム。ゲーマーの叔父さんにもらったお古のパソコンで、のめり込んでいた。
……って、こんな危機的状況で、何でゲームのことなんか思い出してるんだろ。おかしな状況すぎるから、ゲーム世界というか、夢の中みたいって思っちゃうのかな。
「そう。私は日本人。……あれ?」
違う。
この身体の主は“私”じゃない。
フラネット王国の最上位貴族、公爵令嬢レイナ・ヴェネディクトだ。
さっきまで声を張り上げていたのが、この身体の本当の持ち主だ。
頭の中に、私と、私じゃないもう一人の、二人分の記憶が詰まっている。そんな、ありえないことが起こっていた。
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