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側に居なくても《Ⅱ》
しおりを挟む地面に倒れたままなローグが意識を取り戻す。
ゆっくりと立ち上がって、腹部の塞がった傷に触れる。
なぜ、生きているのか分からなかった。しかし、体力、魔力共に全快している。
体のコンディションは快調そのもので、さっきまで死にかけていた自分が嘘のようであった。
その上、魔物の様子が妙にざわついて、違和感があった。
「――何だ、コレは?」
自分に宿った魔物《トリスメギス》に違和感を覚えながらも、ローグはトレファの魔力のする方へと駆け出す。
その方角は、トゥーリが防衛を任された場所に近く。その近くで、トゥーリと思しき魔力の揺らぎが慌ただしく感じ取れる。
「クソッ!! 無事でいてくれ、トゥーリ!」
地面を蹴って、空へと飛び上がった。
違和感が明確に体に異変を与える。
飛び上がって、トゥーリの魔力の方へと意識を向ける。すると、世界がゆっくりと進み始める。
音や光が次第にゆっくりと動き始め、自分だけが世界から取り残される奇妙な体験を強いられる。
その中で、ローグは千里眼でも発言したかのようにトレファと対峙するトゥーリの姿を視認する。
そして、トゥーリの背後へと回ったトレファがその手に持った刃を振り下ろす瞬間が映像として脳へと流れる。
衝撃が電流となって、全身へと流れる。その一瞬の出来事に訳が分からないと混乱する。
しかし、今はどうでも良かった。今だけは、どうでもいい――トゥーリが危ない。
ローグの脳で導き出した答えに、ローグの意志を形にする為にと、魔力が応えるかのように全身へと流れる勢いを増していく。
そして、まるで眠っていたかのように――魔物が目を覚ます。
脳裏に浮かんでは消えるを繰り返す言葉の数々、ローグの言語とは異なる不明な言葉が様々な形で脳へと送り込まれるかのように焼き付けられる。
激しい頭の痛みに耐えながら手を伸ばす。大切な、仲間の元へと――
「天地、喰らえ。――《トリスメギス》」
眩い閃光が倭の地を明るく照らし出す。そして、その閃光の後に爆発的に膨れ上がった魔力が周囲一帯の異形を跳ね除ける。
倭へと侵攻していた異形の約8割が、海上へと吹き飛ばされる。
倭の上空で弾けたその魔力の爆発は、多くの騎士達の目に留まる。
そして、トレファの元へと急ぎながらも、あのメリアナですら、その存在の覚醒を前に走るのを止めてしまう。
「……黒くん。彼も、私達と同じ領域に到達したよ――」
前線で奮闘するトゥーリ、ガゼル、ナドレ、ロルト、碧、茜の6名とその他の騎士達はかつての王の姿を重ねる。
在りし日のその王も力を見せた。その姿は、漆黒の鱗に全身が覆われていた。
曇天の空を覆い隠すほどの魔力と高圧的なオーラ、その爪、その牙は、ありとあらゆるものを破壊する。
帝国、倭で最も浸透している。《恐怖》の象徴――
それとは、見劣りするもののその場では、大きな戦力となる。
「――蹴散らせッ!! トリスメギス――ッ!!!!」
宿主の声に反応し、魔力の渦から巨大なワニが現れる。
全身を強固な鋼の装甲で、魔法や物理的な攻撃の全てを弾き無効化する。
そして、最も特徴的な巨大な大きな顎で、大型や空を飛び交う飛行型を噛み千切り――喰らう。
飛行や小型、中型は咀嚼すら行わず。大型はその大顎で、丁寧に咀嚼しながら倭の地に上陸しようとする異形を視界に映る個体から端から食らう。
バァヴァァァァァァァァァ――!!!! ガギンッ!! ガギンッ!!!!
