愛に生きる。

高殿アカリ

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第四章 想い

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「なぁ、俺にも時間が出来たし、少し遠出でもしないか?」
 やたらと晴れた日曜日の朝、ホストを辞めた周は愛生の顔を覗き込んで言う。茶目っ気たっぷりの表情に愛生の胸が高鳴った。
「え? あ、うん。いいよ」
 へらりと笑った愛生に周も嬉しそうに笑い返すと、そのまま顔を近づけてちゅっとキスをする。ぽっと顔を赤らめる愛生の頭をひと撫でして、周はベッドから降りた。
 均整の取れた裸体がはらりと白いシーツから現れる。
 昨晩もいつもと同じく夜を共にした愛生のひっかき傷が背中に赤い花を散らしていた。その傷跡を愛おしく思いながらも、愛生の胸の中はくすぶっている。
 スタイリッシュな洋服をクローゼットから選ぶ周は鼻歌を歌っており、非常にご機嫌そうだ。
「愛生、おいで。今日の服を選んであげよう」
 愛生の方を振り返って手招きする周に、愛生はてこてこと近づいた。
 今ここにある幸せをもう少しだけ、甘受していたい。
 愛生はそっと願いを込めるのだった。

***

 日曜日の動物園は家族連れや恋人たちが多く、大変にぎわっていた。
「うわぁ、遊園地久しぶりに来たかも!」
 はしゃぐ愛生を見て、目を細めながら周も頷く。
「あぁ。俺も久しぶりだ」
 それから周はそっと愛生の手を握った。どこか夜の気配を纏わせた手つきで、周の指先が愛生のそれを絡めとる。
 はっとして愛生が周を見上げると、いたずら好きの笑顔が見えた。
「……いいの? 外で手なんか繋いじゃって」
 尋ねる愛生に周は頷いた。
「俺はもうホストじゃないし? 愛生だけの彼氏だし?」
 その答えにふふっと愛生の心も少し浮つく。
「あ! あそこにいるのライオンじゃない?」
 愛生が指を指した場所には、檻の中でだらんと日向ぼっこしているライオンたちがいた。
「おぉ。なんだか呑気なもんだなぁ」
「こうやって見るとネコ科なのも納得する」
 檻の前までやってきて、じぃっとライオンを見つめる愛生。彼の横に立って、愛生の様子を楽しそうに周が見ていた。
 昼が過ぎ、夕暮れが世界を照らし始めるころ、二人はゲート前にあるお土産ショップに足を運んでいた。
 真剣にぬいぐるみを吟味する愛生を見て、周はまた微笑む。その視線に気が付いた愛生がふと顔を上げた。
「む、何さ。成人男性がぬいぐるみを真剣に選んでるのがおかしい?」
「いいや、似合うなぁ、可愛いなぁって思っただけだよ」
 くすくすと笑う周を見て、やっぱり笑った顔が似ているなと愛生はこっそり思った。ぎゅっと一瞬だけ苦しくなった胸に蓋をして、愛生もまた笑顔を返す。
「じゃあ、こいつにしようかな」
ぬいぐるみの中から選りすぐった一体を取り出して、愛生は周に宣言した。
「ふぅん、愛生に可愛がられるなんて幸せなぬいぐるみだな」
 ちょっと不貞腐れたように言う周が愛おしい。愛生は幸せを噛み締めながら、こくんと一つ頷いた。
「やきもち、焼いてるんだ?」
 笑いながらレジへ向かった愛生を追いかけて、周が愛生の腕からライオンのぬいぐるみを取り上げた。
「あっ!」
「俺が買う。そんで、意地悪なことを言った愛生は、今夜覚えておけよ?」
 肩眉を上げてさらっとそう言った周に愛生の頬がぼっと赤らんだ。
「なっ!!」
 立ち尽くす愛生にべぇっと舌を出す周は、確かに年相応の可愛らしさも兼ね備えている。恋人として完璧な立ち回りをする彼に愛生は年上ながらに翻弄されっぱなしだ。
 それがこそばゆくもあり、嬉しくもあり、同時に悲しくもあるのだ。
「大丈夫、大丈夫。俺は周のことが好き。周の恋人なんだ……」
 言い聞かせるように独り言ちた愛生の言葉は、周には届かない。
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