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しおりを挟むイオの背後から、ザメルの魔力が消えたのを感じた。
涙を流しながらも、慣れないヒールを履き捨てて、裸足で逃げる。
ザメルやグランヴァーレの騎士達が稼いだ僅かな時間を無駄にしない為に、彼女は無我夢中で走った。
グランヴァーレと外を隔てる城門を抜けて、草原の広がる世界へと飛び出す。
が、そこには機械兵器が待ち構えていた。トットノークとイオが街の人々を守るように一歩踏み出す。
「トットノーク、皆を守って……。私は、大丈夫だから」
『イオ……』
銃口をイオへと向ける機械兵器達だが、一人の号令で全機が動きを止める。
イオ達の前へと杖を鳴らしながら、老人が姿を現した。長い髭を弄りながら、イオへと笑みを向ける。
「お初にお目にかかります。イシュルワの最高指導者のウォーロック・ザムザインと申します。この度の侵略行為は、イシュルワの裏切り者が企てたものです。私共は、グランヴァーレに攻め入るなどと決して思っておりません」
「では、その裏切り者と言うのは、何者ですか?」
「はい、その裏切り者の名は――《トゥーリ》と名乗っております。イシュルワの政治などを任せておりましたが、何処ぞのバカに唆されまして……」
「では、この機械兵は何ですか? なぜ、私達に銃口を向けるのでしょうか?」
「それは――」
ウォーロックがゆっくりと目を開く。口角が釣り上がり、機械兵器達の銃口が油断していたイオへと一斉に火を吹く。
ウォーロックの笑い声を掻き消すほどの轟音が響き、地面を揺らす。
ウォーロックは、グランヴァーレ侵略行為のすべてをトゥーリへと押し付ける事を計画していた。
グランヴァーレ侵略を企てた反逆者を自ら作り上げ、そして――自らの手で仕留める。
仮に、邪魔な皇帝が2人ほど居ても他国の戦力がグランヴァーレを落としたトゥーリへと向く。
他国とて、一国を落とした戦力を見逃すほどのバカではない。皇帝2人もトゥーリを守りながら、他国と戦うのは一苦労。
そこを漁夫の形で、3人まとめて始末する。簡単な計画――
誤算があるとすれば、それはトゥーリを守る騎士を見誤った事だ――
「他国の女王を自ら手に掛ける。これは、国際問題だな――ウォーロック・ザムザインッ!!」
砂煙の中から、ローグがイオを守るように銃口から放たられた弾丸を受け止める。
グランヴァーレの正門で、トゥーリとローグは戦闘をしていた筈だ。そう、通信で聞いた。
故に、こうして手薄となったグランヴァーレの女王の前に出て来た。
「おい、どうなっている!! 正門で、皇帝を食い止めている筈だろう!?」
「は、はい! トゥーリ様とガゼル様のお二人に加えて、黒竜帝の姿を確認しました」
今起きている誤算は、単純な勘違いだ。トゥーリを守っている皇帝が、ローグとガゼルだと誤認していた。
だが、本当はガゼルと黒の2人であった。
ローグは、イシュルワが攻め込んで来たといち早く気付いて走ったトゥーリと黒の後に、密かにガゼルを着いて行かせた。
そして、ローグ本人はこの国の為に立ち上がった。イシュルワ出身の戦い大好きのバトルジャンキーだが、それでも信念があった。
それは、皇帝としてのプライド――
「俺は、他国であっても……誰かを巻き込む戦いは好きじゃねー。まして言えば、卑怯な手を使う奴は、誰であろうと許さない。……王として、ダセェ背中は許されねーからな」
ウォーロックの指示で、機械兵器が動く。が、一薙で機械兵器の上半身が消える。
ローグの放つ特大の魔力が機械兵器の体を柔らかなパンをちぎるかのように、横薙ぎに破壊する。
グチャグチャに破壊された鉄屑を投げ捨て、一塊となった機械兵器の残骸を見てウォーロックは顔を青く染める。
「言ったよな? 黒竜に手を出すなら、中途半端は戦力はぶつけるなって……。この子も、この国の皇帝だ。経験と知識は無くとも、黒竜と同じく。敬意を払って挑むべき相手だ。生半可な覚悟で、この領域に土足で踏み込んでじゃねーぞぉッ!!」
怒りを顕にしたローグが、魔力を全開でウォーロックを威嚇する。
背から出願した巨大な顎を持ったワニの様な魔物が咆哮を挙げる。
全身を鋼のような鎧で見を包み、強靭な顎は全てを喰らい尽くす。
鉄壁の要塞であろうともその小さな手足でも粉砕は可能。何せ、この魔物は全てを喰らい尽くす事に特化しているからだ。
並び立つ他の皇帝と戦える日を夢見て、研鑽に研鑽を重ねて努力の果てに、この力と魔物の潜在能力を極めた。
「この私が――その領域とやらに相応しく無いとでも言うのかッ!! 貴様ッ!!」
ウォーロックの指示で、イオ達の前に立つ機械兵器達が動く。だが、この男の前では機械兵器など単なる鉄クズに過ぎない。
振るう拳によって、機械はその形を変化させる。捻れ、潰れ、引きちぎられる。
圧倒的な力の差によって、機械兵器が破壊される。ウォーロック自身も時間稼ぎにしかならないと気付いている。
が、ウォーロックの狙いはその時間稼ぎにあった。
(このまま、このバカをこの場で押さえる。そうすれば、今回のグランヴァーレ侵略計画の首謀者のトゥーリとその他を抹殺する為に、控えさせたイシュルワの皇帝が到着する。後は、黙って見てれば良い)
ウォーロックの狙い通り、機械兵器の座標を元に本国から移動用の機械兵器に乗って、2人の皇帝がグランヴァーレへと迫る。
その事に誰よりも速く気付いたイオが、声を発する。危機遠来を察知した者の役目を全うする。
――が、ローグは皇帝の襲来をしりつつも一歩も動かない。逃げるのは当然として、逃げ場のない飛行予想線状に攻撃を置く事もしない。
「ウォーロック・ザムザイン……よく、見てろ。その老眼でハッキリと見せてやるよ――」
草原の一部を吹き飛ばし、砂埃の中からイシュルワから飛来した皇帝2人が笑みを浮かべる。
2対1の有利な状況下で、一方的に遊べる状況を夢に見ていたかのように――彼らは笑う。
そして、ローグもまた笑みを浮かべていた。だが、彼ら2人とは明確に異なる笑みであった。
名誉のある戦いか、否か――
己の誇りに見合うか、否か――
どちらも違っている。ローグは、ただこの場で証明出来る事に一人歓喜していた。
何せ、自分の直ぐ近くに本物の皇帝が居るのだからだ。
皇帝同士の戦いは、頂きを目指すのであれば避けては通れない。否、頂きに至るのであれば――帝と帝の戦いは必須。
それしか、互いに高め合う方法が無いのだから――
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