その女、女狐につき。2

高殿アカリ

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5.女狐の過去

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 夢乃が黒閻の寵愛姫候補になったと知った日の放課後。



 私は今日も今日とて、満吉の部屋にいる。



 もちろん、いつものように受験勉強を見てもらうためで。

 そこに甘い空気なんかは微塵もなくて。



「おい、ここまた間違えてるぞ」

「え、あ、ほんとだ」



 彼のさらさらな黒髪とか。

 長くて綺麗な指先とか。



「……おい、愛美」

「うん?」



「何か嫌なことでもあったのか?」



 こんな風に、私のことを気遣ってくれるところとか。



「どうして?」

「いや、何か、元気がないように見えたから」



 ちょっとだけ心配そうに下がる眉毛とか。

 どこまでも誰にでも優しいところとか。



「満吉は本当に心配性だよね。私は元気だよ?」



 そんな、満吉の好きなところが全部全部、夢乃のものになっちゃうのかな。



 あぁ、駄目ね。

 今、満吉の顔を見たら泣いちゃう。



 こんなヒロインぶりっこなんてしたくないのに。



 視界が潤み、涙の雫が数学のテキストに数滴落ちる。

 ぱたぱたぱたって感じで。



 私の様子に気が付いた満吉が口を開く。



「……嘘、吐くなよ。何があったんだ?」



 だから、私は顔を上げてやった。

 涙は溢れるけど、もう気にしない。



 私は恐怖を押し込んで、彼に一つの質問をすることにした。

 答えは分かり切っているけれど、彼の口からそれを聞きたかったから。
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