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戦争を始めよう――《Ⅱ》
しおりを挟むフードで顔を隠した男は、ナドレから奪った八雲を手に、悦に浸っていた。
メリアナからの攻撃には、肝を冷やしたがそれを差し引いても得た物は大きい。
しかし、そこで気付く――。自分が、その場に誘導されていた事に――
円卓の聖騎士団の敷地から、離れられるのであれば何処でも良かった。
そんな理由から、特に位置などは指定せずに遠く離れた別の場所へと空間跳躍した。
――だが、それを見透かされているとは、到底思いもしなかった。
「――縛」
横から聞こえた特殊な単語の後に、咄嗟に腕で真横からの攻撃を防ぐ。
後ろへと後退したが、大したダメージではなかった。
後退させられ、防いだ際に使った腕をプラプラと揺らす。骨が軋む音を挙げたが折れてはいない。それだけでも確認する。
腕が問題なく動く事を確認し終えて、自分の目の前に居るとは思っていなかった黒竜帝へと鋭い眼光を向ける。
居るとは思っていなかった。故に、黒が自身の目の前に立っていた事に驚きはした。
――が、居る事に驚いただけで、黒の実力は到底脅威とは程遠いレベルにまで下がっている。
そんなかの帝に、この男は何一つ恐れはない。恐れる要素がそもそも存在しない。
礼儀とばかりにフードを脱ぎ、頭を下げる。フード下から見えた真っ白な髪色に金色の瞳がよく映える。
その上、細身な見た目とは裏腹に独特な力強さを放っている。
一目見て、この男の異質な強さを黒竜帝は見抜いた。
「お互いにコンディションが、最悪なのだろう? ここで、ぶつかるのは互いに避けるべきと思うのだが、君はどうかな?」
「悪いな、勘違いさせて……。俺は、最悪と言っただけで――お前を潰すのに、問題はねーよ」
軽く飛んで、着地と同時に男へと肉薄する。その速度に、男は眉を潜める。
予想外の動きに、男の認識が覆る――
鞘に収まった八雲を後方へと軽く投げ捨て、懐から取り出したバタフライナイフで応戦する。
ナイフを振って、肉薄した黒から少しだけ距離を置く。魔力を帯びた黒の四肢が巧みな戦闘技術と相まって、男の間合いを徐々に侵蝕する。
――シッ!! ――地面すれすれに姿勢を低く保った状態からの蹴りが男の腕を容易くへし折る。
その衝撃と痛みに耐えかねたのか、表情が僅かに曇る。そして、閉じた口から微かに声が溢れる。
地面を転がって、黒から距離を離した。しかし、そこで初撃の異質な攻撃の効力が発動する。
黒から距離を離した。にも関わらず、自分の体は黒の真横へと瞬間移動していた。
そこは、初めに攻撃を受けた場所であり、黒はそこに移動するのを知っていたかのように男目掛けて拳を叩き込む。
防御など無いその体に突き刺さる漆黒の稲妻が、男の体を細胞レベルにダメージを与える。
練度の高い《黒色》の魔力に加えて、黒自身の高い魔力制御技術によって、その痛みは激痛などとは言い難い。
激痛のさらに上の領地の痛みが全身を襲う。
血を吹き出して、ボールのように地面を跳ねて飛ぶ。
瓦礫がクッションとなって、勢いはそこで止まる。だが、口から流れ出る血の量と、全身を今尚襲う痺れの強烈さに男の目の色が変わる。
「……やって、くれたな。魔物を持たない。ゴミの分際で……」
「なんだ? たかが1発で、もう動けないのか?」
黒が、男へと手招きする。挑発するように僅かに口角を上げて、余裕さを感じさせながら――
「――殺す!!」
一気に間合いを詰めて、跳躍する。しかし、黒へと間合いを詰めるよりも先に死角から放たれた蹴りが男の顔を捉えていた。
無警戒な方向から、突然与えられたダメージの高い一撃に意識が持って行かれる。
蹴りを与えた人影は、着地と同時に体を捻る。そのまま捻りを加えた拳による殴打で、男の体を地面から引き剥がした。
空へと飛び上がった男へと、銃弾の雨のように光の刃が放たれる。
次々と体に突き刺さる刃の激痛は、黒の殴打よりかは幾分かマシではある。
だが、脅威なのはその質量であった――
既に、数千本の刃が体に突き刺さり、刺さった側から霧散する。
持続力よりも1発1発の威力に魔力を込めているのが、着弾した時点で分かる。
突き刺さる勢いが増し始め、男の体が更に上空へと浮き上がる。地面に足が付くのを許さないと言わんばかりに、襲い掛かる刃の雨が四方八方へと襲い掛かる。
「――消え失せろッ!!」
振り上げた刃が男の体を遥か彼方へと弾き飛ばす。
刃の破片が空から降り注ぐ。パラパラと頭に破片が舞い落ちる。
「……病み上がりだろ? 体が悲鳴挙げても、知らねーぞ?」
「黒くんよりは、体が丈夫な自信はあるよ?」
フフン――と、得意げなメリアナの横で、黒は軽いストレッチを始める。
彼女も黒を真似て、体を伸ばす。黒と違って、メリアナは肉体が再生した事で本来の実力を発揮できる。
しかし、2年ものブランクが《肉体》と《精神》のバランスを崩してしまう恐れがあった。
迂闊に全力を出せば、精神が肉体を追い越してしまう。ただでさえ、倭最高位の戦力であるメリアナの力が暴走すれば敵を全滅させるよりも先に倭が消える。
短く息を吐いて、メリアナが右手に聖剣を逆手に持つ。左手に魔力を集中させて、黒を待たずして先行する。
目を瞑って、黒が単独で先行したメリアナの背中を見詰める。
「……メリアナ、安心しろ。暴走したら、しっかり――殺してやる」
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