難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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笑い声《Ⅱ》

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 異形のカン高い笑い声を聞いて、2人の頬から涙が溢れる。
 悔しさと惨めさから、思わず口から溢れる。
 梓の専属従者となって、橘の地を守る事を責務だと覚悟したあの日の出来事が脳裏に甦る。
 自分達と近い年齢の黒から、1つのアドバイスを受けた時の事――

 「どんなに凄い奴でも、1人じゃ出来る事なんてたかが知れてる。辛くなったら、俺とか誰かを頼ってくれ……俺達は、家族だからな」

 黒の魔力が遠くで消滅したのを確かに感じた。勅令が下されるよりも前に感じていた。
 もう、黒が帝国の何処を探しても居ないと言う事は分かっている。
 分かりきっている筈なのに、2人の心の支えとなっていた黒の言葉を思い出してしまった。
 助けなど来る筈はない。来れる訳も、この声が届くとも思えない。
 それでも、掠れた声で呼んでしまった――


 「「……黒……、助けて――」」


 周囲は爆発音や異形の声で、2人の声は聞こえはしない。その上、2人は全身を負傷しており声は掠れた小声。
 周囲の爆発音が無くとも、2人の小声を聞き取れる可能性は極めて低い。
 この掠れた小声をピンポイントで聞き分けれる異常な聴覚を持った化け物など、この橘に1人もいない――
 異形がトドメとばかりに、2人へと鋭利なその爪を振り下ろす。

 「みーつっけた」

 2人を取り囲んでいた異形種が声の方へと振り返る。――が、その時には既に攻撃が行われていた。
 足下に広がる灰色の大地がその場の異形を全て呑み込む。
 呑み込んだ異形をねじ潰すかのように、灰が異形1体1体を潰す。
 灰となって消えた異形の灰を吸収し、さらに灰の量を増やした灰の大地が橘の領地全域を侵食する。
 津波のように迫る灰の波が、小型を容易く呑み込むとそのまま吸収する。
 大型や中型の腹部や頭部を灰の刃が貫き、そのまま刃が触手となって異形を呑み込む。
 橘の屋敷からその光景を見ていた梓やその他の従者達が、この馬鹿げた力を持って異形を蹂躙する事が出来る人物の顔が浮かんだ。

 桁外れの魔力を持ったの壊れた精神を案じつつも、父親に付いて倭へと向かった筈の男が弟の魔力が消えた事を感じ取って、倭から遠路遙々この帝国へと海を渡って来た。

 膨大な魔力と強大な魔物ギフトを持った――くろ
 卓越した身体能力と天賦の才を有する――しろ
 本人すら、気付いていない底知れない潜在能力を秘めながら、劣等感を抱く――みどり
 誰もが驚く高い知性と兄を凌駕する魔法への適性を有する――あかね

 この男は、それらを何一つ持ち合わせていない。全てに置いて、弟妹きょうだいに勝る点などありはしない。
 ――が、1つだけ勝る点が存在した。
 それは、家族に対する《愛》である。

 重い愛情――そんな生易しいレベルの重さなどではない。

 大陸と大陸が離れていようとも、深い海の底であろうとも――
 この男にとって、関係無いの一言で済まされる。
 地球の反対であろうとも、世界の果てであろうとも、この男の耳に家族の助けを呼ぶ声・・・・・・・・・が届かない筈が無い。

 「……よく頑張ったな。後は、僕に任せて」

 灰色の少し伸びた髪の毛を後ろで縛って、指先1つで《灰》を操る。
 その後ろ姿を、藤乃と文乃は知っている。
 橘一族の中で、父親に良く似た最も自由人で女たらしとして有名な橘家の長男《橘灰たちばな かい》――

