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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
黒だけの戦い《Ⅰ》
しおりを挟むその魔力が、周囲に与える影響は計り知れない。
ビフトロ――その周辺都市、国家でその異常な魔力は観測される。
肌をピリピリと刺激する魔力に加えて、清々しい筈の朝日をバックにそのバケモノは草原に降り立った。
「……用件は、不要だろ?」
「あぁ、お前が来た。……俺らには、十分だ」
ハート、ルシウスが黒の背を見詰める。
悲しそうに、それでいて心の奥底で昂る鼓動を抑え切れない。そんな男の背中を止める為に――ルシウスが手を伸ばす。
が、隣のハートがルシウスの手を遮る。
「止めとけ……もう、無駄だ」
「……そうだよね。僕じゃ、力不足だね」
草原に降り立った男が、周囲を見渡す。
吹き抜ける清々しい風に身を委ねる。伸びをして、見渡しながらその広大な大自然を目に焼き付ける。
「まるで、俺の心象風景を映し出しているみたいだ――」
「……そうなのか?」
「あぁ、見渡す限りの緑の絨毯は風に揺れている。吹き抜ける風が頬を撫でて、心の淀みを拭い去る――」
「……この出会いが、もっと違ってたら」
「――感動的、だったかもな……」
男、2人――。黒、黄の2人が向かい合う。
かつての親友――
かつての同士――
夢を語り合った。数少ない理解者――
未練を残して、道半ばの友を思う。その想いを果たした者――
力無く倒れ。目を覚ました時は、既に夢を奪われた者――
例え、両者の間に多くの第三者の介入があろうとも――既に、引き下がれない。
「黒、俺はお前を――殺す」
「黄、俺はお前を――潰す」
頬を釣り上げ、草原を力一杯蹴り出して肉薄する。
そんな黄とは対照的に、例え肉薄されても微動だにしない。当然、黒の余裕な表情には裏がある。
誰もがそう思考するのに対して、黄は――止まらない。
歩みを止める事は無く――ただ、突き進む。
黒の眼前で、地面を力強く踏んだ。全身の力を込めて、振り絞った一撃を叩き込む。
魔力が炸裂する。空気がビリビリと振動し、漆黒の稲妻が大気中に走る。
ハート、ルシウスがその場から退く。例え2人でも、この戦いには介入出来ない。
――しては、ならない。
友であるがゆえ、その行いの《責任》を取れるのは黒だけである。
友であるがゆえ、その行いを《雪辱》を拭い去れるのは黄だけである。
理由はどうあれ、黒を敵視する友を止めれるのは――黒だ。
ルシウス、ハートの2人には出来る事は被害を最小限に抑える事である。
一帯の都市、国家から大勢の人を避難させる。
もう、遅いとは思うがそれでもしないよりかはマシである。
「ハート!! ルシウス!!」
「「――未来!!」」
息を切らした未来が、2人の元へと駆け寄る。
2人の元へと来たのは、黒と黄の事であるのは明白である。
生唾を飲み込んで、遠目から視認出来る2人の戦いに――未来は心を痛める。
なぜ、友で戦う必要がある。
なぜ、あの日に死んだ者が生きている。
誰かの手で、この状況が作られている。未来の心はさらに締め付けられる。
心を消失させた黒を隣で見ていた。心を取り戻して、隣に寄り添った未来だから知っている。
誰よりも、仲間の死を受け入れていなかった。そんな黒が、容易くその剣を取れる筈がない。
「黒ちゃん!! 止めて――ッ!!」
ハート、ルシウスの静止を振り切って、未来は走る。
その姿を見て一瞬躊躇った黒――。そして、未来を視認して不敵な笑みを見せた黄――
漆黒を纏った拳が、地表へと炸裂する。落雷のように地面を吹き飛ばして、視界を覆う砂埃が舞い上がる。
焼き焦げた地面の異臭。バチバチッ――と、耳に残る稲妻の音――
衝撃で、地面に倒れた未来。
黄の攻撃に直撃はしなずとも、その目が映した黄は――未来を殺そうとした。
「――天城……お前は、運がいいな」
黒と同じ小隊だった黄――
未来が所属する隊、ハート達他の王の世代が所属する隊で忘れもしない思い出が脳裏に蘇る。
夜遅くまで、笑って騒いで楽しんだ思い出が沸々と未来の記憶から溢れる。
