難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

さようなら《Ⅰ》

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  一面の緑、見渡す限り続く草原の大地に圧倒的な暴力が降り注ぐ。
  高く振り上げた剛腕が、草原の緑を簡単に潰し去る。
  振り上げ、振り下ろす――その単調な動作を幾度となく繰り返し、眼前の相手を殺しに掛かる。
 振り下ろす魔物の腕が地表を耕し亀裂が無数に生まれ、隆起する地表が豊かな自然を過去の景色へと変える。

  それでも、そんな猛攻を前にしても、その男は飄々としていた。
  常人ならば、一撃でももろに食らえば死ぬ程の破壊力を前にしながらも、この男にはそれほどの脅威でもない。


 その証拠に、その猛攻を淡々と避けている。


  「どんなに強力な攻撃でも、当たらなきゃ……無意味だ。そうだろ?」


  そう余裕な笑みを浮かべて、その男黒竜帝は完全顕現状態の魔物を相手に――素手で迎え撃った。
  どんな攻撃でも、当たらなきゃ意味がない。そう言って、自ら攻撃を受けに行った。
  相手からすれば、ただのバカで言動が一致しない脳無しと思う。

  ――が、はそうは思わない。
  黒のこう言った行動は、圧倒的な強者にのみ許された。《強者の余裕》――そう呼ばれる特権である。

  受けても問題はない。
  受けても余裕だから、そう相手に言葉だけでなく実際に体現にして余裕さをアピールする。
  腸が煮えくり返るほどに、憎たらしい行動である。

  そうさせるだけの実力が、実際に黒にはある。そして黄は、それを真っ向から叩き潰すだけのポテンシャルと覚悟があった。

  「黒ちゃん……いつまでも、ヘラヘラしてられると思うなよ?」
  「なら、俺のこの顔に――焦りを植え付けろよ」

  魔物の豪快な剛腕による横振りを魔力で強化した蹴りで勢いを僅かに殺して、そのまま飛び付く様に腕へと張り付く。
  腕へとしがみついて、離れない事は既に分かりきっているか。
  魔物は黒を引き剥がすかのように、力任せに地面に幾度と腕を叩き付ける。
  腕を腕で叩いて、黒の無防備な体を潰す。遂に、腕を全身で締める黒の力が――緩んだ。

  そのタイミングで、アルファカイウスが勢い良く腕を垂直に地面へと叩き付ける為に飛んだ。
  その場から飛び上がって、ボディプレスのように黒の小柄な体を力一杯叩き付ける。
  相手を粉々にせんと全力で地面への叩き付ける。

  地面に叩き付ける為に振り上げた瞬間を狙って、目を見開いた黒が動いた。
  アルファカイウスのその巨木のような腕を貫手一つで貫き、容易く引き千切る。
  アルファカイウスと黒の2人が、地面に降り立って互いにその顔を見つめる。

  一歩、魔物が動く。
  その動きに合わせて黒も動き、攻撃を紙一重で躱す。
  そして、片腕を失って無防備となった大きな胴体に黒の掌底が叩き込まれる。
  魔力で身体は強化され、漆黒の魔力が弾ける。
  掌底による衝撃がアルファカイウスの内部深くにねじ込まれ、その後に続く漆黒の稲妻がその体を内部から貫く様に弾けた。

  真っ黒の稲妻が弾け、魔力と共に弾けた衝撃がアルファカイウスの強固な皮膚を内側からズタズタに引き裂く。

  掌底から数秒後に弾けた魔力によって、魔物の反れた胴体に向けて再び黒が動く。
  地面を蹴って飛び上がり、そのまま体を捻って棒立ちのまま無防備な頭部に渾身の蹴りを入れる。
  鈍い音が聞こえ、そのまま一回転し地面に叩きつけられるアルファカイウスの顔に空中で身を捻って、稲妻を放ってとどめを刺した。
  この程度で、魔物は倒せない。

  それでも、脆すぎる――そう、黒は感じた。


  「おい、軟すぎんぞ……もっと、力込めろよ」

  先ほど千切り取って、地面に落ちていた魔物の腕を邪魔に思ったのか蹴り飛ばす。

  息を深く吐いてから腰を落とし、構えた。
  真っ白な煙のような物を口から吐いて、立ち上がったアルファカイウスが黒を正面に捉えて、草原を力一杯駆ける。

  正面から相手の小細工など関係なく。ただ正面から力をぶつける。
  それを知ってか、少し遅れて草原を駆けて来た人影が横目に見えた。
  隠れて魔力を練っていたのか、その姿を魔力感知では上手く捉えれない。
  が、そこは対して問題ではない。
  あるとすれば、練った魔力の威力である。

