転生悪役令嬢と不良くん。[第一部*完]

高殿アカリ

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第三章 毒入り林檎

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建物から出てきた彼の腕の中には、驚くほど痩せこけたパトリシア様がいた。



大切に、丁寧に、世界で一番の宝物のように抱かれたパトリシア様を見て、私の恋ははなから叶わないものであったのだと思い知った。



砕け散った恋心に、きっぱり別れを告げて、私は翔梧様の元へと駆け寄った。



@@@@@@@@@@@@@



ーーーー数週間前。



ステラは養父であるバーリー男爵から悪意を感じ取っていた。

「聖女」と呼ばれる彼女には、他者の悪意を敏感に察知出来る能力が備わっていたのだ。



一方で、倫理的に良くない事が起きると分かっていても、それがいつどこで誰に降りかかるものであるのか、そう言った詳細な悪事の計画まで明瞭になるわけでもなかった。



それがステラにとっては歯痒い感覚であった。

また同時に、誰かしらの悪意に晒さられ続ける毎日は彼女にとって地獄以外の何者でもなかった。



故に、異世界から落ちてきたという転移者の彼に出会った時、一切の悪意を読み取れないことに感動したのだが、それはまた別の話である。



以上のことから、孤児院の帰りに馬車が悪意の塊で取り囲まれた時、直感的にステラは理解した。



大元にはバーリー男爵がいる、ということを。



その真実をパトリシアたちに告げようか、告げまいか、信じてもらえるだろうか、などと悩んでいるうちに、悪漢たちが馬車の中に入ってきた。



そして、そのままパトリシアを連れ去ったのだ。



ステラは自身の判断を強く責めた。

彼女としては、最小限で被害を食い止められれ方法が浮かんでいたのだから。



私がバーリー男爵のことを話していれば、こんなことにはならなかった。

確固たる確信を持ってそう断言出来たのだから。



連れ去られた先もステラは見当が付いていた。

王都の近くには、バーリー男爵家の別荘がある。

きっとそこに連れられているはずだ。



ステラはノエルたちの協力を得て、国王に直訴するものの、国王側は貴族の汚点を積極的に暴きたくないという気持ちからステラの言葉を信じられないでいた。



「パトリシア嬢が連れ去られたという確固たる証拠と、それがバーリー男爵だという根拠はあるのかね」



はぁ、と溜め息を吐く自らの父親への怒りにノエルは拳を握り、必死に耐えていた。



翔梧が国王に進言する。



「俺は彼女が連れ去られるところを見ていた! 証人にもなる」



「そう言われてもなぁ。どこぞの誰ともよく知らぬ転移者の話を鵜呑みにするわけにもいかないのだよ。君とステラ嬢が共闘してパトリシア嬢を監禁している可能性もあるのだし」



翔梧の肩は怒りで震えていた。



「ならば、俺たちだけで探します……」



踵を返した翔梧の前に、武器を携えた近衛兵が立ちはだかる。



「それもならん。本当にバーリー男爵家が関与しているのなら、ことはタダでは済まない。貴族の汚点は、王家の汚点にもなり得る。王の知らぬところで勝手をされては困るのだよ」



顎髭を撫でながら、国王は何かを考えていた。

中々重い腰を上げてくれない国王に、パトリシアを知る者たちは不信感を抱き始めている。



「とは言え、証拠があれば王として動かざるを得ない。バーリー男爵が黒であるという証拠が、な」



まるで力量を試すかのように国王はノエルとよく似た榛色の瞳を光らせ、その場にいたノエル、翔梧、ステラ、レジナルド、サイモン、マシューの一人一人にじっくりと視線を走らせた。



ステラが嘘を言っていた場合でも、証拠があれば元平民の小娘の意見に振り回された愚かな王と国民に認識されることはないだろう。

また、彼女が真実を述べていた場合も、的確な判断を下したと称賛される上に、ロイド公爵家にも恩を売ることが出来るのだ。



国王の動きは威厳も信頼も、どちらも失わないための慎重な選択だったと言えよう。



確かに、そういったどちらに転んでもいいような保身的な態度は国王の素質の一つではあるのかもしれないが、翔梧からしてみれば何とも煮え切らない態度でもあった。



とは言え、国王の判断により合法的にバーリー男爵家への調査が可能となった。
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