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第2章 女の園に毒花が咲いた。
5-◇
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辺り一面に漂う死の匂いに男はその端正な顔を歪めた。
ここはつい先日まで戦場だった。
その辺に転がった幾つもの死体を近隣の農民たちが処理している。
男はその光景にさえ眉を顰め、それから顔の半分を厚手の黒い布で覆った。
もうこれ以上ここの空気を嗅ぎたくないようであった。
農民たちに混ざり、娼婦たちやその雇い主もまた死体を漁っていた。
兵士がお守り代わりに持っている、愛する人の簪一本でさえ、彼らにかかればただの金銀財宝にしかならないのだ。
どこかの質屋に売られ、その売ったお金を娼婦や農民はただの娯楽にでも使うのだろう。
なんて卑しく醜い人種なのだろう。
そう軽蔑しながらも、男は娼婦たちの雇い主に近づいていった。
とある一人の女性を探していたからだ。
「食い扶持を探しているところ、すまない。少し聞きたいことがある」
「なんだい?」
雇い主はでっぷりと太った腹を揺らしながら、男の方に向く。
「あんたのところに、異国の娼婦がいると聞いてきたんだが。何やら白銀の髪をしているとか」
男の問いに、雇い主はご機嫌な笑みを見せた。
「あぁ、白雪のことかい。あの子は上玉だったねぇ。物好きな奴は多いもんでさ、本当に沢山の金を生み出してくれたさ。よっぽどアソコの具合が良いらしい。いなくなっちまう前に、俺にも良い思いさせて欲しかったもんだよ。全く恩義を知らねぇ娘だよ。はははっ」
雇い主の高笑いに、男は腰につけた長剣を取り出した。
かと思うと、目にも止まらぬ速さで雇い主の首にその刃をあてた。
低い声で男は言う。
「それ以上、彼女を侮辱してみろ。お前の首が飛ぶぞ。それはそれは綺麗な放物線を描いてな」
その凍てつくまでの瞳に、先程と打って変わって雇い主の顔は恐怖に染まる。
男は言葉を続けた。
「それで、彼女はどこに行った?」
「……お、男が、金を払って買ったんだよぉ……許してくれよぉ……」
震える雇い主の返事に男は怒り、その怒りのあまり、 さらに刃を強く押し当てた。
雇い主の首にうっすらと赤い血が浮き出る。
「買われた、だと?彼女を買った男の名を教えろ」
「お、教えるから許してくれぇ。……お、男の名は李麗と言ったんだよ……そ、そうだ。確かに、そう言った。……ほ、ほんとだよぉ」
半べそをかきながら許しを乞う雇い主に侮蔑な視線を投げ、それから男は長剣を滑らせた。
男の言葉通り、雇い主の首は綺麗な放物線を描きながら赤い血の雨を降らせた。
血に塗れた長剣を鞘に戻しながら、男は呟いた。
「憐れなものだな。何をしたところで彼女を侮辱した事への罪は消えないというのに」
そして男は王都の方角へと顔を向ける。
「白雪、どうか無事でいてくれよ」
そう言いながら、何かを憂う男の表情はどこまでも切ないものであった。
それから男は馬を呼び、そのまま休息を取ることもなく、ただひたすらに王都を目指し馬を走らせたのであった。
ここはつい先日まで戦場だった。
その辺に転がった幾つもの死体を近隣の農民たちが処理している。
男はその光景にさえ眉を顰め、それから顔の半分を厚手の黒い布で覆った。
もうこれ以上ここの空気を嗅ぎたくないようであった。
農民たちに混ざり、娼婦たちやその雇い主もまた死体を漁っていた。
兵士がお守り代わりに持っている、愛する人の簪一本でさえ、彼らにかかればただの金銀財宝にしかならないのだ。
どこかの質屋に売られ、その売ったお金を娼婦や農民はただの娯楽にでも使うのだろう。
なんて卑しく醜い人種なのだろう。
そう軽蔑しながらも、男は娼婦たちの雇い主に近づいていった。
とある一人の女性を探していたからだ。
「食い扶持を探しているところ、すまない。少し聞きたいことがある」
「なんだい?」
雇い主はでっぷりと太った腹を揺らしながら、男の方に向く。
「あんたのところに、異国の娼婦がいると聞いてきたんだが。何やら白銀の髪をしているとか」
男の問いに、雇い主はご機嫌な笑みを見せた。
「あぁ、白雪のことかい。あの子は上玉だったねぇ。物好きな奴は多いもんでさ、本当に沢山の金を生み出してくれたさ。よっぽどアソコの具合が良いらしい。いなくなっちまう前に、俺にも良い思いさせて欲しかったもんだよ。全く恩義を知らねぇ娘だよ。はははっ」
雇い主の高笑いに、男は腰につけた長剣を取り出した。
かと思うと、目にも止まらぬ速さで雇い主の首にその刃をあてた。
低い声で男は言う。
「それ以上、彼女を侮辱してみろ。お前の首が飛ぶぞ。それはそれは綺麗な放物線を描いてな」
その凍てつくまでの瞳に、先程と打って変わって雇い主の顔は恐怖に染まる。
男は言葉を続けた。
「それで、彼女はどこに行った?」
「……お、男が、金を払って買ったんだよぉ……許してくれよぉ……」
震える雇い主の返事に男は怒り、その怒りのあまり、 さらに刃を強く押し当てた。
雇い主の首にうっすらと赤い血が浮き出る。
「買われた、だと?彼女を買った男の名を教えろ」
「お、教えるから許してくれぇ。……お、男の名は李麗と言ったんだよ……そ、そうだ。確かに、そう言った。……ほ、ほんとだよぉ」
半べそをかきながら許しを乞う雇い主に侮蔑な視線を投げ、それから男は長剣を滑らせた。
男の言葉通り、雇い主の首は綺麗な放物線を描きながら赤い血の雨を降らせた。
血に塗れた長剣を鞘に戻しながら、男は呟いた。
「憐れなものだな。何をしたところで彼女を侮辱した事への罪は消えないというのに」
そして男は王都の方角へと顔を向ける。
「白雪、どうか無事でいてくれよ」
そう言いながら、何かを憂う男の表情はどこまでも切ないものであった。
それから男は馬を呼び、そのまま休息を取ることもなく、ただひたすらに王都を目指し馬を走らせたのであった。
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