その女、女狐につき。2

高殿アカリ

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1.始まりの合図

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「でも、一体何と聞けば良いの? 記憶を取り戻したいから加賀美満吉の家族の居場所を教えてと? それで本当に記憶が戻るのかも分からないのに? そもそも私の両親が私に記憶を取り戻して欲しいと思っている可能性は低いし、加賀美満吉の家族の居場所が分かったからと言って彼らは何にも話したくないかもしれない。彼の幼馴染だった私とは特に距離を置きたがっているかもしれないわね」



 そこまでを一息で言い切ると、私はプチトマトを口に放り込んで咀嚼した。



 程よい甘さと酸味が舌を刺激する。

 うむ、本日分のリコピン摂取完了。



 私は一人満足して、それから二人の目を見て続けた。

 二人は少しだけ罰の悪そうな顔をしていた。



「まだ、そんなリスクは犯せないわ。多くの人に迷惑をかけてしまう……というのは大義名分ね。でも、大人に知られるのはまずいと思うのよ。彼らはやっぱり私たちより多くのことを出来る訳だから」



「彼の両親を探し出すのはやりたくないってこと?」



「まだ、やりたくないだけよ、一花。時期尚早ってこと。必要に迫られるなら、実行するしかないわよね」



 もちろん、本当は嫌なだけ。

 だってこんなに美味しい唐揚げを作ってくれるお母さんを悲しませることになるかもしれないでしょう?



 だから、最もらしい理由を言ってみただけなの。

 そうすることには慣れているから。



 そんな私の考えはとっくに分かっていたのか、二人はそれ以上私を追及してこなかった。
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