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アトム《Ⅱ》
しおりを挟む列車が徐々にその速度を下げていく。半壊した車両が駅のホームに擦れて、金属と金属の擦れる音が響く。
列車が停車するのを見計らって、黒とナドレの2人がホームに降り立つ。が、周辺から漂う違和感に即座に気付いた2人が、ハンドサインでロルトとセラに《警戒》の合図を送る。
「おかしい……ですね」
「あぁ、駅員の気配すら感じられない。いや、それよりも――」
黒とナドレの2人が身構える。こちらへと接近する魔力に気付き、魔力のする方向を睨む。
ホームの天窓を突き破って、重機関銃を持った大男が機関銃の銃口を向ける。
黒ではなく。セラ、ロルトが守る乗客へと――
「――クソッ!!」
走る黒、銃口の前へと身を投げだして魔力による防壁で正面から銃弾の雨を防ぐ。
――バババババババババババババッッッッ!!
男の足元にばら撒かれる空の薬莢がその銃弾の勢いを物語る。壊れる端から、黒は惜しむ事無く魔力を注ぐ。
防壁の強度を保ちながら、その範囲を徐々に広めていく。
ナドレが単身、男の元へと駆け出す。しかし、ナドレの妨害を計算に入れていた襲撃者達は、潜んでいた襲撃者達の介入によって完全に止められる。
どんなに速く動こうとも、次々と隠れていた襲撃者がナドレの行く手を阻む。
「クソッ!! 近付けない!」
焦るナドレの前で、襲撃者達はヘラヘラと笑う。そして、天窓からさらに追加で重機関銃を背負った男が2人現れる。
黒が叫ぶ。魔力を注ぐ量を増やし、後ろの乗客を守る為にその身を盾にする。
ナドレが襲撃者の妨害を抜け、3人の機関銃持ちを葬る。一瞬、黒が魔力を緩める。
まるで、その時を待っていたとばかりに黒の懐へと肉薄した1人の少女の強力な殴打が駅のホームから黒の両足を浮かせる。
研ぎ澄まされた高純度な魔力が大気を切り裂きながら走り、稲妻となって黒の肉体を貫いて、衝撃と共にその体を吹き飛ばす。
列車から遠く離された黒を見て、彼女は微笑んだ――
「さぁ、ヤッちゃって――」
黒の代わりに列車へと走るナドレだが、両サイドからおおよそ身長の2倍あるであろう大男2人が、手加減無しの強力なタックルの妨害によってナドレの動きは完全に止められる。
セラ、ロルトの2人を前に女の手が振り下ろされる。
――バババババババババババババッッッッ!!
ホームのいたる所から機関銃の弾幕が起こる。
ロルトが円形のドーム状に防壁を展開するも、数秒と保たずに破壊され乗客へと銃弾が届く。
ロルトの声で、身を屈める乗客の阿鼻叫喚を目の前の特等席で聞いて、ご機嫌な彼女は1人――ワルツを踊る。
後方から迫る黒の攻撃を大男の体を張った盾で防がれる。舌打ちする黒――
全力の攻撃であれば、防がれはしない。例え、鍛え抜かれた男の生身の体であっても、その体一つで防げる様な軟な攻撃ではない。
だが、防壁の展開に魔力を使い過ぎた黒の力では、その程度であった。
僅かな魔力程度では、目の前の男には蚊ほども効きはしなかった。
「それが、全力で?」
一歩退く黒だが、男が防御から攻撃へと瞬時に転じ、黒を地面へと叩き付ける。
阿鼻叫喚と弾幕の2つが奏でる音楽を聞きながら、彼女は愉快に笑う――
人の不幸、悲しみ、恐怖を存分に楽しむ彼女の声はホーム全域に響き渡る。
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