12 / 63
Shopping Mall
7
しおりを挟む
「ごめんね。もう、こうするしかないの」
ミレイがメリッサの身体を外に向かって押し出したのだ。
メリッサがモールの外で尻餅をつく。
俺は瞬時に身体を動かし、正面入口のシャッターを力任せに下ろした。
「ちょっと、何すんのよ‼」
メリッサは吠えながら、無情にも閉められた鉄のシャッターにしがみ付いている。
甲高く耳に残るメリッサの声を尻目に、鉄柵越しにクレオの驚いた目と視線が合う。
俺はふいっと視線を外して、へたり込んでいるミレイを抱き上げた。
アンデッドたちの手が俺らの背中を捉える前に、俺は全力疾走で横の食料品店に逃げ込んだ。
そっとミレイを床に下ろすと、店のシャッターを閉めた。
一先ず、これで時間は稼げるはずだ。
「……なぜ貴方も逃げなかったの。……どうして」
ぼんやりと俺を見上げる羊頭の彼女に喝を入れる。
「ぼやぼやしてる暇はねぇぞ。人間のままでいたけりゃ、腕を切るしかない。それも今すぐに、だ。どうする。苦痛な人生を歩みたくねぇってんなら、アンデッドになった瞬間、俺がそのこめかみにショットガンをぶっ放してやってもいいぜ?」
瞳いっぱいに溜めていた涙を拭いて、彼女は力強くこう言った。
「やって。私はまだメリッサちゃんと一緒に生きていたい」
迷いのない澄んだ瞳だった。
「よく言った」
俺はミレイの頭をがしがしと撫でた。
ふわっふわで柔らかな触り心地がした。
この羊は何としても生かさなければならない。
この心地よい触り心地はもはや世界遺産である。
ディストピアにおいてこんなにも柔らかい場所を無くしてはならない。
腰にくくりつけた斧を取り出し、商品棚に残っていたバーナーで刃部分を熱した。
そして、そのままの勢いでミレイの二の腕を叩き切った。
痛みから言葉に出来ないほどの雄叫びをあげたミレイを無視してさらに熱した斧で二の腕の患部を焼く。
出血を止めるためだけの応急処置だ。
じゅうと肉の焦げる匂いがした。
ミレイの叫び声は今や喉が潰れるほどまでになり、繊細な声の影もなくひび割れた音だけがモールの外にまで響き渡っていた。
アンデッドたちが音に刺激され、シャッターを強く押してくる。
鉄のシャッターとは言え、本能任せのアンデッド何十体もの力にそう長くは持たない。
「時間はあまり残されていねぇみたいだな」
ミレイの患部には布を巻いた簡易的な手当てが必要だと判断する。
背中のリュックから一瞬クレオへのお土産である青い総レースのワンピースが顔を出してきた。
ほんの僅かに俺の身体が止まるも、首を振って雑念を払う。
俺はワンピースをもう一度カバンに戻した。
それから自分の服の袖を噛みちぎり、ミレイの患部へとそれを当てた。
声を出すことにも疲れ果てたのか、ただ息を荒くしたミレイが俺の一連の行動を見ていた。
「それ、綺麗ね」
彼女の額には大量の汗が浮かび上がっていた。
絶え間のない苦痛に意識を朦朧とさせながら、かすかに微笑むミレイの姿はまさしくこの世界に相応しいものであった。
彼女はまだ、生きている。
俺は布を丁寧に巻きつけながら、彼女の気が紛れるように言葉を紡いでいった。
「あぁ、クレオへの土産だからな。俺が無事に生きて帰るためのおまじないみたいなもんだ」
「プレゼントを用意することが?」
「そうだ。一人での遠征のときは必ずそうする決まりなんだ。お互いにな」
「良いアイデアだね。じゃあ、私はメリッサちゃんにこれを持って帰ろうかな」
ミレイは片腕を伸ばして、近くの棚からチョコレートバーを引っ掴んだ。
俺は彼女の身体を支えていた。
「これ、メリッサちゃんの好物なのよ。物資を漁る時、いつも探しているの」
俺は歯を見せてにぃっと笑った。
「そいつぁ、良い土産だな。きっと喜ぶぞ」
「うん、そうだね」
意識が朦朧としているミレイを抱え直したとき、腰から無線の音が入ってきた。
ミレイがメリッサの身体を外に向かって押し出したのだ。
メリッサがモールの外で尻餅をつく。
俺は瞬時に身体を動かし、正面入口のシャッターを力任せに下ろした。
「ちょっと、何すんのよ‼」
メリッサは吠えながら、無情にも閉められた鉄のシャッターにしがみ付いている。
甲高く耳に残るメリッサの声を尻目に、鉄柵越しにクレオの驚いた目と視線が合う。
俺はふいっと視線を外して、へたり込んでいるミレイを抱き上げた。
アンデッドたちの手が俺らの背中を捉える前に、俺は全力疾走で横の食料品店に逃げ込んだ。
