その女、女狐につき。2

高殿アカリ

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3.夢乃の女狐劇場

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 私は彼をよく観察した。



 だってこれから落とす相手よ?

 どんな奴かちゃんと確かめなくちゃね。



 それに、愛美ちゃんの恋のお相手だもん。

 気になって当然じゃん。



 ふぅん。

 顔はかなりイケてるなぁ。



 黒の短髪。

 そして、どこかぶっきらぼうな物言い。



 二年も経っているのに。

 愛美ちゃんってば男の好み変わってないんだぁ。



 あは、何それ。

 記憶喪失になっても本能までは誤魔化せないのかな?



 加賀美満吉もそんなんじゃ報われないんじゃない?



 私の意地悪な思考回路にはちっとも気付かない和樹。

 そういうところも本当に似ているね。



「なぁ、夢乃はいつもいじめられているのか?」



 そう聞いてきた彼。

 ぶっきらぼうなくせに優しい、かぁ。



「……あ、う、えぇっと」



 気まずげに視線を逸らしつつ私は答えた。

 それが何よりの肯定になることは、もちろん分かっている。



 和樹は少しだけ何かを考えた後、にかっと人好きのする笑顔を見せて、



「じゃあ、白豹の溜まり場で匿ってやるよ」



 その言葉に困惑している私の手を取って、彼は私を立ち上がらせた。



 そこから先はあっという間。

 あれよあれよという間に、車に乗せられ、気付けば倉庫の前に立っていたのだ。



「さぁ、お姫様。どうぞ」



 なんて軽口を叩いて、和樹が倉庫の扉を開いた。



 ぎぃぃ、と錆びた音が耳に届き、私は不安な表情で扉が開かれるのを待っていた。

 心の中は興奮状態だったけど。



 扉が完全に開かれ、中にいた不良たちが私を目にする。

 そして、誰もが息を呑んだ。



 私の愛らしさに。

 それから、たぶん、愛美ちゃんじゃない女の子がここに立っていたことに。
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