 灰が、2人の助けを求める声に気付いていた。

 「……ごめんね。遅くなっちゃって」

 2人に向けて指先を振るう。片手で別の魔法を操りながらも達人レベルの方陣技術で治療魔法を施す。
 腹部を貫いた傷や全身の痛みが途端に引いていく。傷1つ残らずに2人の傷を完治させる。
 驚異的な魔力操作技術に加えて、異形を呑み込む荒波のような灰魔法。
 長男《灰》の登場と同時に、完全に場の流れが変わる。
 橘領地に足を踏み入れた異形は全て灰の魔法によって駆逐されれ、サラサラな砂とドロドロとした泥の2つの性質を持った灰が橘の領地を埋め尽くす。
 灰の大地の上を灰がスキップするように歩く。上下に揺れ動く度にお洒落な耳飾りが体と同じく揺れる。

 「みんな、久し振り」

 手をヒラヒラと揺らして、危機感の無い表情と声音で梓の前に姿を表す。
 黒のジャケットを一枚羽織って、下のシャツは高級感があった。
 弟の黒と違って、肌や髪にも気を配っているのか、一見ホストのような出で立ちに梓が眉をしかめる。
 耳飾りやジャケットなど、灰の体を数回触って確かめる。
 あれほどの広範囲の魔法を扱った上に、治療をして貰ったと言う2人の話から消耗は激しい筈であった。

 「ベタベタ触って、梓も僕に興味津々?」
 「ふっ、それだけバカな事が口に出来れば問題ないな。それよりも、なんだその格好は……あのバカ息子に影響されたか?」
 「どう、似合う? 倭の店で揃えたんだ。倭の子には、大盛況だったんだよ?」

 梓がチラッと横目に周囲の従者の反応を伺う。やはりと言うべきか、双子として産まれた黒の中性的な顔立ちとは異なっている。
 灰のモデル顔負けの容姿には、従者とは言え女性を無意識に惹き付ける。
 言葉にしなくとも彼女達の灰を意識してしまっている黄色い視線に、梓は自分の血の濃さを改めて理解する。
 帝国のような歴史を感じる風景や自然に近い生活よりも、海を隔てた向こう側の倭のような物や文化が溢れた土地では人は変わってしまう。
 梓の息子で、黒や灰の父親である。《橘竜玄たちばな りゅうげん》もその1人――

 帝国を出て、修業と称して遊びに出て行ったと思えば。何の連絡も無しに、子供を作ってひょっこり帰ってくる。
 それも、まだ学生であった子との間に灰を作って、橘を掻き乱した橘一族始まっての大馬鹿者。
 その上、子供が成長するな否や倭へと再び戻って、数年後に双子の黒と白を生んで戻る。
 さらに、帝国と倭で築いた高い地位を利用した大盤振る舞いに当時の梓を心底悩ませた。
 黒も若干似てはいる。が、灰ほど周りを巻き込んでの騒ぎはない。

 「まったく、親が親なら子も子だな。2人は元気か?」
 「父さんは変わらないよ。……母さんの事は、あまり話したくはないかな」
 「そうか……」

 灰が梓から目を反らす。梓は直接連絡を取ってはいない。
 竜玄から何かしらの連絡がない限りこちらから連絡は極力取らない事を決めている。
 倭での療養生活で、万が一でも帝国の話を耳にして再びトラウマを呼び起こす訳には行かない。
 その為、灰の表情を見て何かを察する。

 「……昨日、母さんに女性関係で怒られたばっかりなんだ」

 頭を掻いて、笑みを浮かべる灰に堪らず梓が灰の頬をつねる。そのまま屋敷の奥へと引っ張って連れていく。
 そこから、何時間にも及ぶ説教に灰はぐったりとするのはお約束――

 魔法の影響が消え、橘の領地に再び緑豊かな風景が甦る。
 潰された建物や畑を耕して、復興に勤める者達は口にしない。
 が、心の中では心配をしていた。
 敵の手によって消えた黒の事で、帝国の帝都から竜帝とその付き人が橘の屋敷へ訪れていた。

 帝国の王。竜帝陛下とその付き人の2人を前に、梓と灰、碧と茜の4人が広間で竜帝と共に今後に付いて話す。


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