その女、女狐につき。

高殿アカリ

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7.嵐の前の何とやら

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 ユマさんが里奈の前に立ち、男を鋭い目で睨み付けた。



 私はその間に里奈の元に駆け寄り、彼女の肩を抱いてあげた。



「……まな、み?」



 真っ赤に腫れた目で私を見つめる里奈。

 私は彼女に安心させるように笑いかけた。



 その瞬間、気が緩んだのか里奈はぶわっと泣き出し、私の胸に顔を押し付けた。



 そんな友情ごっこを繰り広げている後ろでは、ユマさんが男に何か(恐らく、もうあの子に関わるんじゃないよ、とかそんな感じのこと)を言っていた。



 それにバツが悪くなった男は舌打ちを一つだけ残してその場を去っていった。



 彼の出番は終了ってことね。



 ユマさんは男が去っていくや否や、私たちの方に振り返り、



「ここじゃなんだから、ちょっとどこかに座ろうか」



 うん、やっぱり男前。



 場所を変え、ショッピングモール内の喫茶店に入った私たち。



 未だすすり泣く里奈とそんな彼女を慰めている私の前に、厳しい表情をしたユマさんと一花が並んで座っている。



「もう、大丈夫?」



 私の問いに、里奈は儚く頷くと、ふと自分の目の前に座る二人を見た。



 そして、少しだけ困惑したように瞳を揺らした。



 その里奈の様子に、ユマさんが気付かないわけがなく、



「どうかしたか?」



 彼女の問いかけに、里奈は恐る恐る言い出した。



「あの、助けてくださってありがとうございました。……その、あなたは、前の寵愛姫のユマさんで、すよね?」



 質問に質問を返されたユマさんは、訝しげに、けれどもすんなりと首を縦に一度だけ動かした。
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