【完結】時計台の約束

とっくり

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6 それぞれの思い

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アメリアは、ルーカスに関するゴシップを調べ始めた。

 すべてを鵜呑みにするつもりはなかったが、彼がいまどんな状況に置かれているのか、それを知りたかった。

 ハンナにも協力をお願いした。

「ルーカスのこと、あまり良い噂は聞かないのよね。侯爵家のお嬢様、マーガレット様と想い合っているとか…。てっきりアメリアも知ってると思ってた」

 ルーカスは孤児院を出たあと、ヘイウッド侯爵家に引き取られ、そこで働きながら王立学園の美術科に進学した。

 入学早々、大きな展覧会で彼の作品が入賞したことを皮切りに、数々の賞を受賞。やがてルーカスは絵画界の寵児と称されるようになった。

 彼の絵の評価もさることながら、美しい容姿も注目を集めていた。

 学園では、女子学生から圧倒的な人気を集める一方で、男子学生の一部からは妬みや嫌がらせも受けていた。

 だが、ルーカスの後ろ盾はヘイウッド侯爵家――。貴族社会において、その家の庇護は絶大だった。軽々しく敵に回せる相手ではなく、いじめや嫌がらせは長くは続かなかった。

 マーガレットとは仲が良かったようだが、あくまでも侯爵家のご令嬢と、その家に雇われた平民という関係を弁えた、節度ある距離感を保っていた。

 けれど――。

 雲行きが怪しくなり始めたのは、マーガレットの婚約が決まった頃からだった。

  

~~~~~~~~~~~



 マーガレットが十四歳の時、グリーグ公爵家の嫡男、ミハエルとの婚約が決まった。

 王家主催のお茶会で、ミハエルが彼女に一目惚れし、父に頼み込んでの縁談だった。

 グリーグ家とヘイウッド家は、政治的に対立する派閥に属しており、これまでほとんど交流がなかった。どちらかといえば敵対関係に近かった。

 だが、両家とも由緒正しい家柄であり、王家を長らく支えてきた家門でもある。

 この婚約は、敵対する派閥を繋ぎとめる象徴として、王家に歓迎され、承認された。

 グリーグ家は豊かな鉱山を領地に持ち、財力に富んでいた。嫡男ミハエルには弟がふたりいたが、家督はミハエルに継がせると決まっていた。

 そのミハエルはというと、大人しく目立たない性格で、学園での成績も剣術も中の中。容姿も平凡で、もし公爵家の名がなければ、人目を惹くような存在ではなかった。

 一方、マーガレットはというと――。

 幼いころには「将来の王太子妃候補」として名が挙がったほどの評判があった。学業にも優れ、礼儀作法も申し分ない。年齢を重ねるごとに、その美しさにはさらに磨きがかかっていった。

 ヘイウッド侯爵は、二人の釣り合いに懸念を覚えた。

 なにより、娘の気持ちを尊重したいと考えていた。

「無理をすることはない」と、ミハエルとの婚約話を切り出した際にはそう告げた。

 マーガレットは――かつて打診された王太子妃の座を「自分には重すぎる」と断ったが、貴族として生まれた以上、政略結婚そのものを否定するつもりはなかった。

 今回の婚約には、派閥の対立を終わらせる大きな意義があった。国の未来のためになるのなら――。

 そう自分に言い聞かせて、承諾した。

 だが――。

 わかっていた。想定していた未来だった。

 それでも、チクリと胸が痛む。

 想い人がいる身で、別の相手と婚約する。

 覚悟していたはずなのに、それは、こんなにもつらいことだった。

 ーールーカスは平民――

 いくら好きでも、どうにもならない。


 だからこそ、自分の気持ちには蓋をするしかなかったのだ。
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