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第二章 愉快な学園生活
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「大丈夫か、しっかりしろ」
翔梧の大きな筋肉質の身体が私を抱き竦めた。
途端、ステラの魔力が彼の中に吸収されていくのを感じた。
「は、離れて」
このままでは彼が危ないと思い、もたつきながらも翔梧の腕から逃れようとした。
だが、彼はそれを許さなかったし、体格差から言っても私が翔梧を押さえつけることなど到底不可能なのである。
「馬鹿野郎。ぜってぇ離れねぇ」
きつくきつく、抱き締められて。
その度にステラの魔力が身体から抜けていって。
つまりは、痛みで朦朧としていた意識も次第にはっきりと認識を取り戻し始めて。
理性が全てに勝利した時、私はかーっと頬を染めた。
どくどくと大量の血液が心臓を巡り、今度は違う痛みを感じる。
桁違いの緊張と羞恥心、その奥に眠る翔梧への絶対的信頼感を突き詰められて、今にも私はどうにかなってしまいそうだ。
「「…………」」
静寂の中、互いの心臓の音だけが聴こえていた。
「あっ、どこ行くの?」
ステラの慌てた声が耳に届いた。
その数秒後、私の足に柔らかい何かが擦り寄ってきた。
ついでに、とばかりに。
がさがさと隠れていた茂みが揺れて、ステラの水色の髪がひょっこりと現れた。
彼女は私たちを見つけると、驚いたように愛らしく小さめに叫んだ。
「きゃっ」
今度はこれまた違う意味で心臓をばくばくさせながら、私はさらに強く翔梧へと抱きついた。
バレてはいけない。
悪役令嬢が、何よりロイド公爵の令嬢が夜半にこ、こ、こんな破廉恥な醜態を見せびらかしていいわけがなかった。
ガクガク震える私の意図を察したのか、翔梧は私を身体の中に隠すと、そのまま顔をステラに向けた。
「何? お楽しみ中なんだけど」
艶っぽい声を出して、そう言ってのけた。
ついでにのつもりか、翔梧の人差し指が私の背筋をつーっと下から上へ登っていく。
ぞくりとした感覚に鳥肌が立つ。
これは演技だ、そういう振りだ、と念仏のように心の中で何度も唱えた。
そうでもしないと、今にも腰が抜けて崩れ落ちてしまいそうだったから。
元社畜オタク女にそんな高度なテクニックを披露されましても――――――――!
対応出来かねます……。
「あ、あ……し、失礼しましたー!」
ステラはこれまたヒロインらしく、純情だったようで。
ぴゅーっと脱兎の如く駆け出していった。
後に残されたのは、私と翔梧、それから魔物のアルミラージだけであった。
「きゅうん」
鳴いたアルミラージを私は抱き上げた。
「なんで私に懐くかなぁ」
「きゅっ!」
紫に発色する身体を揺らし、金の瞳を細めてアルミラージは満足げに返事をした。
もふもふを触っていると、心なしか先程まで感じていた恥ずかしさが薄れていく気がした。
アルミラージに顔を埋めながら、ちらりと翔梧に視線を向けると、ばちりと目が合ってしまった。
慌てて互い違いに夜空を見上げ、火照った頬がバレないように願った。
「か、帰ろうかしらね」
「あぁ、そ、うだな」
((……もう少し触れ合っていたかった、かもしれない……))
『こいまほ』世界の月も変わらず大層綺麗であった。
翔梧の大きな筋肉質の身体が私を抱き竦めた。
途端、ステラの魔力が彼の中に吸収されていくのを感じた。
「は、離れて」
このままでは彼が危ないと思い、もたつきながらも翔梧の腕から逃れようとした。
だが、彼はそれを許さなかったし、体格差から言っても私が翔梧を押さえつけることなど到底不可能なのである。
「馬鹿野郎。ぜってぇ離れねぇ」
きつくきつく、抱き締められて。
その度にステラの魔力が身体から抜けていって。
つまりは、痛みで朦朧としていた意識も次第にはっきりと認識を取り戻し始めて。
理性が全てに勝利した時、私はかーっと頬を染めた。
どくどくと大量の血液が心臓を巡り、今度は違う痛みを感じる。
桁違いの緊張と羞恥心、その奥に眠る翔梧への絶対的信頼感を突き詰められて、今にも私はどうにかなってしまいそうだ。
「「…………」」
静寂の中、互いの心臓の音だけが聴こえていた。
「あっ、どこ行くの?」
ステラの慌てた声が耳に届いた。
その数秒後、私の足に柔らかい何かが擦り寄ってきた。
ついでに、とばかりに。
がさがさと隠れていた茂みが揺れて、ステラの水色の髪がひょっこりと現れた。
彼女は私たちを見つけると、驚いたように愛らしく小さめに叫んだ。
「きゃっ」
今度はこれまた違う意味で心臓をばくばくさせながら、私はさらに強く翔梧へと抱きついた。
バレてはいけない。
悪役令嬢が、何よりロイド公爵の令嬢が夜半にこ、こ、こんな破廉恥な醜態を見せびらかしていいわけがなかった。
ガクガク震える私の意図を察したのか、翔梧は私を身体の中に隠すと、そのまま顔をステラに向けた。
「何? お楽しみ中なんだけど」
艶っぽい声を出して、そう言ってのけた。
ついでにのつもりか、翔梧の人差し指が私の背筋をつーっと下から上へ登っていく。
ぞくりとした感覚に鳥肌が立つ。
これは演技だ、そういう振りだ、と念仏のように心の中で何度も唱えた。
そうでもしないと、今にも腰が抜けて崩れ落ちてしまいそうだったから。
元社畜オタク女にそんな高度なテクニックを披露されましても――――――――!
対応出来かねます……。
「あ、あ……し、失礼しましたー!」
ステラはこれまたヒロインらしく、純情だったようで。
ぴゅーっと脱兎の如く駆け出していった。
後に残されたのは、私と翔梧、それから魔物のアルミラージだけであった。
「きゅうん」
鳴いたアルミラージを私は抱き上げた。
「なんで私に懐くかなぁ」
「きゅっ!」
紫に発色する身体を揺らし、金の瞳を細めてアルミラージは満足げに返事をした。
もふもふを触っていると、心なしか先程まで感じていた恥ずかしさが薄れていく気がした。
アルミラージに顔を埋めながら、ちらりと翔梧に視線を向けると、ばちりと目が合ってしまった。
慌てて互い違いに夜空を見上げ、火照った頬がバレないように願った。
「か、帰ろうかしらね」
「あぁ、そ、うだな」
((……もう少し触れ合っていたかった、かもしれない……))
『こいまほ』世界の月も変わらず大層綺麗であった。
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