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新章 序章は終わりを告げる――【佇む『観測者』は、脚本を綴る】

3名の皇帝《Ⅱ》

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  王の世代――。王の世代と言っても、全員が全員黒やハートと仲が良い訳でも顔見知りという訳でも無い。
  同じ世代であっても、ユリシアの様に世代の仲間入りを断った者も多い。
  その訳は、単なる実力差もある。が、本当の理由は――

  「同窓会って、気分じゃないんだよ……」
  「良いじゃない。昔のよしみで、挨拶に来ただけよ。それに、もう帰れないわ……先輩・・に対する礼儀がなって無いからな――」

  男の拳がハートの顔を捉えた。
  骨がぐちゃぐちゃになる音が港に響く。が、それはハートの顔ではない。
  男の拳がハートの手によって、指の骨を粉々にされた音であった。

  「いつまで、先輩面してやがる。たかが1年……先に生まれた分際でイキがんなよ?」
  「……ガキが」

  一歩退いた男の背面に、ハートが回り込む。
  顔色が急変した男の脇腹にハートの肘がめり込み、骨がバキバキと折れる音が響く。

  「おいおい、柔らけーな。昔だったら、俺の肘が砕けてたぞ? 随分とフヌケたもんだなッ!!」
  「言うじゃなぁい……まだまだ、ここからッよぉうッ!!」

  ハートの顎をヒールで力強く蹴り上げ、浮いたハートの顔にぐちゃぐちゃに砕けた筈の拳が振り下ろされる。
  漆黒の稲妻が生まれ、ハートと共に海面に放たれる。
  一直線に放たれる漆黒の稲妻が海面を引き裂き、雷鳴と共に海水が蒸発する。

  「良いのが、入ったんじゃない?」
  「ブッ――。ッッ……クソ野郎が」

  海水の中から飛び出して、全身ずぶ濡れの状態でハートが男の前に再び立った。
  構える両者の間に割って入る2人の男女、黒髪短髪のメガネを掛けた青年がスーツのネクタイを緩めて、男とハートの間に割り込む。

  「ティンバーさんよして下さい。それと、ハートさんも挑発に乗らないでください。全く……昔と変わってない」
  「……ティン……ハートと仲悪すぎ」

  ティンバーと呼ばれた男の隣で、一人の女性がティンバーの袖を引っ張る。
  文句があるかのように、袖を引っ張ってティンバーのスネを軽くつま先で小突く。

  「ふぅ……少しはしゃぎ過ぎた見たいね。止めてくれて、ありがとう。宗治そうじちゃん、紫苑しおんちゃん」
  「少しは、自分で抑えて下さい。僕達よりも大人ですよね?」
  「……1番……子供……」
  「分かったわよ……でも、1番の子供は――黒竜帝カレでしょ?」

  2人の仲間の前で、ティンバーは倭の方を指差す。
  一番高い建物の屋上から、ティンバー達3人を見下ろす黒の存在にこの場の誰よりも速く気付く。
  ハートがずぶ濡れの上着を脱ぎ捨て、背後からティンバーの後頭部を蹴り飛ばす。
  漆黒の稲妻が1度だけ弾け、一回転したティンバーの顔はそのままコンクリートの地面に強く打ち付ける事となる。

  「勘違いするなよ? 今の1発は、この場での狼藉に対する罰だ。それと、次は殺す。宗治、紫苑……手綱はしっかり握ってろ」
  「ハイハイ、目が怖いですよ。ハートさん」
  「……」
  「紫苑、なに黙ってんだよ。手綱を握ってろって言ったんだぞ?」

  田村宗治たむら そうじと呼ばれたもう一人の皇帝の背中に、斑鳩紫苑いかるが しおんは隠れた。
  黒色の長髪に濃い青のメッシュが入った彼女は、マスクで、口元を隠して怯えながら田村の影に隠れる。
  ボーイッシュな服装を好むのか、ぶかぶかなシャツで小さな胸を隠して体を縮こまらせる。
  そんな紫苑を横目に、田村は怯える紫苑の頭を優しく撫でる。

  「紫苑さんは、臆病なんです。知ってるでしょ? 特に、ハートさんにはすごく怯えてるんですよ」
  「チッ……なら、とっとと失せろ」
  「酷い扱いですね……でも、そう簡単に帰れないんですよ。僕達――」

  田村が袖に隠し持っていたナイフをハートの後頭部目掛けて投擲する。
  しかし、投擲した7本全てがその場で消える。

  「宗治~。ハートに喧嘩は売らねー方がいいぞ」
  「お久しぶりです、翔さん。相変わらず、手癖が悪いですね」

  翔の手から焼け溶けたナイフの残骸がバラバラと地面に落ちる。
  投擲した7本のナイフ全てを空中で奪い取って、帯電した稲妻で焼き溶かした。
  冷却され鉄屑となったナイフの残骸に一瞥すること無く。袖に隠し持ったナイフを宗治は投げる機会を狙う。
  もちろん、その機会を与えるつもりはない翔が宗治との間合いを詰める。
  王の世代が、全員仲が良い訳では無い。その1番の理由は、強さゆえの対立にある。

  《ティンバー・レイン》と《ハート・ルテナワークド》――
  《田村宗治》と《藤宮翔》――

  などと言った水と油の関係性も王の世代では特に多く見られる。
  力による優劣が全てな学生同士の価値観、先輩後輩の実力差の溝――
  様々な要因があれど、王の世代での要因は極端に偏っている。

  それが、強さゆえの対立である。
  先輩後輩など関係はない。強い者が《上》であり、弱い者は《下》である。
 一世代上であろうとも、ティンバーよりも《強い》ハートは、ティンバーを見下ろす。
  知識が豊富であろうとも、田村よりも《強い》翔は田村を見下ろす。

  故に、その世代でトップクラスのくろは、その全員を見下ろす。


  「……バチバチだな。楽しそうで、羨ましい――」

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