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Port Town

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「部下が殴ってごめんな。痛かったよな」

パウルは牢屋の鍵を回しながら謝罪する。

「いや、逃がしてくれるだけ有難いさ。……それより、リーンハルトが暴力的になっていると言っていたがそれは本当なのか?」

「あぁ、そうだよ。もちろん、出来るかぎり止めてはいるけれどね」

「もしパウルが俺たちを逃がしたことをリーンハルトが知ればどうなる。奴の暴力は仲間にも向かうのか」

ギィと鉄柵が開かれた。
俺はパウルの瞳を見つめていた。

メリッサは俺の背中に隠れている。
なんだかんだ言っても恐ろしいのだろう。

「あんたたちには関係のないことだろう。それに、俺に全く利益がないわけでもねぇんた。俺だってあの人とあの人の大切な人を会わせたくねぇんだから。な、自分勝手だろう?」

俺はパウルの顔を覗き込む。

「それはどういうことだ」

パウルが肩を竦めた。

「俺にとって大切にしたいのはあの人だってことだ。リーンハルトとクレオを会わせたくないという利害は一致してるんだ。……これ以上は踏み込んでくるな」

パウルは俺に線を引いた。
それはどうやったって越えられない境界線だった。

すまなかったと頭を下げた。
パウルとリーンハルトの関係は俺が思っているよりも脆くて繊細でそれでいて一等大事なものなのかもしれない。

本当のところは彼らにしか分からないが。

俺はメリッサと連れ立って、牢屋からの一歩を踏み出した。
そのままパウルの案内で倉庫街の裏門へと案内される。

「ミレイのことはどうするつもり?」

メリッサが俺に問いかける。
答えたのはパウルだった。

「そこにいるだろ?」

顎を裏門に向けると、そこには俺たちを待っているミレイがいた。
彼女を目にすると、メリッサはミレイの元へと駆けていった。

「大丈夫? 酷いことされていない?」
「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」

余程心配だったのだろう。
全身を隈なく確認し、ミレイの無事を確認してメリッサはほぅと息を吐いていた。

彼女たちの様子を眩しそうに見つめた後、パウルは言った。

「あとは来た道を戻るだけだ。簡単だろ?」
「パウル、君も一緒に……」

パウルが首を横に降っているのを見て、俺の言葉は途中で消えた。
パウルがそれを望んでいなかったからだ。

「俺はあんたたちが逃げたってバレないようになんとか時間稼ぎをしておくよ。何度もしているから慣れてんだ。……あの人に一線を越えさせないことが俺の役目だからな」

にかっと歯を見せて笑うパウルはどこまでも健気だった。

「あぁ、よろしく頼むよ」

俺はパウルの肩に手を置くと、そのままミレイとメリッサの元へと向かった。
後ろは振り返らなかった。

どうしてか、彼とはもうこれっきりだとは思えなかった。
リーンハルトとも。
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