  交差する2つの影が黒の視界に落ちる。
  頭上、左右、その影が幾度も黒の周りを飛び跳ねても――関係はない。
  黒も相手がどこをどう狙って来るか、おおよその場所は、既に掴んでいる。

  頭上から振り下ろされたアルファカイウスの一撃を砂埃の中で、眉1つ動かさずに黒は避けた。
  そして、砂埃の中から飛び掛かる黄の顔へと黒の打拳がめり込む。

  やはり、練った魔力で渾身の一撃を狙っている。
  であれば、アルファカイウスの攻撃の後に突っ込んで来るのは容易に想像できる。
  そんな予想が的中し、黒の一撃が黄にもろに入る。
  鼻をへし折って、噴き出る鼻血を顔に浴びて――冷酷な黒の瞳が黄を見る。
  そして、そのまま黄の顔をもう一度叩いた。

 1発、2発の話ではない。黄の胸ぐらを掴んで、体を引き寄せると同時に両手を交互に素早く放つ。
  強烈な打撃による衝撃と体の深部に響くダメージによって、黄の意識が一瞬途絶える。

  その瞬間を逃さず、黒が黄の首根っこ掴んでそのまま邪魔なアルファカイウスから距離を離す。
  その動きを察知し、宿主を守る為に動くアルファカイウスを予想して、黒が指先をアルファへと向ける。
  指先から放たれる特大魔力の指向放出で、魔力が炸裂した際の目眩まし効果と魔力による衝撃の吹き飛ばしによってその足をその場で止める。
  その隙に、目を覚まして間合いを通ろうとする黄へと黒が再び打撃を腹部へと叩き込む。

  黄の意識が強烈な一撃で揺らぐ。

  しかし、何とか耐えしのぎ一連の流れで僅かに油断して、脇を甘くした黒のその体に渾身の一撃をお返しする。

  黄は、自分の体を使って、この隙を狙っていた。
  到底、真正面からぶつかっても練りに練った魔力を浪費するだけである。
  ならば、黒の予想を上回る――それしか、なかった。
  だから、この身を犠牲に攻撃をあえて受けた。悟られないように、あたかも渾身の一撃が不発に終わったかのように見せて――

  黄、吐血しながらもこのチャンスを棒に振る事なく。
  畳み掛けるように、無数の打撃を黒の体に直接叩き込み、漆黒の魔力を持って更なるダメージを叩き込む。
  斜めに打ち込むように放たれた打拳が、斜めに黒の体を飛ばした。
  体は地面に強く叩き付けられ、そのまま地表に縫い付けられる。
  その体を追撃の蹴りで、縫い付けられた地面から掘り起こす。
  流石の黒もモロに食らって、一旦黄から距離を離す。

  逃げる黒、追い詰める黄の構図――

  黄の動きは長年鍛錬のみを重ねた武術家ですら、完全に防ぎ切るのは難しい――それほど、黄の体術は洗練されている。
  それを黒は、ギリギリで防ぎ耐え続けている。
  
  体術であれば、黒もそれなりのレベルである。
  それでも、生まれ持った体術の才能で黄には敵わない。


  ――訳では無い。


  今の黒は、事前に調べてトレースした体術などの武術に精通した者達の技術・・を魔力で無理矢理体に染み込ませて、マネしている。
  当然、それは単なる付け焼き刃に過ぎない。
  たった一瞬、一瞬でも相手の思考の裏をかく必要があった。
  思いもしない動きで、思いもしない力で――確実に黄を追い込む。
  ここまでの戦いで、内に秘めた炎が点火し始める。
  2人だけなのに、まるで白熱した試合でも観ているかのような熱気に当てられて、熱が溢れる。
  既に、黄とアルファカイウスの熱に当てられた事によって――手加減を忘れ始めている。

  『ガァァァァァアアアッッ――!!』

  背後から間合いを詰める魔物に黒の視線が僅かに割かれた。
  その隙を狙って、黄が好機と見て攻勢に出る。
  一瞬の隙を掻い潜って、黒の脇腹深くに刺さる殴打が漆黒を放った。
  殴打によって、ダメージと稲妻による硬直でさらに過ぎが生じる。
  それを狙って、真横から抉るように全身の魔力を一点に集約して放った一撃が再び黒く爆ぜた。


