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【本編】
【書いてみたとこだけ一部公開】
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「殿下も失敗なさるんですねえ」
ソフィア皇女の完璧さを信じてやまないフィオナは、驚きを隠せなかった。
「もちろん」
「私だって人間なんですから」と皇女は満月の如く穏やかな微笑を浮かべた。その言葉に含まれたある種他人事のような冷静さに、良くも悪くも純粋なフィオナは気付かなかった。
「どんな失敗なんですか?」
絵本の続きが知りたくてたまらない子どものような顔をして、フィオナは前のめりで尋ねた。
興奮のあまり、皇女に侍る一侍女としては近すぎる距離まで近づいてしまっていることにも、彼女は気付いていない。それでも皇女は顔色一つ歪めることもなく、生真面目そうな表情でゆっくりと口を開いた。
「そうですねぇ……。何だと思いますか?」
「えっ?」
予想外の唐突な質問に、フィオナは思わず固まった。そして、椅子に腰掛けた皇女に向かい腰を斜めに折って立ち尽くした状態で、真剣に「う~ん」と悩み出してしまう始末だった。
皇女はそんなフィオナをしばらく観察して、静かにほくそ笑んだ。
「わかりません……。殿下が何かに失敗するだなんて」
フィオナはしょんぼり諦めた様子で答えた。
皇女も再びにこりと笑った。 部屋の灯りに照らされて高貴に煌めく青の瞳は、今度は本当に笑っていた。
「私の失敗。最大の失敗は……。
それはきっと、この世界に生まれてきてしまったことじゃないでしょうか」
「え?」
フィオナは不思議そうな顔で皇女を見た。皇女も彼女をじっと見ていた。
納得いかなかったフィオナは、珍しく皇女に反論した。
「そんな! 殿下がお生まれになった日には、この国のすべての人間が殿下のご誕生を祝福したはずですよ」
自信満々に言ったつもりのフィオナだったが、「ああ、でも」と自信をなくしかけたのか、「私はまだ生まれていなかったので、実際にその様子は見ていないし、わかりませんが」とも素直に言った。
「そうですね。確かに私は多くの国民に祝福されていたのかもしれません。
でもそうではなくて、いつか、いつの日か、その国民の皆さんが私が生まれた日を呪うことになるんですよ」
予言者のような口ぶりで、皇女は言った。フィオナには、それがまるで、そうなる未来が見えている、もしくは確定していることが分かっているかのような言い方に聞こえていた。
「呪う?! どうしてですか?」
「そんなはずありません!」と興奮したフィオナを宥めるように、皇女は彼女の目をじっと見た。皇女はこの時も、心の底から笑みを浮かべていた。
皇女の蠱惑的なその瞳は、見た者を惑わす怪物の魔眼のごとく、フィオナを捕らえた。
その瞬間、二人の時間だけがこの世界から切り取られてしまったかのように、さらなる静寂に包まれた。
「それは……、どういう意味なんですか?」
フィオナには、それ以上の言葉が出せなかった。
ソフィア皇女には、一体何が見えているのだろう? きっと自分の想像には及ばない、壮大な何かを見ているに違いない。
そう確信したことで身震いするほどの感銘と畏敬の念を抱いた彼女は、パクパクと口を虚ろに動かすことはできても、魂が抜かれた人形のようにボッーと皇女を見つめることしかできなかった。
この意味深な発言は、もしかしたら皇女の知性に富んだ言葉のあやであって、その意味がよく理解できないのは、自分が無学なせいなのかもしれない。
純真なフィオナは、ごく自然にそう考えるのに終わってしまったのだった。
ソフィア皇女の完璧さを信じてやまないフィオナは、驚きを隠せなかった。
「もちろん」
「私だって人間なんですから」と皇女は満月の如く穏やかな微笑を浮かべた。その言葉に含まれたある種他人事のような冷静さに、良くも悪くも純粋なフィオナは気付かなかった。
「どんな失敗なんですか?」
絵本の続きが知りたくてたまらない子どものような顔をして、フィオナは前のめりで尋ねた。
興奮のあまり、皇女に侍る一侍女としては近すぎる距離まで近づいてしまっていることにも、彼女は気付いていない。それでも皇女は顔色一つ歪めることもなく、生真面目そうな表情でゆっくりと口を開いた。
「そうですねぇ……。何だと思いますか?」
「えっ?」
予想外の唐突な質問に、フィオナは思わず固まった。そして、椅子に腰掛けた皇女に向かい腰を斜めに折って立ち尽くした状態で、真剣に「う~ん」と悩み出してしまう始末だった。
皇女はそんなフィオナをしばらく観察して、静かにほくそ笑んだ。
「わかりません……。殿下が何かに失敗するだなんて」
フィオナはしょんぼり諦めた様子で答えた。
皇女も再びにこりと笑った。 部屋の灯りに照らされて高貴に煌めく青の瞳は、今度は本当に笑っていた。
「私の失敗。最大の失敗は……。
それはきっと、この世界に生まれてきてしまったことじゃないでしょうか」
「え?」
フィオナは不思議そうな顔で皇女を見た。皇女も彼女をじっと見ていた。
納得いかなかったフィオナは、珍しく皇女に反論した。
「そんな! 殿下がお生まれになった日には、この国のすべての人間が殿下のご誕生を祝福したはずですよ」
自信満々に言ったつもりのフィオナだったが、「ああ、でも」と自信をなくしかけたのか、「私はまだ生まれていなかったので、実際にその様子は見ていないし、わかりませんが」とも素直に言った。
「そうですね。確かに私は多くの国民に祝福されていたのかもしれません。
でもそうではなくて、いつか、いつの日か、その国民の皆さんが私が生まれた日を呪うことになるんですよ」
予言者のような口ぶりで、皇女は言った。フィオナには、それがまるで、そうなる未来が見えている、もしくは確定していることが分かっているかのような言い方に聞こえていた。
「呪う?! どうしてですか?」
「そんなはずありません!」と興奮したフィオナを宥めるように、皇女は彼女の目をじっと見た。皇女はこの時も、心の底から笑みを浮かべていた。
皇女の蠱惑的なその瞳は、見た者を惑わす怪物の魔眼のごとく、フィオナを捕らえた。
その瞬間、二人の時間だけがこの世界から切り取られてしまったかのように、さらなる静寂に包まれた。
「それは……、どういう意味なんですか?」
フィオナには、それ以上の言葉が出せなかった。
ソフィア皇女には、一体何が見えているのだろう? きっと自分の想像には及ばない、壮大な何かを見ているに違いない。
そう確信したことで身震いするほどの感銘と畏敬の念を抱いた彼女は、パクパクと口を虚ろに動かすことはできても、魂が抜かれた人形のようにボッーと皇女を見つめることしかできなかった。
この意味深な発言は、もしかしたら皇女の知性に富んだ言葉のあやであって、その意味がよく理解できないのは、自分が無学なせいなのかもしれない。
純真なフィオナは、ごく自然にそう考えるのに終わってしまったのだった。
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2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
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