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5 アメリア
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アメリアは16歳になった。
12歳まで孤児院で暮らし、13歳からは街にある大きな商会に住み込みで勤め始めた。
働き始めのころは、見習いとして棚卸しや倉庫の片付けといった雑用が主な仕事だった。
だが、読み書きや計算が得意だったアメリアは、やがて事務部門に配属され、事務員として忙しく働くようになった。
その商会の名は《イーサン商会》。
街でも一、二を争う大きな商会である。
創業者のイーサンは、なんとアメリアと同じ孤児院の出身だった。
社長のイーサンは40歳。妻と、10歳と8歳のやんちゃな男の子がいる。
身一つで事業を立ち上げ、成功させたイーサンは、奉仕活動にも熱心だった。
特に孤児院には定期的に寄付を行い、12歳を迎えて孤児院を出る子どもたちの就職先として、自らの商会での受け入れを積極的に行っていた。
また、他の商会や店への紹介、身元保証人や調整役としても力を尽くしていた。
同い年のハンナもイーサン商会に就職した。
ハンナは販売部門に配属され、アメリアと同じく住み込み、しかも同室だった。
孤児院の延長のような生活だったが、気心の知れたハンナと一緒にいられることは、アメリアにとって大きな支えだった。
⸻
「あのさ、仕入れ部門のアーク、いるじゃない?」
仕事を終え、食堂で夕食をすませたあと、自室へ戻る道すがらハンナがふと話しかけてきた。
「……うん? アークがどうかしたの?」
「アメリア、どう思ってる?」
「急にどうしたの?」
「いや、どう思ってる? 好き? 嫌い?」
「その二択しかないの?」
「じゃあ、聞き方を変えるわ。アークに恋愛感情、ある?」
「えっ……」
部屋に着いた二人はそのまま部屋に入り、それぞれのベッドに腰かけ、向かい合って話を続けた。
「恋愛感情なんてないよ」
「ほんと?!」
ハンナはどこか嬉しそうに口元を緩めた。
アークは2歳年上の先輩。働き始めたばかりのアメリアとハンナの教育係を担当してくれていた。
背が高く、手足の長いアーク。
ふわっとした茶色の髪に、優しげな榛色の瞳。
穏やかな性格で仕事もよくでき、女子社員からの人気も高かった。
「実はさ、アーク、アメリアのことが好きなんだって……」
「!?」
アメリアは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「わ、私?」
「そう」
(なんで? アークが私のこと? こんな地味で冴えない私を?)
「いま、“地味で冴えない私をなんで?”って思ったでしょ」
「っ……!」
あまりの図星に、アメリアはまたお茶を吹き出しそうになった。
付き合いの長いハンナには、すっかり見透かされていた。
「たしかに、アメリアは華やかな美人とは違うわ。派手か地味かでいえば、そりゃ、地味ね。どちらかといえばおとなしいし?
でも、男の人から見ると“清楚”って感じらしいのよ。派手さはないけど、落ち着いた雰囲気と、つぶらな瞳がたまらなく魅力なんだって」
「つぶらな瞳って、目が小さいってこと?」
「そこまで言ってないわよ~! それに、さらさらの黒髪と黒目が素敵なんだってさ。そのスレンダーボディも、って」
「痩せっぽっちってことー?!」
「だから! そういう意味じゃないってば!」
釈然としないアメリアだったが、ハンナに悪気がないのはすぐにわかった。
「だって、アークがそう言ってたんだから……」
そう言って俯くハンナ。
その様子に、アメリアはようやく気づく。
――ハンナはアークのことが好きなのだ。
「私はアークのこと、好きだけど恋愛感情じゃない。仕事仲間としての好意であって、それ以上でも以下でもないわ」
「じゃあ、私が好きになってもいい? 告白してもいい?!」
「私の許可なんていらないよ。ハンナを応援する」
「ありがとう~!」
満面の笑みでハンナはアメリアに抱きついた。
「アメリアはさ……好きな人、いないの? 気になる人とか」
(好きな人……)
その言葉で、思い浮かぶのはただひとり。
――ルーカス。
貴方はどうしているの?
