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十二の刃《Ⅱ》
しおりを挟む男は、手を振り上げる。乱れた和服から肩が露出し、鎖骨が露になる。
一見すると、ワイルドで遊んでいる青年――。しかし、ここは、戦場である。
当然、彼が遊ぶのは女でも酒でもない。戦場と言う名の賭場で、命を掛けて勝負に挑む。
「――シッ!!」
振り上げた腕を横に一閃、横1列にになって並んでいた異形を薙ぎ払う。
薙ぎ払われ開かれた道から、続々と黒焔騎士団の者達が駆け抜ける。
目指す場所は一つ――、倭である。だが、トレファには在る疑問が頭をよぎる。
なぜ、彼らは未来やメリアナを見捨てて、倭へと一直線に進むのか――
トレファの目線の先に、傷付いて倒れるメリアナと碧、茜に寄り添う未来の姿があった。
「見捨てた? なら、……あの女を目の前で殺す。そうすれば、無視は出来ないだろう……」
トレファが八雲を手に、未来へと急接近する。
その魔力に気付いた未来が障壁と防壁の2つを展開する。外からの攻撃に対して絶大な効果を発揮する結界によって、攻撃が遮断される。
――悪足掻きが……。イラ立つトレファの背後へと、女性の人影が静かに近付いていた。
一瞬、トレファが気付くよりも先に僅かな隙きを逃すこと無く。トレファを未来達の前から退けさせる。
攻撃が当たる事はなかった。だが、未来の前から退く事を余儀なくされる。
そして、待っていたとばかりに――。トレファに感知される事無く。
地中から飛び出した者が、拳に一点集中させた魔力を爆発させる。
背面からの衝撃、魔力による爆発力がトレファの肉体にダメージを与える。
吹き飛ぶトレファの眼前へ、先程の人影が地中からまるで、水中から飛び出したかのように現れる。
地中から現れたのは、金髪、黒眼、褐色肌の女性。彼女の冷やかな視線の相手は、トレファである。
その相手の足首を掴んで彼女は、地面に向かって落ちる。
水中に潜る様な体勢の彼女が地面に触れた途端、地面が水の様に柔らかくなる。
そのまま彼女と共に、トレファの片足も地中に引き込まれる。
そして、潜って直ぐに、彼女が手を離した事で地面が急激に固く元に戻る。
それによって、片足だけを地中に埋められたトレファは一瞬だけ身動きが取れなくなる。
事前に示し合わせていたのか、そのタイミングを狙って、トレファを覆い隠す巨大な影がトレファを見下ろす。
前方に巨漢の男が、息を吐いて力を貯める。抜け出すタイミングがズレた事で、トレファはその攻撃を避ける事が出来ない。
頭上から振り下ろされる丸太のような剛腕が、トレファにダメージを刻み付ける。
攻撃と地面の板挟みによって、衝撃が逃げ場を失う。地面に亀裂が生まれる。
逃げ場を失い。エネルギーが爆発し、トレファのぐちゃぐちゃになった肉体が再生しながら、地面を力強く跳ねて空へと舞い上がる。
黒髪、青眼の巨漢の男が再び腰を落として、何もできずに落下するトレファに渾身の拳を叩き込む。
空へと舞い上がって、身動きの取れない相手に対してもこの男は容赦なく拳を叩き込む。
ピンポイントで、男の剛腕がトレファの顔を捉える。
骨が軋む音が響き、血液と脂で水々しい音も聞こえる。確かな手応えを得て、力のままに振り抜く。
「《お嬢》に手を出して……俺ら、師団長が黙って見てる訳ねーだろが――ッ!!」
振り抜いた拳が大気を叩いて、衝撃波に巻き込まれるトレファはボールの様に大地を幾度と転がる。
逃げる隙も、防御する隙も与えない高度な連携プレーがトレファを更に未来から引き離す。
そのまま転がっていたトレファの体に、再び衝撃が走る。後方から遅れて、倭へと向っていた1人の女性の前にトレファが転がってきた。
ボールの様に自分の足元へと転がる物があれば、蹴り返すのが彼女のルールであった。
そう、彼女の中にルールがあった。
金髪、黒眼の彼女が気怠そうに目を擦りながら、トレファを渾身のパワーで蹴り飛ばす。
背骨が砕ける音共に、鮮血をトレファは撒き散らす――
「《ノルバ》、私の前にゴミを置かないで……邪魔」
「悪いな、《夏菜》ちゃん。てか、第二師団の連中置いて来たのか?」
「違う……置いて行かれたの。私が――」
「ノルバ、夏菜ちゃん。喋ってると、異形に潰されちゃうよ?」
「《シャルル》ちゃんも第八師団の皆に置いて行かれたの?」
「ううん、ちゃんと作戦地点指示して向かわせたよ。後は、《ミィーファ》ちゃん達の後方部隊の誘導と援護が残ってる。ていうか……《天童》先輩、めちゃくちゃ暴れてません?」
巨漢の《ノルバ》、褐色肌の《シャルル》、金髪気だるげの《夏菜》の3人が見詰める先で、蛮族のように異形を片手で蹴散らす男の姿があった。
豪快に笑いながら、目に付く異形の尽くを蹴散らす。
外からの印象は、和装イケメン――。しかし、身内である黒焔騎士団の面々から見れば、団長である黒と並ぶ戦闘狂である。
戦いを楽しむ癖があり、強者との戦いを心底楽しんでいる。
今も自分に与えられた任務を忘れ、異形に拳を叩き付けている真っ最中であった。
「……ノルバ、お願いね」
「はぁ!? イヤイヤ、夏菜ちゃん。俺が、連れて来れる訳ねーだろ……アイツだぜ?」
「……ノルバ、頑張って!」
「あっ、おい! シャルル……行っちまったよ」
頭を抱えるノルバが、暴れる天童に呆れる。
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