そっとミレイを床に下ろすと、店のシャッターを閉めた。
一先ず、これで時間は稼げるはずだ。
「……なぜ貴方も逃げなかったの。……どうして」
ぼんやりと俺を見上げる羊頭の彼女に喝を入れる。
「ぼやぼやしてる暇はねぇぞ。人間のままでいたけりゃ、腕を切るしかない。それも今すぐに、だ。どうする。苦痛な人生を歩みたくねぇってんなら、アンデッドになった瞬間、俺がそのこめかみにショットガンをぶっ放してやってもいいぜ?」
瞳いっぱいに溜めていた涙を拭いて、彼女は力強くこう言った。
「やって。私はまだメリッサちゃんと一緒に生きていたい」
迷いのない澄んだ瞳だった。
「よく言った」
俺はミレイの頭をがしがしと撫でた。
ふわっふわで柔らかな触り心地がした。
この羊は何としても生かさなければならない。
この心地よい触り心地はもはや世界遺産である。
ディストピアにおいてこんなにも柔らかい場所を無くしてはならない。
腰にくくりつけた斧を取り出し、商品棚に残っていたバーナーで刃部分を熱した。
そして、そのままの勢いでミレイの二の腕を叩き切った。
痛みから言葉に出来ないほどの雄叫びをあげたミレイを無視してさらに熱した斧で二の腕の患部を焼く。
出血を止めるためだけの応急処置だ。
じゅうと肉の焦げる匂いがした。
ミレイの叫び声は今や喉が潰れるほどまでになり、繊細な声の影もなくひび割れた音だけがモールの外にまで響き渡っていた。
アンデッドたちが音に刺激され、シャッターを強く押してくる。
鉄のシャッターとは言え、本能任せのアンデッド何十体もの力にそう長くは持たない。
「時間はあまり残されていねぇみたいだな」
ミレイの患部には布を巻いた簡易的な手当てが必要だと判断する。
背中のリュックから一瞬クレオへのお土産である青い総レースのワンピースが顔を出してきた。
ほんの僅かに俺の身体が止まるも、首を振って雑念を払う。
俺はワンピースをもう一度カバンに戻した。
それから自分の服の袖を噛みちぎり、ミレイの患部へとそれを当てた。
声を出すことにも疲れ果てたのか、ただ息を荒くしたミレイが俺の一連の行動を見ていた。
「それ、綺麗ね」
彼女の額には大量の汗が浮かび上がっていた。
絶え間のない苦痛に意識を朦朧とさせながら、かすかに微笑むミレイの姿はまさしくこの世界に相応しいものであった。
彼女はまだ、生きている。
俺は布を丁寧に巻きつけながら、彼女の気が紛れるように言葉を紡いでいった。
「あぁ、クレオへの土産だからな。俺が無事に生きて帰るためのおまじないみたいなもんだ」
「プレゼントを用意することが?」
「そうだ。一人での遠征のときは必ずそうする決まりなんだ。お互いにな」
「良いアイデアだね。じゃあ、私はメリッサちゃんにこれを持って帰ろうかな」
ミレイは片腕を伸ばして、近くの棚からチョコレートバーを引っ掴んだ。
俺は彼女の身体を支えていた。
「これ、メリッサちゃんの好物なのよ。物資を漁る時、いつも探しているの」
俺は歯を見せてにぃっと笑った。
「そいつぁ、良い土産だな。きっと喜ぶぞ」
「うん、そうだね」
意識が朦朧としているミレイを抱え直したとき、腰から無線の音が入ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます
水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。
しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。
このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。
そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。
俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。
順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。
家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。
だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる