【完結】時計台の約束

とっくり

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23 幸せな朝

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次の日。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気をやわらかく照らしていた。

ルーカスはまだ少し眠たげな目で天井を見つめながら、隣にいるアリシアの重みを確かめる。
小さく身体を動かすと、彼女のぬくもりがシーツ越しにやわらかく伝わってきた。

「……起きてる?」

囁くような声に、アリシアがくすりと笑って目を開けた。

「んー、目は開いてるけど、心はまだ寝てる……」

「それは重症だな」

「治すには、あと一時間くらい、こうして抱きしめられてないとダメかも」

「なるほど。処方箋が僕とは……贅沢な治療法だ」

ルーカスはそう言いながら、アリシアの肩を引き寄せ、額にキスを落とす。
彼女は小さく笑って、彼の胸に顔を埋めた。

「……ねえ、ルーカス」

「ん?」

「仕事行きたくないね」

「僕も。ていうか、今日は二人とも休みってことにしない?風邪ってことで」

「じゃあ、病欠連絡するから症状言って?」

「“恋人のぬくもりが離れず、布団から脱出できません”って」

「真面目に言って?」

「いや、わりと本気」

アリシアが笑いながら、ルーカスの胸を軽く拳でぽすんと叩いた。

「……でもほんと、こういう朝って、永遠に続いてほしいって思っちゃう」

彼女の声はいつになく素直で、ルーカスは頷く代わりに、もう一度ゆっくりと抱きしめた。

「だったら、ちゃんとまた迎えよう。次の朝も、その次の朝も」

「うん。……楽しみにしてる」

 シーツの下で指先が絡まり、互いの体温を分け合うように手を握り合った。
時計の針は少しずつ進んでいくけれど、ふたりの時間は、まだベッドの中で止まったままだった。

 昨夜のルーカスは、いつにも増して情熱的だった。肌を重ねたその瞬間ごとに、彼の想いが全身を通して流れ込んできて――何度も求められた。
アリシアも、ただ受け止めるだけじゃいられず、夢中で応えた。

 思い出すたびに、心の奥がじんわりと熱を帯びる。ルーカスの指先、囁き、深く求められたあの感触。

――ふと意識してしまっただけで、アリシアの頬は真っ赤に染まった。
 ひとりで身じろぎしながら、布団の中でもぞもぞと身を縮めるアリシア。
羞恥で耳まで赤くなり、まるで湯気が出そうなほどになっている。

そんな彼女の様子を、ルーカスはすぐそばで見ていた。

「……可愛いなぁ、アリシア」

囁くように呟いたその声に、アリシアはビクッと反応する。ルーカスの視線が、まるで全てを見透かしているようで、ますます頬が熱くなる。

「ち、違うの、別に……! なんでもないの……!」

「うん、なんでもないのに顔真っ赤なんだ?」

「・・・っルーカスのせいだよ」

ふくれっ面で抗議しても、ルーカスはただ柔らかく笑って、アリシアの頬に唇をそっと重ねた。

「……照れてくれるの、うれしいよ。昨夜、僕の気持ちがちゃんと届いたんだって思えて」

その声音には、優しさと深い愛情が滲んでいた。
アリシアはそれ以上何も言えなくなって、ぎゅっとルーカスの胸に顔を埋める。

「……もう!」

「照れてるアリシア、かわいい」

そう言って笑うルーカスの腕の中で、アリシアの胸はぽかぽかと温かくなっていった。



 時計の針は、そろそろ「本当に起きないとまずい」時刻を指している。

「……アリシア。もうちょっとだけ」

ルーカスが、アリシアの腰に腕をまわしたまま、ぐいっと彼女を引き寄せた。
ぬくもりを求めるように顔を埋めるその仕草が、まるで猫のようで可愛らしい。

「ちょっと、ほんとにギリギリなんだから……!」

アリシアが笑いながら言うと、ルーカスは目を閉じたまま甘えた声で囁く。

「やだ。今日はもうこのまま寝坊する。世界が止まればいいのに……」

「子どもみたいなこと言わないの」

「完全に寝不足だー」

「ふふっ・・・お互いにね」

「アリシアのせいだよ」

「私?!」

「いつも可愛い君だけど。昨日の夜は特に可愛いかったから……止められなかった」

「っ…!ルーカス!!」

ルーカスがくすりと笑って、ゆるく目を開ける。眠たげなその瞳が、アリシアの頬をじっと見つめた。

「・・・2人でいると、時間なんてあっという間だね」

そう言ってアリシアがシーツをめくろうとすると、ルーカスはすばやく動いて、彼女の上に覆いかぶさった。


「キスで僕を目指めさせて」

「ルーカス……!」

 頬を染めるアリシアに、ルーカスはちょっと得意げに笑い、そっと唇を重ねた。
優しく、だけど名残惜しさをたっぷり込めて。

「……ん、これで今日も頑張れる」

「……わたしは逆に、行きたくなくなったんだけど」

「それは困るねぇ。じゃあ今夜、埋め合わせしよう。倍返しで」

「……もう、ばか」

そう言いつつ、アリシアも笑っていた。
ふたりの間に流れる空気は、どこまでも甘くて、やわらかかった。



玄関の前、ついに家を出る時間が来たとき――
アリシアが靴を履き終わると、ルーカスは後ろから彼女をそっと抱きしめた。


「いってらっしゃい、アリシア。無理しないで。今日も綺麗だよ」

「ありがとう。……あなたも、怪我しないでね」

「うん。お互い、頑張ろう」

玄関が閉まる直前、指先が名残惜しそうに離れる。

――何気ない朝。けれど、ふたりにとっては何度繰り返しても特別な、幸せの証だった。

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