  連続する殴打と漆黒の稲妻――


  流石の黒もその一撃には、顔が歪む。一連の動きから一瞬の硬直と言う絶大なチャンスを生んだ。 

  そのチャンスを――無駄にはしない。

  体勢の崩れた黒が直ぐに立て直すのは読めている。
  予想よりもずっと速く、何よりこちらの予測を簡単に覆す。
  そんな相手だから、黄は――全力・・を躊躇ってしまう。


  (ここで、全力で追い討ちをかけるべきか? いや、万が一読み間違えれば、手堅いしっぺ返しを食らう)


  こちらは完全顕現状態で、相手は顕現すらしていない。
  黒の手札が残っている状態で、こちらの手札をさらに切るのはハイリスク過ぎた。
  ――それが黒の狙いですらある。

  (魔物を用いた戦闘……。魔力攻撃、魔力に関する事柄では――黒が断然格上だ。もしかしたら、この状況も計算って可能性も黒ならあり得るか――)


  黄が手早く勝負を決める為に、完全顕現のままとどめを刺さず。
  さらに手札を切っていくのを黒は狙っていた。



  ――そうは、ならねーよ。

  そう、黄は僅かに笑みを浮かべる。
  全身に魔力を再び、巡らせて絶好の機会であったはずなのに追撃を止める。
  黄がその先に踏み込まず。その場で踏み留まった事に、黒は驚きつつも眼の前で笑って見せた黄を見て、思わず黒口角が吊り上がる。


  「やっぱり、狙い通りには……行かんな」
  「だから、楽しいんだよ……お前との戦いはな――ッ!!」


  背後から間合いを詰めたアルファカイウスが剛腕を振るう。
  アルファカイウスの攻撃を涼しい顔で避けて、そこから続く黄の蹴りを片腕で防ぐ。
  猛攻――。アルファカイウスの大きな腕が、黒の体をへし折る勢いで振り回される。

  そして、決まって視界の端から黄が狙っている。黒の僅かに綻んだ一瞬の隙を狙って――
  爆発的に高めた魔力が地面を吹き飛ばし、黒の視界を土煙で覆う。
  視界を奪われた黒の背後へと回った黄の打拳を飛んで体勢を変えて避ける。

  「バレバレだ、ぞ!」
  「そりゃ、どうかな?」

  黄の背面へと回った黒のすぐ真横へと接敵したアルファカイウス渾身のラリアットが、黒のその体を砲弾のようにその場から吹き飛ばす。
  風を切って、地面に斜めに打ち付ける。
  遠くから砲弾が着弾したように捲れ上がり、隆起した地面が魔力で弾ける。
  ラリアットと同時に魔力を黒の体に接触させ、時間差で炸裂する魔力砲を叩き込む。
  本物のミサイルのように、巨大なクレーターが生まれる。
  その中央で、口から血を吐いた黒が起き上がる。

  「どうかな? 魔物アルファカイウスの魔力は、美味しかったかな?」
  「……ブッ、あぁ……美味しくて、危うく意識を手放す所だった」
  「そのまま手放して、あの世に行けよ」
  「悪いな……未練たらたらなもんでな」

  黄がアルファカイウスに続いて、黒の間合いを詰める。
  構えた黒の視線から逃げるように、アルファカイウスの背中に隠れる。
  だが、それは過ちであった。
  足を止めたアルファカイウスの背中に隠れた事で一瞬、黒の姿を視界から消した。
  アルファカイウスも相当な速力を有する――が、黄や黒の程ではない。
  ――であれば、本気の黒の速力に魔物が対応できる筈がない。

  アルファカイウスの胴体に銀色の閃光が放たれた。
  僅かに体が浮き上がり、驚愕する黄の前方で笑みを浮かべる黒が飛び込む。

  そして、目にする。黒の手にある銀色の太刀の存在に――

  「……武器を、抜いたか――黒ッ!!」

  邪魔な存在を銀刀で打ち上げ、弾き飛ばし、黒と黄の対面に持ち込む。
  足元の影に両腕を突っ込んで、抜き取った両腕にもう一つの武装が装着される。
  両手に黒塗りの忍び篭手が、手に握る2振の銀刀――
  この2つの存在が、立て直したアルファカイウスの足を止める。
  一歩、踏み込んで宿主を守ろうと間合いに侵入しようものなら良くて、両断――

