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第一章 日常
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黄色のエプロンを身にまとい、鼻歌を奏でながら、愛生はキッチンに立っている。朝の程よく涼しい風が彼の赤茶けた髪をくすぐって通り抜けていった。
じゅぅっと目玉焼きの焼ける音が耳に心地よい。
春の暖かい日差しが存分に降り注ぎ、室内は殊更に明るく、眩い。
祖父が住んでいた一軒家を譲り受けてからどのくらい経っただろうか。
子どもの頃、よく遊びにきていたときよりも随分と使いやすくリフォームしてもらっている。水回りが改善されたことが愛生は特に嬉しかったものだ。
だから毎朝、苦も無く二人分の食事を用意できるのである。
(こんな自分でも誰かのために何かしてあげられることがあると、それだけで人生はちょっぴり楽しいものになるんだよな)
愛生は同居人の存在を思い浮かべ、実年齢より少々若く見られがちな童顔をくすぐったそうに緩めた。
今日も二人分の朝食を用意し終わったあと、愛生は手慣れた様子でダイニングテーブルに配膳していく。ただし、一人分にはラップをかけたままだ。
空いた向かい席に笑みを向けながら、愛生は手を合わせた。たまに合う休日にだけ彼が座るその場所を、愛生は愛おしく見つめるのだった。
「いただきます」
朝のニュースを流し見しつつ、朝食を食べるのは愛生の日課だ。世の中の出来事をどこか他人事のように感じながら、食事を進める。
天気予報、政治、エンタメ、ゴシップ――。
良く晴れた日に、愛生の注目する報道内容はほとんどない。
『速報です。先日、都内××にて一斉摘発された薬物乱交事件について――』
ピロリンという音と共に、カメラがスタジオに切り替わる。愛生は自身の住んでいる街からそう遠くない繁華街の名前に顔をあげた。テレビの情報に集中する彼の表情は少し真剣だ。
そう、唯一、愛生が気にするのは近くで起きた事件報道のみ。
『警察は反社会的勢力の関与も認めており――』
(最近は薬物? 絡みの事件が多いんだなぁ。近所だし、周にも危ないことしちゃだめだってきちんと言っておかないと)
同居人である周の顔を思い浮かべながら、愛生はそんなことを思った。綺麗な顔と人好きのする気質を武器に、周はホストとして夜の繁華街で働いているのだ。
「うしっ。ごちそうさま」
綺麗に朝食を食べ終えた愛生は空になった皿を流し置く。
それから、一通り朝の準備を済ませると、寝室に顔を出した。
扉を少し開けて、ダブルサイズのベッドに眠る周の様子を見つめる。そこには布団を頭からかぶり、丸まって眠る姿があった。
短い黒髪の毛先だけが布団からはみ出しているのがいつもの高身長に似合わず愛らしい。
呼吸の度に布団が上下に動く。愛生はそれを見て、目を細めた。
「今日もうちのわんこは健康だなぁ」
楽しそうな笑顔を見せたあと、彼はすやすやと眠る周に向かって挨拶を告げる。
「じゃ、いってきます」
そうして、今度こそ愛生は商店街にある自身のバイク屋へと足を向けたのだった。
じゅぅっと目玉焼きの焼ける音が耳に心地よい。
春の暖かい日差しが存分に降り注ぎ、室内は殊更に明るく、眩い。
祖父が住んでいた一軒家を譲り受けてからどのくらい経っただろうか。
子どもの頃、よく遊びにきていたときよりも随分と使いやすくリフォームしてもらっている。水回りが改善されたことが愛生は特に嬉しかったものだ。
だから毎朝、苦も無く二人分の食事を用意できるのである。
(こんな自分でも誰かのために何かしてあげられることがあると、それだけで人生はちょっぴり楽しいものになるんだよな)
愛生は同居人の存在を思い浮かべ、実年齢より少々若く見られがちな童顔をくすぐったそうに緩めた。
今日も二人分の朝食を用意し終わったあと、愛生は手慣れた様子でダイニングテーブルに配膳していく。ただし、一人分にはラップをかけたままだ。
空いた向かい席に笑みを向けながら、愛生は手を合わせた。たまに合う休日にだけ彼が座るその場所を、愛生は愛おしく見つめるのだった。
「いただきます」
朝のニュースを流し見しつつ、朝食を食べるのは愛生の日課だ。世の中の出来事をどこか他人事のように感じながら、食事を進める。
天気予報、政治、エンタメ、ゴシップ――。
良く晴れた日に、愛生の注目する報道内容はほとんどない。
『速報です。先日、都内××にて一斉摘発された薬物乱交事件について――』
ピロリンという音と共に、カメラがスタジオに切り替わる。愛生は自身の住んでいる街からそう遠くない繁華街の名前に顔をあげた。テレビの情報に集中する彼の表情は少し真剣だ。
そう、唯一、愛生が気にするのは近くで起きた事件報道のみ。
『警察は反社会的勢力の関与も認めており――』
(最近は薬物? 絡みの事件が多いんだなぁ。近所だし、周にも危ないことしちゃだめだってきちんと言っておかないと)
同居人である周の顔を思い浮かべながら、愛生はそんなことを思った。綺麗な顔と人好きのする気質を武器に、周はホストとして夜の繁華街で働いているのだ。
「うしっ。ごちそうさま」
綺麗に朝食を食べ終えた愛生は空になった皿を流し置く。
それから、一通り朝の準備を済ませると、寝室に顔を出した。
扉を少し開けて、ダブルサイズのベッドに眠る周の様子を見つめる。そこには布団を頭からかぶり、丸まって眠る姿があった。
短い黒髪の毛先だけが布団からはみ出しているのがいつもの高身長に似合わず愛らしい。
呼吸の度に布団が上下に動く。愛生はそれを見て、目を細めた。
「今日もうちのわんこは健康だなぁ」
楽しそうな笑顔を見せたあと、彼はすやすやと眠る周に向かって挨拶を告げる。
「じゃ、いってきます」
そうして、今度こそ愛生は商店街にある自身のバイク屋へと足を向けたのだった。
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