その女、女狐につき。

高殿アカリ

文字の大きさ
上 下
99 / 163
7.嵐の前の何とやら

17

しおりを挟む
 実際にはユマさんが前寵愛姫ってわけじゃないけれど、ここで里奈が黒閻について細かい事実を知っている方がおかしいから、あえて寵愛姫という言葉を使ってもらった。



 ユマさんもそう考えたのか、里奈に自分が前寵愛姫ではないと訂正しなかった。



「で、えっと。その、あなたは天野一花さん、ですよね? え、でも待って。どうして一緒にいるの? ……噂は?」



 段々と小さくなっていく里奈の声。



 里奈が何を言いたいのか全く分からないわ、みたいな顔をしていた私は、ここで瞳を見開いた。



 あ、やばいっていう感じの。



 もちろん、ユマさんはこの状況の異変に気付くわけで。



 眉間に皺を作りながら、



「噂?」



 と静かに呟いていた。



 その声をばっちり拾ってしまった、とばかりに私は眉毛を八の字にして、彼女の顔色を伺う。



 ばちり。



 ユマさんと私の視線が合わさって。



 私は無意識の内に生唾を呑み込む。



 ここが、勝負だ。



 手の平に汗を感じるも、私は微動だにしなかった。

 否、することが出来なかった。



 もしここで何か身体を動かしてしまえば、全てが嘘だとばれてしまうのではないか。



 そんな不安が私を支配した。



 永遠かとも思われる一秒だった。



 その間、私は視線が揺らがないよう、息を必死に止めていた。



 長い長いその一秒が過ぎ去った後、



「あんた、何か知っているんだね。ちょっと来な」



 嫌に真剣味を帯びた声色で、ユマさんは席を立ち、私を誘導した。



 ……かかった……!!



 ……いえ、まだよ。

 まだ喜ぶのは早いわ。



 そう、ここから先は私一人にかかっている。



 相手役の男の子も里奈も、よくやってくれたわ。



 今度は、私の番よ。
しおりを挟む

処理中です...