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ナドレとロルト
しおりを挟む船内に備わっている大きな厨房の奥で、暇を持て余したナドレがロルトと一緒に、今晩の献立に使う材料の下処理を行っている。
「そんな、下処理などは私達がやります」
「いえ、時間がありますし……何より、何かしていないとダメになりそうなので」
「……分かりました。では、私はあちらに居ますので何かありましたら、何なりと仰って下さい」
忙しなく動く乗組員を見詰めながら、ロルトが慣れた手付きでジャガイモなどの皮を剥いていく。
負けじと姉であるナドレも人参やジャガイモの皮を剥いていく。
だが、ナドレの手が時折止まるのをロルトは見抜いていた。時間にして見れば、非常に短い機関ではあった。
しかし、寝食を共に過ごしたセラを簡単に切り捨てた事に、ナドレはまだ納得できていなかった。
「――姉さん。気持ちは、分かるよ。でも、こればっかりは仕方ないよ」
「……仕方ない?」
「セラさんの力を目の前で見て、アレを操れるのは相当な時間と努力が必要。でも、今の僕達には……時間と人手が足りない。場合によっては、彼女を守りながら倭へと向かう可能性だってあった」
「それは、分かってる。でも、でも――」
ナドレの手が完全に止まる。ナドレ、ロルトは魔物を宿していない。正確には、未だに覚醒を経ていない。
それ故、セラのような魔物の突然の覚醒がどんな感覚なのか知りもしない。
だが、セラとて好きで覚醒の道を選んだ訳では無い。それは重々理解している。
セラの力の強大さやこの先でのリスクも当然理解している。が、理解と納得は別の話である。
以前の黒は、世界でも知らない者が居ないとされるほどの実力者である。例え、魔力を失ってもどうにかできたと思っている。
ビフトロが重要な拠点というのも理解出来る。だが、あの蒸気の巨人の存在もある。
ビフトロにセラを残さなくても良かったのではと、未だに思ってしまう。
「自分勝手だよね。私は、セラさんともっと旅がしたかっただけだったんだ……」
「姉さん、僕もだよ……。僕も、セラさんと旅がしたかったよ」
皮剥きを終えたジャガイモを洗ったばかりのカゴへと入れ、別のジャガイモへと手を伸ばす。
黙々と皮剥きを行う2人の中に、芽生える黒への不信感。倭へと向かう道中では、セラや自分達を頼っていた。
が、ローグやトゥーリと言った皇帝が交流した途端に、セラを切り捨てた。理由がどれほどの正論であれ、彼女や自分達の意見を聞こうともしない黒の姿に不満が募る。
そして、最も不信感を決定付けたのは――ロルトの言葉であった。
「ねぇ、姉さん」
「……なに?」
「何で、秘密を共有した筈のセラさんを置いていったのかな?」
「――は? 何言って……っ!?」
「いや、そうでしょ? 他言無用とか言ってて、途中で降りれない雰囲気出してたのに、セラさんだけ置いていった……」
倭へ向かう道中で、黒が話した倭での目的。ほの内容を聞いて、3人は覚悟を決めた。
にも関わらず、黒は早々にセラを突き放した。国家の存亡が危ぶまれる情報を知った筈のセラを――
「もしかして、八雲の話はどうでも良い嘘情報? でも、信憑性のある嘘を話す必要性って……何?」
2人は、ますます黒の目的が分からなくなる。
他言無用だ――と、倭に関する秘密を共有しておきながら、秘密を共有した1人を切り捨てた。
単純な力不足で、切り捨てるには大き過ぎ代償だと思える。それに、この船ならば人員の1人2人増えた所で変わりはしない。
その上、セラが秘密を漏らさないとも限らない。黒が取った行動のすべてが裏目にすら出る恐れもある。
「もしかして、何も考えてない?」
「まさか、でも……何がしたいのかは分からないわね」
カゴ一杯に積まれたジャガイモを隣の厨房へと渡して、ナドレは手を洗う。
ロルトも姉の隣で、手を洗いながらも既に黒への不信感は限界であった。
2人の中に渦巻くのは、黒の本当の目的が四大陸の壊滅ではないのかと言う妄想染みた考え。
だが、現在の黒の行動全てが四大陸の崩壊の引き金になり得ていた。
「――私は、カエラ様に連絡する。ロルトは、橘さんを監視して」
「了解……場合によっては、殺すよ?」
「場合によっては――ね」
別れた姉弟、それぞれの役目を全うする。ナドレは、カエラから受けていた護衛を続けつつもカエラに黒の行動の怪しさを報告。
ロルトは、黒の怪しい動きに対応出来るように、袖と手にナイフを忍ばせる。
船の中で、黒を心の底から信用している人物は1人も居ない。
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