愛に生きる。

高殿アカリ

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第二章 危険

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そのまま男に連れ去られたのは、薄暗いビルの中だった。先程より愛生の頭痛は幾分かマシになっていて、その分、何か大事なことを思い出しかけているような気がしている。
 あたりを見渡すとどうやらどこかの事務所のようだ。事務のデスクとキャスターつきの椅子が無機質な部屋に一定間隔で並べられている。
 ぼうっとしているうちに奥の扉が開いて、いかつい男が出てきた。何やら刺青が入っている。
「おい、こいつは?」
 投げかけられた問いかけに、愛生をここまで連れてきた男がへらへらと笑って答える。
「頭が話題にしてた周ってやつです」
「ほぉん、こいつがねぇ」
 サングラスを下にずらして、愛生の顔を見る男。どうみても堅気ではなかった。ごくり、と愛生は唾を飲み込んだ。
 愛生の周りをぐるぐる回りながら、男は手を伸ばす。手はそのまま愛生の尻を勢いよく掴んだ。
「ひっ」
 恐怖から愛生の声が漏れる。男が意地の悪そうな笑みを見せて愛生の正面まで戻ってくる。
「なぁ、周さんよぉ。俺らの島を荒らしてるらしいじゃぁねぇか。落とし前、どうつけんだ?」
 男が愛生の顎を掴んで勢いよく愛生の顔を持ち上げる。ぎりぎりと力任せに掴まれた顎の皮膚に男の爪が食い込んで痛い。
 眉をしかめながら、愛生は無言を貫いた。正直、このまま自分が周ではないことを証明する手段なんていくらでもある。だが、周は愛生の大切な存在だ。だから、このまま自分の身可愛さに周ではないことを言ってしまえば、周が危険にさらされてしまうだろうことは安易に予想が出来るし、それは愛生の望むところではないのだった。
 愛生は自分が周の盾になれるのなら本望だとすら思っていた。
 男のくさい息が愛生に近付く。
「よく見たら別嬪さんだなぁ。身体つきも良いときた」
 男の手が嫌らしく愛生の腹をさする。愛生は目を閉じて必死に耐えるほかなかった。男の言葉が一時の気の迷いであることを信じて。
 だが、男の手は愛生の期待を裏切って、止まらない。厭らしさをもって愛生の尻を撫でまわしている。かかる吐息の荒さが男の興奮を伝えてくる。
「けり、ここでつけるよなぁ?」
 ぐいっとひときわ強く、尻を掴まれた次の瞬間、愛生は床に押し倒された。配慮の一切ない押し倒しに、愛生は全身を打ち付け、その痛みにうめく。
「かはっ……」
 だが、そうしているうちに男の影が愛生に覆い被さってくる。
「っ、やめ、ろ……」
 思わず抵抗する愛生だったが、屈強な男の力にはかなわない。
「俺、じゃじゃ馬を乗りこなすのも得意なんだよねぇ」
 男の舌が愛生の首筋を這う。気持ち悪くて、怖くて、愛生は眦に涙を溜める。だが、それすらも男にとっては興奮するようで、じっとりと舐められてしまう。
「……っ」
 こんなところで汚されたら、周にも軽蔑されるかもしれない。悲しい、辛い。
 ――どうして俺がこんな目に……。
愛生の心が限界に達したその瞬間、勢いよく事務所の扉がけ破られた。
 眩しい光が扉から指してきて、愛生が心から望んでいた声が聞こえた。
「何してんだ!」
 愛生の表情に僅かな希望が浮かぶ。
「……周っ!!」
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