そのまま涙となって流れる。
ヘルツ、ティンバーのように仕方なく。――と言う感じではない。
明確な殺意が込められ、倒れた未来に再び空から漆黒の稲妻が降り注ぐ。
その殆どが空中で同出力の稲妻で相殺される。その稲妻を涼しい顔で放った黒へと黄は視線を向けた。
「やっぱ、最高だな……。お前は、どうだ――橘ッ!!」
黒へと詰めいる黄の顔面に黒の拳が刺さる。
血を吹き出して、海老反りになった黄の体を蹴って遠くへと飛ばす。
「未来、危ないから離れてろ。……頼む」
「……うん。ごめん……」
ハート、ルシウスが未来の前に壁となって3人でその場から消えるように遠く離れた場所へと飛ぶ。
魔法による空間跳躍で、距離を離されたのを見て黄は口笛を吹いてその距離を絶賛する。
鼻や口から流れた血を拭って、ものの数秒で再び黒の下へと現れた。
元より逃げるつもりは毛頭ない。だが、逃げれないという事が一連の流れで分かる。
黒が、本気で蹴り飛ばしたにも関わらず――一瞬で戻ってきた。
「……2年以上も経てば、みんな変わるもんな。特に、未来やヘルツは、胸やケツがデカくなってるよ。肉付きが良くなって、エロい体の女ってのは良いなよな……黒?」
「昔の話をする気か? そうやって、互いに好みの女の特徴を語る。あいも変わらず、胸とケツで女を見てやがる……」
「モテてたお前には、向こうからいい女がやってくる。だから、選び放題なんだろ? カッコつけて、自分に正直にならないから困る。……まぁ、未来ちゃんが好みのタイプなら――胸の大きい女の子が、好きなんだろ?」
「……悪いか?」
「……いや、認めるなよ」
他愛ない話が終わる。
両者が地面を蹴って、その場から消える。
その後に、魔力を纏った手刀が火花を散らす。凄まじい剣戟音と共に漆黒の稲妻が、大気中の魔力が反応する。
魔力による肉体への強化によって引き出された身体能力が、異常な速度で繰り広げられる戦闘を実現させる。
火花、剣戟音、魔力による稲妻、その全てが両者の刃が交わった後に発生している。
現象よりも速い速度に達した2人は、互いの立っている場所よりもさらに先へと進もうとする。
皇帝の中でもトップクラスに数えられる黒と互角な戦いを見せられている。
――この戦いに、世界全土が見守っている。
遠く離れた異国の地であっても、その魔力を感じ取って戦闘状況などの情報を得る為にドローンや魔法による遠隔通信で映像を用いて、安全圏から傍観する。
自国の安全と平穏の為に――
倭のような四方を海で隔たれ、皇帝のような絶大な戦力を有していない小国であれば、必然的に彼ら2人の戦いは確実に自国に影響を与える。
イシュルワが壊滅した事だけでもビックニュースなのに、この戦いによっては小国などの命運が決定すらもする。
黒竜帝の活動再開によって、世界に再び絶大な力が戻る。
暗躍していた闇組織が軒並み鳴りを潜め、活動拠点の多くが小国である彼らにとって――黒は、消えて欲しい存在である。
その気になれば、黒やメリアナのような戦力の介入によって、闇の組織は壊滅する。
――2度と再建出来ないほどに、粉々に消される。
それゆえ、イシュルワのような巨大な武力国家に、闇組織などからの資金が集まる。
打倒、黒竜――。その言葉を真に受けて、実現可能だと信じ込んだ者達が資金を注ぎ込む。
そうして莫大な資金を投資して完成した永久炉を以てしても、進化し続ける皇帝には及ばない。
その為、諦め掛けた闇の人間にとって、黄と言う黒の《好敵手》は――またとない機会であった。
それが、小国の命運を分ける。――と言う背負わされた事すら知らないで、黒は多くの命と明日を背負っている。
「ここで、黒竜帝が消えれば……闇は我々の物だ――」
映像に食い付く様に見ている闇の住人達は、目を輝かせる。
ボロボロになった黒竜帝の首を晒して、外の世界へと進出する。
そして、四大陸の覇者となって――倭、オリンポス、エースダル。
残る都市や国家を潰して、闇が世界を支配する。
その計画の第一歩が、すぐ目の前まで迫っている
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