愛してるなら、噛みついて。(改稿中)

高殿アカリ

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第5章

5-2

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「……まぁ、いいか。それより、今日は空が綺麗だなぁ」

「……」

「お、飛行機雲。飛行機っていやぁ、俺は高いところが苦手でな。実は乗ったことがねぇんだ」

がはは、と笑う誠に大吾は戸惑いを隠せなかった。

「……っ」

唾を飲み込んだのは自分が彼と話をしたがっているからだと気付き、大吾は愕然とする。

俺が?
誰かと話したいっていうのか?
雪以外の誰かと?谷崎以外の誰かと?

自嘲気味に片方の口を引き上げて、顔を歪ませた。
それから、今も続いている誠の独り言のような会話に、大吾は返事をした。

「……どうしてだ。どうして、話しかける」

顔の見えない二人は、互いの様子が分からない。
だから、大吾の瞳に微かに宿った光にも誠は気付いていなかった。

「まぁ、始めは気のせいだと思ってた。隣の家から四六時中人の気配がするなんてな。でも、まぁ気になって澄野って奴に聞いてみたんだよ」

「なんて?」

「お宅、一人暮らしですよね?って。すると、大層爽やかな笑顔が返ってくるじゃねぇか。これは怪しいと踏んだね。それから俺は、暇になればベランダに出ることにしたのさ。こんな風に、誰かと出会えるかもしれねぇと思ってよ」

顔も姿も見えない誰かに向けて、誠は白い歯を見せて笑った。
そのあと、急に真剣な面持ちになり、再び口を開いた。

「……どんな事情があるにせよ、俺から何も言うことは出来ないが……本当にお前はそれで幸せなのか?」

出会って間もない彼の言葉に、大吾は衝撃を受けた。
何も知らないくせにという思いと同等に、何も知らないからこそのそこに含まれている真実味にも気が付いた。

大吾は首を嫌々と横に振る。
それから、耳を塞いで俯いた。

世界が真っ暗に変わった気がした。
今まで信じていたもの全てが失われた気がした。

「幸せ」という基準を大吾は持っていなかったからだ。
狭い世界に閉じ込められて、「幸せ」かどうかなんてものはいつの間にかどうでも良いものになっていた。

その事実を突きつけられたのだ。
声しか知らない、どこかの誰かに。

途端に恐怖を感じた大吾は、部屋に戻ろうと窓に駆け寄るが、非情にも窓には鍵がかけられている。

ガチャガチャと窓を開けようと必死になっている音に、誠は気まずそうな表情を浮かべた。
ぼりぼりと頭を掻いて、

「怖がらせて、すまなかった。俺はもう部屋に戻るから」

それだけを告げて、自室へと戻っていた。

煙草の香りが遠のき、人の気配がなくなると大吾は窓を背にずるずると座り込む。

それから、雪が帰ってくるまでただひたすらに何かを考え込んでいた。
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