顎が噛み合う音は、鋼と鋼を力任せに叩き合う様な音が響く。
小さな手足からは想像できない瞬発力と跳躍力から、海上の異形を蹴散らす。
自身の計画の狂わせる原因を見定め、歯ぎしりするトレファが、トゥーリを殴り飛ばして原因を仕留めに動く。
トゥーリが拳銃でトレファの右肩を撃つ。出血し、痛みで前へとよろめくトレファが激しく怒りを露にする。
間合いを詰めるトレファへとトゥーリが残弾を気にせず、全て打ち尽くす。
だが、トレファは銃弾に屈する事無く。トゥーリの首を掴む。
息が止まり、苦しみ暴れるトゥーリを片手で持ち上げ締め上げる。
しかし、気が付けば――トゥーリの姿が目の前から消える。
トゥーリを抱き抱えたローグが、トレファの手を切り落としてトゥーリを救出する。
切断され、地面にボトリ――と、落ちた片腕をトレファは何の感情も無いまま拾い上げる。
まるで、痛覚が備わっていなかのようにハンカチを落としたと同程度の感覚で、手の切断箇所を合わせる。
湯気が立ち込め、傷口と手が完全に塞がる。切り落とされた腕が完全に元に戻る。
見ると、メリアナが切り落としていた手首すらも、既に完治している。
黒、メリアナが扱う再生治療とは、また異なる化け物地味た異形の力――
「どうやら、八雲から与えられる膨大な魔力で、肉体が自動で再生するようだ。これでは、君に勝ち目がないぁ~ゴキブリくん」
「……」
「無視は、良くないよ。虫けらとは言え、この私との会話を光栄に思え――」
「……お前か?」
「――は?」
トレファが八雲を持つ手をヒラヒラと揺らしながら、ローグからの問い掛けに反応する。
そして、ローグが放った一撃に反応を忘れる。
否、正確には――反応が出来なかった。
これまで、相手の力量を見誤って、深手を負った。その為、ローグとメリアナに対しては全力を以てして相手をする事を決めた。
決めた矢先に、反応か遅れる。
それは、格段にトレファの認識を超越したローグの進化が影響していた。
ローグの一撃に反応出来ず、その場から大きく離される。
正真正銘の皇帝の一撃が、トレファの体の内側に大きなダメージを与える。
それも、今までの一撃とは格段に異なる一撃であった。
しかし、八雲の無限にすら近い魔力がトレファの肉体を再生させる。
油断は無いが、十分な警戒が必要なのは間違いない。トレファが八雲をローグへと向ける。
「……ごめん……ローグ…」
ローグの傍らで、トゥーリが小さく囁く。
自分の弱さを悔やんで、静かに涙を流す。きっと、ローグという大切な存在の生存に安堵する一方で、再びローグに戦いを強いた自分の情けなさに悔しさを押し殺し切れなくなる。
が、ローグはそんなトゥーリを――優しく抱き締める。
「ありがとう……側にいてくれて、ようやく俺にも分かった。あの橘黒が、あの領域に立てて……何で、俺には立てなかったのか」
自分から背を向けたローグに対して、トレファが一切の躊躇の無い一撃を浴びせに掛かる。
しかし、背面からの攻撃に対してもローグの動きはトレファに捉えれない。
トレファとトゥーリの間で、ローグはその瞬間だけ――世界最速の速さを掴み取る。
それによって、間合いを詰めた筈のトレファの体が後方へと吹き飛ばされる。
一撃の殴打とトレファが認識した時には、既に数十発分の殴打がトレファの芯へとダメージを与える。
腹部を押さえて、血を吐き出したトレファがローグを睨む。
「――守りたいから、全力を出す。俺に足りなかったのは、その覚悟と……側にいてくれた。護りたいと決めたトゥーリの存在だ」
ローグが一歩踏み込む。
前屈みになって、全身から溢れんばかりの漆黒の魔力を解き放った。
ローグを包み込む漆黒の魔力が、徐々にその勢いを増していく。もはや、今までのローグとは別次元の力を見せる。
「見ててくれ、トゥーリ……俺は、絶対に負けない。トゥーリを、みんなを守る為に手にしたこの力――その力に相応しい《皇帝》としてッ!! 今ここで、お前を――倒す!!」
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