  悪くて、細切れ――

  アルファカイウスが足を止めるほどの異質なオーラを纏った黒を間近で見て、黄の心臓はさらに昂る。
  ここまで、激熱な戦いは数年ぶりである。同じ皇帝でも、ここまで本気を出して相手ができる者は少ない。

  「……やっぱ、黒だよな」
  「――行くぞ?」

  銀刀を振るう。空気を切り裂く様に、真横に一閃――

  可視化される魔力の刃がゆっくり、確実に黄の首を跳ね落とす勢いで振られる。
  走馬灯のように流れる時間が遅い意識の中で、身を翻して斬撃を避ける。

  「アルファ――ッ!!」
  『――ゴッォォォッッ!!』

  魔物を呼んだ――例え、両断されようと細切れにされようとも関係はない。
  駆ける魔物に鋭い眼光を向けた黒の腕が振るわれる。
  上下、両腕がアルファカイウスに迫る。それを咄嗟に割り込んで反応した黄によって防がれる。

  「チッ……」
  「邪魔なのは、分かってるよ――だから、使うんだよ!」

  黄、魔物の同時攻撃から黒は身を隠す。
  同時攻撃で生まれた砂塵に身を隠すようにして、その気配を消し去る。
  正面から黒の姿が消えたのを察知して、アルファカイウスに魔力を補給しつつその魔力を利用して防御を命じる。
  補給の為に接近した魔物と黄との間に、まるで沈み込む様に低姿勢の黒が抜刀術の構えで――待ち構えていた。

  ――しまった。

  黄の予測を遥かに上回る速力に加えて、武具を用いた事による単純な戦闘力の上昇――
  体術、斬術、身体能力などの基礎的な部分や生まれ持ったスペックに差は存在する。
  だがそれを無視するかのように、驚異的な動きを可能にしているからくりは――《魔力》であった。
  そんな事は、分かりきっていた。にも関わらず、この数年で黄の中の黒に対する認識が度を超えて甘くなっていた。

  それを証明するかのように、黄は思わず歯軋りする。
  黄を視界に捉えて、黒はゆっくりと鞘に収められた柄へと手を置いた。
  黒は有り余る膨大な魔力を以てして、その体を可能な限りの強化を施した。
  魔力を全身に巡らせ、圧倒的な出力の魔力攻撃や魔力砲だけでなく。
  それらを行使する為の肉体、それを以前とは比べ物にならないレベルにまで強化して黄とアルファカイウスの前に立っている。

  そんな男の抜刀が――簡単に防げる筈がない。


  ――キィィィッンンンッッ!!


  鞘から抜かれた太刀による一閃が、アルファカイウスの体を一刀のもとに切り裂く。
  アルファカイウスの咄嗟の反応で、間一髪避ける事が出来た。
  黄の体をアルファカイウスが持ち上げた事で、斬撃から逃れた。
  ここで、アルファカイウスの完全顕現が解かれる。
  黄の負担もあるが、現在の黒に2対1の構図は、あまりにも無謀で余計な体力を浪費する。

  ――その判断は、正しい。

  武装を用いた事で、打撃や魔力攻撃だけだった黒の手札に殺傷性の高い選択肢が増えた。
  例え、硬い防御を有するアルファカイウスでも本気の黒では防げずただの的になる。
  ならば、身軽になって、クリアな視界の中で戦うのが効果的である。

  が、黄の体は既にボロボロである。
  蓄積されたダメージ、完全顕現による負荷が一気に押し寄せる。




  ――それでも、この胸の高鳴りは止まらない。





  黄が細く笑って、別空間から取り出した剣を構える。
  見た目はシンプルな西洋剣、特に特別な力もこもってはいない。
  だが、黄が手にしている。これほど、警戒に値する条件はない。
  そして、黒も刀を構える。
  そこで、気付く事となった。黒の手に持った刀が――1振だけと言う事に。


  「……もう、一本はどこだ」

  黒が所有していた銀刀は、全部で2振の二刀流である。

  が、今の黒は1振だけの戦闘スタイルである。
  もう1振の居場所を知らない黄の頭には、黒が何かの仕掛けに利用したのだと植え付けられる。
  仕掛けに使用して無くとも、頭の隅にその存在が色濃くチラつく。
  思考の半分を目の前の黒に割けなければならないのに、どこかで残りの1振が思考を狂わせる。

