stray Crow

カイの章ー生きる意味ー

4

「僕は……生きていても良いんでしょうか」


　僕は顔を上げ竹淵さんを、いやその奥の襖を見つめた。過去の人達が瞼の裏に甦る。



　泣きたいほどに、好きだった人達。
　表情も声も、まるで昨日の事のように思い出せるのに。今では只の、眩しい記憶となってしまった。



　そうしたのは、僕だ。僕が、無知だったから。







 　竹淵さんは、指の先にトゲが刺さったような顔をする。だけどそれも一瞬で、すぐにヘラリとだらしなく笑った。スーツの胸ポケットからタバコの箱を取り出すと「吸っても？」と軽く掲げる。
　だからこの区切られた狭い客間に竹淵さんを通したのだ。この部屋には竹淵さんと、掃除する僕しか入らない。ヤニくさくなろうが病気になろうが構わない。「どうぞ」と僕は遠くを見たまま許可した。

　紫煙を燻らせる竹淵さんは、やがて「痛々しいねェ」と宣った。
　過去に浸っていた僕は現在へと意識を戻す。竹淵さんに目を向けると「カイくんが痛々しくてオジサン泣いちゃうよ」と泣き真似をした。

　……鬱陶しい。