元気でいますか?
幸せにしていますか?
⸻
大きな商会で働いていると、街のさまざまな情報や貴族たちの噂が耳に入ってくる。
特に女子社員たちは貴族のゴシップが大好きで、昼休みにはよくその話で盛り上がっていた。
アメリアはそうした話にあまり興味がなく、いつも一人で静かに食事をとっていた。
ところが、ある日のこと。
「……で? マーガレット様はどうなったの?」
「領地で謹慎なさるそうよ」
「そりゃそうよ。不貞の噂が流れてしまったらね。もちろん、婚約も破棄されるんでしょう?」
「ところが、婚約は継続ですって!」
「え~!? 破棄されないんだ!」
「婚約相手の公爵家、寛大よねぇ」
昼休み、数人の女子社員が食事をとりながら、いつものように貴族の話題で盛り上がっていた。
アメリアは自席で一人、淡々とパンをかじっていたが――
(マーガレット様……?)
「その不貞の相手はどうなったの?」
「売り出し中の画家だったらしいけど、侯爵家との縁は切れたみたいね」
「じゃあ、援助は打ち切り?」
「当然よ」
「でも、その画家、大層な美形なんですって。侯爵家の後ろ盾がなくなっても、貴族未亡人とかがパトロンになろうと名乗りをあげてるって」
「へ~! 美形って得ねぇ~!」
(パトロン……?)
その言葉に、オリビアは思わず立ち上がり、話に夢中になっていた3人に近づいた。
「マリーさん、その画家の名前って……【ルーカス】ですか?」
3人組のひとり、マリーが目を見開いた。
「アメリア、知ってるの? ルーカスのこと。ふふ、あら、あなたも隅に置けないわね~! いつもは興味なさそうだったのに。まさか、ルーカスのファンだったりして?!」
「……!」
(本当に、ルーカスなの?
ルーカスが、不貞の相手?
マーガレット様と……?)
アメリアには、信じられなかった――。
12歳まで孤児院で暮らし、13歳からは街にある大きな商会に住み込みで勤め始めた。
働き始めのころは、見習いとして棚卸しや倉庫の片付けといった雑用が主な仕事だった。
だが、読み書きや計算が得意だったアメリアは、やがて事務部門に配属され、事務員として忙しく働くようになった。
その商会の名は《イーサン商会》。
街でも一、二を争う大きな商会である。
創業者のイーサンは、なんとアメリアと同じ孤児院の出身だった。
社長のイーサンは40歳。妻と、10歳と8歳のやんちゃな男の子がいる。
身一つで事業を立ち上げ、成功させたイーサンは、奉仕活動にも熱心だった。
特に孤児院には定期的に寄付を行い、12歳を迎えて孤児院を出る子どもたちの就職先として、自らの商会での受け入れを積極的に行っていた。
また、他の商会や店への紹介、身元保証人や調整役としても力を尽くしていた。
同い年のハンナもイーサン商会に就職した。
ハンナは販売部門に配属され、アメリアと同じく住み込み、しかも同室だった。
孤児院の延長のような生活だったが、気心の知れたハンナと一緒にいられることは、アメリアにとって大きな支えだった。
⸻
「あのさ、仕入れ部門のアーク、いるじゃない?」
仕事を終え、食堂で夕食をすませたあと、自室へ戻る道すがらハンナがふと話しかけてきた。
「……うん? アークがどうかしたの?」
「アメリア、どう思ってる?」
「急にどうしたの?」
「いや、どう思ってる? 好き? 嫌い?」
「その二択しかないの?」
「じゃあ、聞き方を変えるわ。アークに恋愛感情、ある?」
「えっ……」
部屋に着いた二人はそのまま部屋に入り、それぞれのベッドに腰かけ、向かい合って話を続けた。
「恋愛感情なんてないよ」
「ほんと?!」
ハンナはどこか嬉しそうに口元を緩めた。
アークは2歳年上の先輩。働き始めたばかりのアメリアとハンナの教育係を担当してくれていた。
背が高く、手足の長いアーク。
ふわっとした茶色の髪に、優しげな榛色の瞳。
穏やかな性格で仕事もよくでき、女子社員からの人気も高かった。
「実はさ、アーク、アメリアのことが好きなんだって……」
「!?」
アメリアは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「わ、私?」
「そう」
(なんで? アークが私のこと? こんな地味で冴えない私を?)
