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しおりを挟む「結局のところ、正妃の血を継いだ本当の王位継承者はとっくの昔に国を逃げ出していたんですって。だから、今でも国王軍と革命軍は血眼になってその人物を探しているらしいわ。十分に気をつけて。新しい王国の樹立に、そしてその権力争いに巻き込まれないように……」
俺は驚いて彼女の顔を振り返った。
真摯な赤い瞳が俺を射抜く。
彼女は俺の手のひらにそっと手を滑り込ませた。
かさりと乾いた音がして、紙切れが俺の手の中に収まった。
「あたしたちの無線の番号を書いているわ。何かあったら連絡して。ミレイを助けてくれたお礼よ。力になるわ」
そうして、メリッサは元気にポニーテールを揺らしながらミレイの元に戻っていった。
クレオの前に座り、ハンドルを握る。
彼の華奢な白い腕が俺の身体に巻きついてくる。
「キスでもしていたんですか?」
不愉快さを隠しもしないクレオの声に俺の頬は不覚にも緩んだ。
「ぶはっ。してないって分かっているだろう」
吹き出して笑う俺の背中にクレオが頭をぐりぐりと押しつける。
「機嫌を直せ。ほら、これを持ってきてやったぞ」
俺はリュックから青い総レースのワンピースを取り出した。
それを手にしたクレオは嬉しそうに肩を震わせている。
土産は大成功ってわけだな。
したり顔で頷いていた俺の頭をクレオがはたく。
「なっ、なんてものをプレゼントにしているんですか‼」
顔を真っ赤にして怒るクレオに納得がいかない。
「命懸けで持って帰ってきたのに、解せない」
俺がそう言うと、クレオは何やら言いにくそうに口をもごもごさせたあと、ぼそっと俺にだけ聞こえる声量で呟いた。
「これは、ベビードールという衣服です。女性用ランジェリーなんですよ……」
盛大に照れているクレオに俺も耳を赤く染めた。
「そ、そうだったのか」
なんとも気まずい空気が流れるも、クレオが青いベビードールを着用している姿を想像せずにはいられなかった。
「ほら、早く行きましょう」
「あ、あぁ」
クレオに急かされ、俺はアクセルを全力で踏み抜いた。
サイドミラー越しにメリッサがミレイと共に去っていく姿が映っていた。
『今でも探してるみたいよ』
彼女の囁き声が俺の脳裏に焼き付いて離れない。
次第に大きくなっていく胸の騒めきが、どうか気のせいであって欲しいと切に願うばかりである。
「……ゴードン、あんまり私にヤキモチを妬かせないでください」
「ん? 何か言ったか?」
エンジン音と次々に鳴る爆発音に掻き消され、クレオの声が俺に届くことはなかった。
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