  「――答え合わせだ」

  黒が――構える。

  その構えは、突きを放つように片手で刀を水平に構える。
  僅かなブレですら抑える為に、軽く刀身に指先を触れる。刀身をなぞる指先から魔力が刀身を覆う。
  地面を蹴るであろうつま先に力、魔力が込められる。一刀で形勢が逆転する。
  そんな相手の前に殴打は立った。
  その攻撃が如何に強力とは言え、一刀で自分を仕留めれる保証はない。
  仕留めれるのであれば、初めから使っていた。
  つまり、その一刀は簡単に連発は出来ない。
  そして、使うのに何らかの条件が必要になる。
  これらの事から、それさえ防げば――黄にも充分なチャンスがあった。
  黒の一刀が強力であっても、必ず対応できる。

  すると、黄の真横に落下する何かが見えた。
  ――視界の端で動く何かの正体を見て、黄の意識が僅かにでもそちらへと向く。

  「……銀刀?」

  黒の抜いた2振の銀刀、その片割れが黄の真横に落ちてきた。
  それが、引き金となる。
  僅かばかりとは言え、黄の意識は落ちる銀刀へと向いてしまう。
  地面に突き刺さり、銀色の刀剣が黄の意識を削いだ。
  この状況を黒が望んだ状況であって、黒が気付かれる事なく仕組んだ。
  この場に、2つの選択肢が突然、現れた。
  
  ――飛び込む。このまま飛び込んで来る。

  ――それとも、この銀刀が何かあるのか

  黒の動きに十分な警戒をさせる。べきでありながら、傍らの銀刀にも意識を割かれる。
  そうなれば、周囲の状況は自然と情報として処理され難くなる。
  その隙を狙って、攻撃へと転じる。今の黄は黒と銀刀の2つへと意識を向けている。
  削がれた意識は、寸前まで警戒していた銀刀へと向く。
  だが、確実に黒の姿を捉えなければならない。

  踏み込む黒を前に、黄は素早く右サイドへと動いて銀刀から距離を置いた。
  傍らでは銀刀を警戒出来ない。
  これで、黒一人に集中できる。
  ――が、それが狙いであった。
  黒の狙いは、自分が踏み込むタイミングと同時に相手を左右・・のどちらかに動かす事であった。
  コレにより、黄は銀刀から離れた。
  そして、黒の予想通り銀刀が地面に刺さる・・・・・・事で発動した感覚を狂わせる魔法によって、黄は黒の前へと動いた。

  「左右・・のどちらかに動かす・・・……この動作の時にだけ、相手の感覚を一瞬狂わせる魔法を仕込んだ。これで、ハマるとは思ってなかったけどな」
  「銀刀をトリガーに、左右への行動制限……やり手だね。特定の動作への対処だけだから、魔法の強制力は計り知れない――」
  「そうだ……銀刀を視界に入れた時点で、お前は俺の掌の上だったよ」

  ここにきて、完全顕現を解いた事によって追い込まれる。
  2対1であれば、対応は簡単であった。
  例え感覚が狂っていても、それは黒の前に動く結果になるだけである。
  その後、直ぐに魔物で攻撃して黒から離れれば問題はない。

  その対応策を完全に破壊し、この状況を構築した。

  「でも、まだ僕は戦える――」

  西洋剣を振り上げて、目の前の黒へと振り下ろす。
  その行動も黒には計算の1つであった。

  特に実力の高い者同士の戦いであればあるほど陥りやすい。
  相手の行動の裏の裏まで計算し、頭の片隅に不確定な要素を1つでも潜り込ませる。
  その要素が不確定な物から確定する事で、猛者ほどその意識が薄れ、別の方へと向いてしまう。

  それが、最も警戒すべき事だと――誤認する。



  「――バハムート」


  黄、その言葉を聞いて全身に強烈な悪寒が走る。
  黒の足元から、青く光る眼光が標的に狙いを定める。

  当初、黄の選択肢には存在していた。
  なぜ、頭から消していたのか――使わない。からと言う安易な考えによって、その一手が選択肢から消えていた。
  この瞬間、まるで切り札のようにその力が放たれる。
  黄の前で告げられた言の葉は、躊躇無くその出力を浴びせる。

  そのあまりの衝撃に呻き声すら出ない。

  地面が焦げ臭い悪臭を放って、煙の中で黒の青く光る眼光だけが――見える。


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