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第2章
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しおりを挟む「大吾くん、それじゃあ僕は病院に出勤するね。……本当はずっとここにいたいんだけど」
雪は寂しそうな顔をして、大吾の額にキスを落とした。
「んっ」
少し反応は示すも、大吾はすやすやと穏やかな寝息をたてていた。
全裸でベッドに手足を繋がれながら。
雪は大吾の首輪に長いチェーンをつけ、それをまたベッドに繋いだ。
それから、手足についていた鎖を外した。
「よし、と」
雪はそれだけを言って、名残惜しそうに部屋を出た。
かちゃん、としっかり扉に鍵をかけて。
雪が部屋を出ていったあと、大吾はそろりと目を開けた。
「ふぅ……」
軽いため息を吐き、彼は普段動かせない手足をマッサージしている。
手首や足首についた赤黒いあざも、今ではもう当たり前になっていた。
大吾の首輪に繋がれたチェーンの長さは、ちょうど部屋の中を歩き回ることが可能なだけであった。
これが、雪の外出時のスタイルだった。
部屋には、いつものようにお昼ご飯とペットボトルが置かれていた。
あの日、ここに閉じ込められてからどのくらいの時間が経ったのか。
大吾にはちっとも検討がつかなかった。
この部屋の時計は外されていたし、雪は必ず出勤前には顔を出したが、そもそも医者の出勤時間が規則的なわけがない。
分厚いガーデンから差し込む光の加減で、今の時間が昼なのか夜なのかということしか分からないのだ。
毎回、ご飯はきちんと用意されていた。
一食分の時と二食分の時があるのは、雪の外出時間に関係しているのだろう。
また、トイレの際は部屋の片隅に置いてあるバケツにしなくてはならなかった。
汚いそれらを見て、雪はいつも笑うのだ。
「今日は、たくさん出したんだね」
「ちょっとお腹が弱いのかな?」
なんて言いながら。
けれど、雪が大吾に手を出すことはなかった。
むしろ雪と大吾が顔を合わせるのは、一日に数分程度。
雪の外出前とご飯を持ってくる時やトイレ用のバケツ交換の時だけだ。
そのことがまた、大吾の心を疲弊させていた。
誰とも会わず、一言も喋らず、毎日毎日ただベッドの上で寝ているか、部屋の中でぼーっとしているだけなのだ。
雪の手料理を食べ、ペットボトルの水を飲み、バケツに跨って用をたす。
服を着ることさえ許されない。
自然と大吾は、過去を回想するようになる。
しかし、どの記憶にも必ずと言っていいほど雪が現れるのだ。
それが悔しくて、悲しくて、辛かった。
雪を憎んでしまいたいのに、憎めない。
そうして気づく、自分がどれほど雪を好いているのかということに。
大吾は、過去を思い返してはその度にふたつの感情に引き裂かれそうになる。
雪を憎みたい心と愛したい心に。
こんなに酷いことをされているのに。
どうしても優しいあの笑顔が忘れられない。
どうしても楽しかったあの日々が忘れられない。
「雪、なんでだよ……」
大吾は、ぽろぽろと涙を零す。
小学生のとき、迷子になった俺を迎えに来てくれた。
中学に入ると、大学に通う雪が遠くに行ったみたいに思えて、切なかったっけ。
高校のときは、勉強を見てもらった。
ラグビー部の試合も見に来てくれた。
あの頃の雪は、もういないのか?
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