「いま、“地味で冴えない私をなんで?”って思ったでしょ」
「っ……!」
あまりの図星に、アメリアはまたお茶を吹き出しそうになった。
付き合いの長いハンナには、すっかり見透かされていた。
「たしかに、アメリアは華やかな美人とは違うわ。派手か地味かでいえば、そりゃ、地味ね。どちらかといえばおとなしいし?
でも、男の人から見ると“清楚”って感じらしいのよ。派手さはないけど、落ち着いた雰囲気と、つぶらな瞳がたまらなく魅力なんだって」
「つぶらな瞳って、目が小さいってこと?」
「そこまで言ってないわよ~! それに、さらさらの黒髪と黒目が素敵なんだってさ。そのスレンダーボディも、って」
「痩せっぽっちってことー?!」
「だから! そういう意味じゃないってば!」
釈然としないアメリアだったが、ハンナに悪気がないのはすぐにわかった。
「だって、アークがそう言ってたんだから……」
そう言って俯くハンナ。
その様子に、アメリアはようやく気づく。
――ハンナはアークのことが好きなのだ。
「私はアークのこと、好きだけど恋愛感情じゃない。仕事仲間としての好意であって、それ以上でも以下でもないわ」
「じゃあ、私が好きになってもいい? 告白してもいい?!」
「私の許可なんていらないよ。ハンナを応援する」
「ありがとう~!」
満面の笑みでハンナはアメリアに抱きついた。
「アメリアはさ……好きな人、いないの? 気になる人とか」
(好きな人……)
その言葉で、思い浮かぶのはただひとり。
――ルーカス。
貴方はどうしているの?
元気でいますか?
幸せにしていますか?
⸻
大きな商会で働いていると、街のさまざまな情報や貴族たちの噂が耳に入ってくる。
特に女子社員たちは貴族のゴシップが大好きで、昼休みにはよくその話で盛り上がっていた。
アメリアはそうした話にあまり興味がなく、いつも一人で静かに食事をとっていた。
ところが、ある日のこと。
「……で? マーガレット様はどうなったの?」
「領地で謹慎なさるそうよ」
「そりゃそうよ。不貞の噂が流れてしまったらね。もちろん、婚約も破棄されるんでしょう?」
「ところが、婚約は継続ですって!」
「え~!? 破棄されないんだ!」
「婚約相手の公爵家、寛大よねぇ」
昼休み、数人の女子社員が食事をとりながら、いつものように貴族の話題で盛り上がっていた。
アメリアは自席で一人、淡々とパンをかじっていたが――
(マーガレット様……?)
「その不貞の相手はどうなったの?」
「売り出し中の画家だったらしいけど、侯爵家との縁は切れたみたいね」
「じゃあ、援助は打ち切り?」
「当然よ」
「でも、その画家、大層な美形なんですって。侯爵家の後ろ盾がなくなっても、貴族未亡人とかがパトロンになろうと名乗りをあげてるって」
「へ~! 美形って得ねぇ~!」
(パトロン……?)
その言葉に、オリビアは思わず立ち上がり、話に夢中になっていた3人に近づいた。
「マリーさん、その画家の名前って……【ルーカス】ですか?」
3人組のひとり、マリーが目を見開いた。
「アメリア、知ってるの? ルーカスのこと。ふふ、あら、あなたも隅に置けないわね~! いつもは興味なさそうだったのに。まさか、ルーカスのファンだったりして?!」
「……!」
(本当に、ルーカスなの?
ルーカスが、不貞の相手?
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アメリアには、信じられなかった――。
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