上 下
12 / 22
Story 01 side.ANKO

12

しおりを挟む
それから暫く経った秋の終わりの頃、十七歳になった私は婚約者と結納を交わそうとしていた。



とても良く晴れた日のことだ。



お母様から漏れたのだろう。

チャコと関わりを持ったことがお父様にバレた私は、結婚を早められることになったのだ。



カポーン、と小気味良い獅子脅しの音が縁側から聞こえる。



「本日はお日柄もよく……」



顔を下げた婚約者の後頭部に、私は写真を数枚落とした。

写真にはラブホテルへと向かうチャコと婚約者の姿が綺麗に映り、その場にいた全員の視界に入る。



「は?」



固まる婚約者に向かって私は不敵に笑った。



「は、ですって? 困惑しているのは私の方です。これは一体どういうことか説明してもらってもよろしいかしら?」



着物の袖を口元に当て、嫌らしく上がった口角を隠す。

写真を手にしたお父様が苦虫を噛み潰した顔をして、私を睨み付ける。



だけど、もう。ちっとも怖くないんだよ。

残念だけど、私は愚かな人間だから。



鉄格子から指を出せると気が付いてしまったら、あとはもう外からかけられた鍵を探せるの。



「婚約を、破棄させていただきます」



私の言葉に項垂れる婚約者と、私を落ち着かせようと声をかけてくる滑稽な大人たちと、壊れたように笑う母親。



ここはまるでパレードだ。



がやがやと騒々しくて、厄介で、誰もが自分の保身について頭を悩ませている。



さようなら、かつての世界。

何一つ未練なく、私は私を引き止めようとするもの全てに背中を向けた。

しおりを挟む

処理中です...