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Story 01 side.ANKO

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都会の複雑な路地に迷いながらも、差出人の住所に辿り着いたとき、丁度チャコが帰ってくるところだった。



「餡子、どうして……」



輝く金髪はあの日のままに、やっぱり電子タバコを咥えながら、彼女は私の前に現れたのだ。



「チャコが逃げたから。私も追いかけてきた」



「……いいの?」

「何が?」



「全部、上手くいかないかもしれないよ?」

「うん」



「喧嘩も沢山するかも」

「うん」



「お金もそんなにないし、幸せにはなれないかも」

「うん」



「あたし、あんたのこと見下すよ」

「うん」



「それでも、いいの? あたしで、いいの?」



「うん。チャコが、いい。それに忘れてるかもしれないけど、私たちもともと何一つ上手く生きて来られなかったんだよ? だから、チャコの心配は今更の話」



「あー、それもそっかぁ」



泣き笑いを浮かべたチャコを、今度は私が抱き締めた。



「大丈夫だよ。私たち、もうひとりぼっちじゃないから」

「あはは、餡子のくせに生意気」



一緒のことで笑えなくても、一緒のことで泣けなくても、一緒のことで怒れなくても、いい。

ただ一緒に坂道を転がり落ちていこう。



互いを蔑むことで、そしてそれを許すことで私たちは完全体になれる。

…………愛し合える。



その確信だけで充分だ。



「ずっとそばにいてよ?」

「うん……」



柔らかなチャコの唇が落とされる。

ふんわりと漂ってきたのは琥珀糖の甘い香りだった。
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