【完結】綺麗なだけじゃ、生きていけない

とっくり

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「依頼を出したその姉……セラフィナ?お仕置きが必要じゃなくて?」
 カロリーヌがにやりと不敵な笑みを浮かべ、応接室に放ったその言葉に、空気がいきなりざわめいた。

「お、お仕置き……!?」
 アナベルの声は裏返ったあと、椅子から立ち上がりそうになり、両手を胸の前で慌てて振る。まるで小鳥が羽ばたくかのように、あちこちに手が動く。

 応接室にいる誰よりも筋肉隆々、頼もしさで言えば街一帯でも敵なし――元騎兵隊大尉・カロリーヌ。
 その堂々たる姿を目の当たりにしたアナベルの脳裏には、姉セラフィナが粉々に吹き飛ぶ光景まで浮かび、青ざめるのも当然であった。

「あら、嫌だ、アナベル!あなた、私のこと、そんな極悪非道に見えてるの?!」
 カロリーヌが両手を腰に当て、仁王立ちで問いかける。足元から漂う圧力で、応接室の床が沈むんじゃないかと錯覚するほどだ。

「ち、違います!!カロリーヌさんを極悪非道なんて思ってません!…ただ、力が、少し…いいえ、かなり《ある》ので、姉の身が心配で……」
 アナベルは言うべきことは言わなきゃと必死だ。腰を引きつつも目は真っ直ぐ。

「姉は痩せ型で華奢ですし、カロリーヌさんが少しでも触れたりしたら、吹き飛んでしまう可能性も……」

「んもう!!失礼しちゃうっ!怪力キャラじゃないわっ」
 一同、静まり返る。空気が止まったようにピタリ。カロリーヌの怪力伝説が頭をよぎった瞬間だった。

「ひどいわ。淑女に向かって極悪非道の怪力扱い。私はね、暴力によるお仕置きなんてするつもりはありませんからねっ」
 腰に手を当てて胸を張り、カロリーヌは仁王立ちで言葉を続ける。

「ちょっと!不審者!このスキャンダルでっちあげは、セラフィナが一人で思いついたの?」
 急に話を振られたグレイヴスはドキリと肩を震わせながら答える。

「誰かははっきりとはわかりませんが、誰かの入れ知恵だったようです」

 カロリーヌは片眉をぴんと上げ、軍人時代の作戦会議モードにスイッチオン。
「いい? 敵は“姉”。と、入れ知恵した人物。身内だからって情けをかけたら、ますますアナベルが苦しむのよ!」

「うわぁ……また始まった」
 リバーは額を押さえ、心底めんどくさそうにぼやく。
「なんで俺の応接室が軍議の場みたいになってんだ……」

「だ、大丈夫でしょうか……?」
 アナベルは小さく俯き、震える声を出す。

 そんな彼女の肩を、エリオットがそっと支える。
「アナベル。君を傷つけようとした人は、身内だろうと、一度、しっかり諫めた方が良い。それが君の姉にも、君にとっても良い筈だ」
 真っ直ぐな視線に、アナベルの瞳が大きく揺れる。

「エリオットさん……」
 その声に、カロリーヌはぱんっと手を叩き、場を仕切る。

「よし!方向性は決まったわね。アナベルを守るためにも、“お仕置き作戦”を立てましょう!」

「ええぇぇ……」
 顔を真っ赤にしたアナベルが抗議するも、もはや誰も止められない。

「具体的には?」
 ハンナが楽しそうに首をかしげる。
「やっぱり、反省を促すなら“現行犯”にするのが一番よ」
 カロリーヌは机に地図を広げるように両手をつき、声を潜めた。

「グレイヴスが、アナベルの身辺調査報告をする際に、セラフィナを逆に尾行よ。入れ知恵した人間も特定できるようにしましょう。証拠を押さえて……正々堂々、逆に問い詰める!」

「入れ知恵した人間は、すぐにわかるだろうか」
 エリオットは神妙な顔でカロリーヌに問う。

「わかるだろうか、じゃないのよ!わかるために動くの!前進あるのみ!」

 グレイヴスは呆然と見つめ、ため息を漏らす。
「……俺、いつの間にか共犯にされてません?」

 こうして職業斡旋所の応接室は、“アナベル姉・セラフィナ逆襲作戦会議”の場となった。
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