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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
執行人《Ⅰ》
しおりを挟むヘルツの呼び掛けに反応して、背後から魔物が顕現する。
真っ黒な魔力の渦の中から、ゆっくりとその姿を現す――
西洋甲冑と東洋甲冑の2つが混ざり合った様な極めて歪な甲冑姿の魔物が顕現する。
魔力による半透明な《半顕現》ではない。
魔力によって創り出された完全な肉体を有した――《完全顕現》と言う形で、ハートの前に現れる。
「最高、だよ……」
頬から汗が滴り落ちて、床を僅かに濡らす。
顕現して、身動の1つも取らないヘルツの魔物――《アウレティク》――
が、ハートは直感で感じ取っていた。
動かないのではなく。ハートが動くのを、待っているのだ――と。
相手の動きに合わせて、後手に回る可能性を有した立ち回り方。
相手に逃げれる可能性を与えて、それ以外の様々な選択肢を豊富に与える。
絶対強者の立ち回り――
それをこの魔物は、選んだ。
そして、宿主であるヘルツの呼吸と精神が安定する時間を稼いだ。
――クソッ、やられた。
脳内で、舌打ちする。
そんなハートなど他所に、ヘルツが床を蹴った。
間合いを詰める宿主に合わせて、魔物が両手に刀剣を握る。
右に、刀――。左に、直剣――
それを交互に持ち替えながら、使い所に合わせて宿主と連携して間合いを詰める。
ヘルツの攻撃を避けても、少し離れた位置から斬撃が飛来する。
魔物の攻撃を避けても、懐に侵入したヘルツの剣術がハートに襲い掛かる。
「中々、やるな……」
「嘘、ホントはギリギリでしょ? 全力の私とですら、ギリギリか互角……その上に、私の魔物――アウレティクの中距離と近距離での攻撃……勝ち目ある?」
「言ってくれるよな。俺が、本気の力を出せないって、知ってるからか?」
「えぇ、そうね……少し前なら、警戒してたわ。万が一でも、使われたら、私じゃ勝ち目は毛頭無い。でも、使わないって分かれば正気は十分にある――」
ハートが構える。だが、そんな防御を打ち破る様に、ヘルツの飛び蹴りが腕の内部から激痛と鈍い音を響かせる。
床を滑って、身を翻して衝撃を緩和する。
その着地地点を狙って、高い機動力を発揮したアウレティクがハートの懐へと飛び込む。
反応が遅れたハート――。二振りの刀剣が脇腹を切り裂き、鮮血が床を真っ赤に染める。
「ぐッぅ……っぅ゙ぅ゙――!!」
脇腹を押さえて、激痛と共に流れる血を横目にダメージの程を確かめる。
真っ赤に染まった掌を再び傷に当てて、止血を試みる。床の瓦礫を踏み付けて、並ぶ強者がハートを見ていた。
機動力、攻撃力、宿主との相性――どれを取っても、黒と並ぶ逸材。
《魔力》が少なければ、満足に戦えない。
《技量》が足りなければ、魔物は自由に操れない。
《魔物》が機能しなければ、頂きには到達し得ない。
この世界は、全てにおいて《魔力》の高さが基準となる。
しかし、それを補う為に積み重ねた《努力》は決して努力した者達を裏切らない。
高い戦闘技術や戦闘センスは、持つ者達をより一層光り輝かせる。
その逆に、持たざる者達はより一層暗闇に沈む。
技量が高ければ、魔物は宿主の想いに呼応する。
魔物が強く、そして《洗練された》物へとなれば――魔力の少なさなど、これまでの価値観は大きく覆る。
覆って初めて――魔力と言う物の真価を掴む。
――その真価を手にした先に、高みは存在する。
「畳み掛けろ……アウレティク――」
ハートに振り下ろされた刀剣が、寸前で止まる。
アウレティクの目線の先に、1人の魔力があった。
ハート、ヘルツもその魔力を感じ取って、魔力の感じる方へと視線が動いた。
――3つある内の真ん中のエレベーターは、停止していない。
未だに、動くエレベーターが2人の居る階で止まる。
ヘルツが、四方の窓や扉を振り返る。
ハートとの戦いで、忘れていたが黒こそが大本命である。
エレベーターを囮に背後から奇襲する。そう、ヘルツは考えた。
可能性として考え得るすべての侵入ルートに目を光らせる。
張り詰めたヘルツの緊張感を台無しにするように、開かれたエレベーターの中から黒が登場する。
「――うわ、ハート。ボロボロじゃん」
「……コテンパンに、やられた」
「まぁ、そりゃ本気出さなかったら……そうなるよな」
ヘルツとアウレティクを前にして、余裕その物である黒がハートと談笑する。
養成所で、共に肩を並べたから驚きはしなかった。ただ、ここまで自分は舐められているのだと、心底理解した。
独りでに動くアウレティクを見て、ヘルツが距離を取る。
――が、黒の予備動作すら見えない飛び蹴りがヘルツの脇腹を捉えた。
「おい、遊びじゃねーぞ? 俺の強さぐらい知ってるだろ――」
背後を取った筈のアウレティクの動きを見抜いて、腰を落として横一閃を避ける。
硬い筈の甲冑に、漆黒の魔力を纏った拳を叩き込む。
本来ならば、魔力の出力を稲妻として放出し内部へとダメージを与える。
だが、黒は稲妻として放出する事よりも漆黒を肉体に纏う事に集中させた。
真っ黒な腕が、幾度もアウレティクを叩く。
だが、黒が思うよりも打撃攻撃は対したダメージとはならない。
動くアウレティクを援護するように、床を転がったヘルツが直ぐに立て直す。
――だったが、黒はヘルツとアウレティクの2人を相手取った上で更に畳み掛けた。
「天地、傅け。――《バハムート》」
イシュルワの巨大な建物の内部で、王の世代が衝突する。
そして、皇帝同士の戦いを想定していた者達の想定を大きく覆す事となる。
建物の上階が強大な魔力の余波によって消し飛び、空へと飛び出した2人の王が瞳に炎を宿す。
紫色と赤色の瞳を灯らせ、2体の魔物がイシュルワの空を舞う。
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