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第2章 女の園に毒花が咲いた。

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その夜、私は李麗の腕の中で快楽に溺れていた。
彼の逞しい腕が私を掻き抱き、その美しく繊細な黒髪が私の頬を擽る。
 
私たちは生まれたままの姿で、互いに互いを求め合った。
獣のように、本能のままに。
 
私たちはそうやってしか夜を越える方法を知らない。
 
彼の熱いものが私の中を貫き、私は背中を仰け反らせた。
 
悲しくて愛おしい、切なくて心地良い。
反する2つの感情が私の中に反芻していく。
 
自分がまるで自分ではないかのような――。
この感覚が欲しくて、私は娼婦になったのかもしれなかった。
 
汗と情事のあとの匂いが混ざり合い、部屋に満ちる。
李麗の熱い吐息が胸にかかり、彼はそのまま私の胸に顔を埋めた。
 
私が彼の絹のような髪を撫ぜると、彼はゆっくりと瞳を閉じた。
 
「……娼婦を、お前を買ってきたこと、それ自体が母上への復讐には違いない。だけど、それだけじゃ甘いんだ。……分かるか?」
 
最後の言葉はどこか寂しげだった。
だから、私は彼の顎を持ち上げ、その柔らかな唇に接吻を落とした。
 
例え、ここにあるのが見せかけだけの甘さだったとしても。
例え、私たちに通い合わるための心というものが存在しないのだとしても。
 
この夜だけは。
どうか、どうか、この夜だけは。
 
――私たちは人間らしくありたかったのかもしれない。
 
「えぇ、分かるわ。貴方の望んでいることは……」
「もっと、もっと……俺はそう望むんだ」
 
「だから、私を買ったのでしょう?」
「あぁ、だろうな」
 
くすりと笑うと、李麗は枕元にある刃物を手にする。
そして、そのまま自らの長い髪を切り取ってしまった。
 
「あら、意外と短いのも似合うのね。……だけど、勿体無いわ……」
 
名残り惜しくて、私は身体の上に落ちた黒髪の一房に口づけた。
 
「……っ」
 
李麗が苦しそうな表情をしているのが、提灯の仄かな灯りの中で見えた。
 
突然、彼は髪を私の手から奪い取ると、その髪で私の首を絞めた。
少し前に天幕内で同じように首を絞められたことを思い出す。
 
……ねぇ、李麗。
貴方、あの時より随分顔つきが変わったのね。
 
「はっ……」
 
苦しくて、吐息を漏らした唇に李麗がかぶりついてくる。
私の首を絞めていることに興奮しているのか、彼のものが再び張り詰め、私のそこに押し付ける。
 
息も満足に出来ず、私の意識は次第に遠くなっていく。
彼の固いものが私の入り口を行ったり来たりしているのを感じながら、私は意識を手放した。
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