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17 ふと思い出す幻影
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その日の夜、アリシアは仕事帰りに、ルーカスの好きなパンと、具沢山のスープを買って宿へと向かった。
外は少し肌寒く、手に持った紙袋から立ち上る湯気が、彼に届けたい温もりのように思えた。
宿の扉を開けると、ルーカスはすぐに気づいて笑顔で迎えてくれた。その笑顔だけで、アリシアの心はふっとほどけた。
ふたりは並んで座り、ささやかな夕食を囲む。
「このスープ、うまいね」
ルーカスが箸を進めながら言った。
「職場の人に教えてもらったの。夕方に買いに行くと半額になるのよ」
「それはいいね。味も申し分ない」
そんな何気ない会話が、アリシアには愛おしかった。
「いつもアリシアばかりに買わせてごめん。今度の給金が出たら、僕がごちそうするからね」
ルーカスが少し照れたように言う。
「期待しても、いい?」
「もちろん! 何でも好きなものを奢るよ」
その言葉にアリシアはくすりと笑った。
得意げに胸を張るルーカスの姿が、可愛らしく思えた。
その笑顔につられるように、ルーカスもまた口元を綻ばせた。
ふたりで笑い合うそのひとときが、アリシアには何よりのごちそうだった。
けれど──ふと、アリシアは問いかける。
「ねぇ、ルーカス……今、幸せ?」
問いの裏にある不安に、彼は一瞬だけ目を泳がせた。けれど、すぐに微笑む。
「もちろんだよ。アリシアがいる。これ以上、何を望むっていうんだ?」
嘘じゃない。その言葉は確かに本心だった。
だが、ルーカス自身もまた──
気づいていた。
ふとした瞬間に、右手がうずき、絵筆を握りたくなる衝動が蘇ることを。
そして、ときおり夢に見るのは、
──あの金の髪の少女。
(いや……僕は、アリシアと幸せになる)
ルーカスは、そう自分に言い聞かせるたびに、心のどこかが軋むように感じられた。
「ルーカス?」
「っ……あ、ごめん。ちょっと考えごとしてた」
アリシアの声に我に返ると、彼女は心配そうな目を向けていた。
ルーカスの心の内を見透かしているかのようにアリシアの瞳は揺れていた。
「昨日も泊まったし、今日は帰るね」
「もう?」
「明日は早番なの」
「そうか……じゃあ、寮まで送るよ」
~~~~~~~~~~~
月明かりの下、ふたりはアリシアの住む寮まで並んで歩く。静かな夜道。寄り添うように歩くふたりの影が、石畳に伸びていた。
「今日は満月だわ。月が近くに見える」
「本当だ。まるで手が届きそうなくらいだ」
ルーカスはふと立ち止まり、左手を月に伸ばした。
興味深そうに、どこか懐かしげに空を見つめるその横顔を、アリシアは静かに見つめる。
「……ねぇ、ルーカス。もし、もしもだけど……
このまま、どこか遠くへ行けたらって、思うことある?」
少しの沈黙ののち、ルーカスはまっすぐアリシアを見つめ返した。
「どこにいても、君がいればそれが“行き先”になる。
君がいる場所が、僕の帰る場所だよ」
その言葉に、アリシアの瞳にそっと涙が浮かぶ。
それは嬉しさとも、安堵とも、あるいは得体の知れない不安ともつかない感情だった。
けれど──
その頃から、ほんの小さな違和感が、日常の隙間に忍び込みはじめていた。
外は少し肌寒く、手に持った紙袋から立ち上る湯気が、彼に届けたい温もりのように思えた。
宿の扉を開けると、ルーカスはすぐに気づいて笑顔で迎えてくれた。その笑顔だけで、アリシアの心はふっとほどけた。
ふたりは並んで座り、ささやかな夕食を囲む。
「このスープ、うまいね」
ルーカスが箸を進めながら言った。
「職場の人に教えてもらったの。夕方に買いに行くと半額になるのよ」
「それはいいね。味も申し分ない」
そんな何気ない会話が、アリシアには愛おしかった。
「いつもアリシアばかりに買わせてごめん。今度の給金が出たら、僕がごちそうするからね」
ルーカスが少し照れたように言う。
「期待しても、いい?」
「もちろん! 何でも好きなものを奢るよ」
その言葉にアリシアはくすりと笑った。
得意げに胸を張るルーカスの姿が、可愛らしく思えた。
その笑顔につられるように、ルーカスもまた口元を綻ばせた。
ふたりで笑い合うそのひとときが、アリシアには何よりのごちそうだった。
けれど──ふと、アリシアは問いかける。
「ねぇ、ルーカス……今、幸せ?」
問いの裏にある不安に、彼は一瞬だけ目を泳がせた。けれど、すぐに微笑む。
「もちろんだよ。アリシアがいる。これ以上、何を望むっていうんだ?」
嘘じゃない。その言葉は確かに本心だった。
だが、ルーカス自身もまた──
気づいていた。
ふとした瞬間に、右手がうずき、絵筆を握りたくなる衝動が蘇ることを。
そして、ときおり夢に見るのは、
──あの金の髪の少女。
(いや……僕は、アリシアと幸せになる)
ルーカスは、そう自分に言い聞かせるたびに、心のどこかが軋むように感じられた。
「ルーカス?」
「っ……あ、ごめん。ちょっと考えごとしてた」
アリシアの声に我に返ると、彼女は心配そうな目を向けていた。
ルーカスの心の内を見透かしているかのようにアリシアの瞳は揺れていた。
「昨日も泊まったし、今日は帰るね」
「もう?」
「明日は早番なの」
「そうか……じゃあ、寮まで送るよ」
~~~~~~~~~~~
月明かりの下、ふたりはアリシアの住む寮まで並んで歩く。静かな夜道。寄り添うように歩くふたりの影が、石畳に伸びていた。
「今日は満月だわ。月が近くに見える」
「本当だ。まるで手が届きそうなくらいだ」
ルーカスはふと立ち止まり、左手を月に伸ばした。
興味深そうに、どこか懐かしげに空を見つめるその横顔を、アリシアは静かに見つめる。
「……ねぇ、ルーカス。もし、もしもだけど……
このまま、どこか遠くへ行けたらって、思うことある?」
少しの沈黙ののち、ルーカスはまっすぐアリシアを見つめ返した。
「どこにいても、君がいればそれが“行き先”になる。
君がいる場所が、僕の帰る場所だよ」
その言葉に、アリシアの瞳にそっと涙が浮かぶ。
それは嬉しさとも、安堵とも、あるいは得体の知れない不安ともつかない感情だった。
けれど──
その頃から、ほんの小さな違和感が、日常の隙間に忍び込みはじめていた。
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