18 / 40
第二章 危険
3
しおりを挟む
そのまま男に連れ去られたのは、薄暗いビルの中だった。先程より愛生の頭痛は幾分かマシになっていて、その分、何か大事なことを思い出しかけているような気がしている。
あたりを見渡すとどうやらどこかの事務所のようだ。事務のデスクとキャスターつきの椅子が無機質な部屋に一定間隔で並べられている。
ぼうっとしているうちに奥の扉が開いて、いかつい男が出てきた。何やら刺青が入っている。
「おい、こいつは?」
投げかけられた問いかけに、愛生をここまで連れてきた男がへらへらと笑って答える。
「頭が話題にしてた周ってやつです」
「ほぉん、こいつがねぇ」
サングラスを下にずらして、愛生の顔を見る男。どうみても堅気ではなかった。ごくり、と愛生は唾を飲み込んだ。
愛生の周りをぐるぐる回りながら、男は手を伸ばす。手はそのまま愛生の尻を勢いよく掴んだ。
「ひっ」
恐怖から愛生の声が漏れる。男が意地の悪そうな笑みを見せて愛生の正面まで戻ってくる。
「なぁ、周さんよぉ。俺らの島を荒らしてるらしいじゃぁねぇか。落とし前、どうつけんだ?」
男が愛生の顎を掴んで勢いよく愛生の顔を持ち上げる。ぎりぎりと力任せに掴まれた顎の皮膚に男の爪が食い込んで痛い。
眉をしかめながら、愛生は無言を貫いた。正直、このまま自分が周ではないことを証明する手段なんていくらでもある。だが、周は愛生の大切な存在だ。だから、このまま自分の身可愛さに周ではないことを言ってしまえば、周が危険にさらされてしまうだろうことは安易に予想が出来るし、それは愛生の望むところではないのだった。
愛生は自分が周の盾になれるのなら本望だとすら思っていた。
男のくさい息が愛生に近付く。
「よく見たら別嬪さんだなぁ。身体つきも良いときた」
男の手が嫌らしく愛生の腹をさする。愛生は目を閉じて必死に耐えるほかなかった。男の言葉が一時の気の迷いであることを信じて。
だが、男の手は愛生の期待を裏切って、止まらない。厭らしさをもって愛生の尻を撫でまわしている。かかる吐息の荒さが男の興奮を伝えてくる。
「けり、ここでつけるよなぁ?」
ぐいっとひときわ強く、尻を掴まれた次の瞬間、愛生は床に押し倒された。配慮の一切ない押し倒しに、愛生は全身を打ち付け、その痛みにうめく。
「かはっ……」
だが、そうしているうちに男の影が愛生に覆い被さってくる。
「っ、やめ、ろ……」
思わず抵抗する愛生だったが、屈強な男の力にはかなわない。
「俺、じゃじゃ馬を乗りこなすのも得意なんだよねぇ」
男の舌が愛生の首筋を這う。気持ち悪くて、怖くて、愛生は眦に涙を溜める。だが、それすらも男にとっては興奮するようで、じっとりと舐められてしまう。
「……っ」
こんなところで汚されたら、周にも軽蔑されるかもしれない。悲しい、辛い。
――どうして俺がこんな目に……。
愛生の心が限界に達したその瞬間、勢いよく事務所の扉がけ破られた。
眩しい光が扉から指してきて、愛生が心から望んでいた声が聞こえた。
「何してんだ!」
愛生の表情に僅かな希望が浮かぶ。
「……周っ!!」
あたりを見渡すとどうやらどこかの事務所のようだ。事務のデスクとキャスターつきの椅子が無機質な部屋に一定間隔で並べられている。
ぼうっとしているうちに奥の扉が開いて、いかつい男が出てきた。何やら刺青が入っている。
「おい、こいつは?」
投げかけられた問いかけに、愛生をここまで連れてきた男がへらへらと笑って答える。
「頭が話題にしてた周ってやつです」
「ほぉん、こいつがねぇ」
サングラスを下にずらして、愛生の顔を見る男。どうみても堅気ではなかった。ごくり、と愛生は唾を飲み込んだ。
愛生の周りをぐるぐる回りながら、男は手を伸ばす。手はそのまま愛生の尻を勢いよく掴んだ。
「ひっ」
恐怖から愛生の声が漏れる。男が意地の悪そうな笑みを見せて愛生の正面まで戻ってくる。
「なぁ、周さんよぉ。俺らの島を荒らしてるらしいじゃぁねぇか。落とし前、どうつけんだ?」
男が愛生の顎を掴んで勢いよく愛生の顔を持ち上げる。ぎりぎりと力任せに掴まれた顎の皮膚に男の爪が食い込んで痛い。
眉をしかめながら、愛生は無言を貫いた。正直、このまま自分が周ではないことを証明する手段なんていくらでもある。だが、周は愛生の大切な存在だ。だから、このまま自分の身可愛さに周ではないことを言ってしまえば、周が危険にさらされてしまうだろうことは安易に予想が出来るし、それは愛生の望むところではないのだった。
愛生は自分が周の盾になれるのなら本望だとすら思っていた。
男のくさい息が愛生に近付く。
「よく見たら別嬪さんだなぁ。身体つきも良いときた」
男の手が嫌らしく愛生の腹をさする。愛生は目を閉じて必死に耐えるほかなかった。男の言葉が一時の気の迷いであることを信じて。
だが、男の手は愛生の期待を裏切って、止まらない。厭らしさをもって愛生の尻を撫でまわしている。かかる吐息の荒さが男の興奮を伝えてくる。
「けり、ここでつけるよなぁ?」
ぐいっとひときわ強く、尻を掴まれた次の瞬間、愛生は床に押し倒された。配慮の一切ない押し倒しに、愛生は全身を打ち付け、その痛みにうめく。
「かはっ……」
だが、そうしているうちに男の影が愛生に覆い被さってくる。
「っ、やめ、ろ……」
思わず抵抗する愛生だったが、屈強な男の力にはかなわない。
「俺、じゃじゃ馬を乗りこなすのも得意なんだよねぇ」
男の舌が愛生の首筋を這う。気持ち悪くて、怖くて、愛生は眦に涙を溜める。だが、それすらも男にとっては興奮するようで、じっとりと舐められてしまう。
「……っ」
こんなところで汚されたら、周にも軽蔑されるかもしれない。悲しい、辛い。
――どうして俺がこんな目に……。
愛生の心が限界に達したその瞬間、勢いよく事務所の扉がけ破られた。
眩しい光が扉から指してきて、愛生が心から望んでいた声が聞こえた。
「何してんだ!」
愛生の表情に僅かな希望が浮かぶ。
「……周っ!!」
5
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜
立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が
ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時
いつの間にかクラスメイトたちの
配信する動画に映りこんでいて
「誰このエンジェル?」と周りで
話題になっていた。
そして優心は
一方的に嫌っている
永瀬翔(ながせかける)を
含むグループとなぜか一緒に
動画配信をすることに。
✩.*˚
「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」
「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」
そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。
見た目エンジェル
強気受け
羽月優心(はづきゆうしん)
高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。
×
イケメンスパダリ地方アイドル
溺愛攻め
永瀬翔(ながせかける)
優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。
恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸
***
お読みくださりありがとうございます
可愛い両片思いのお話です✨
表紙イラストは
ミカスケさまのフリーイラストを
お借りいたしました
✨更新追ってくださりありがとうございました
クリスマス完結間に合いました🎅🎄
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる