美味いだろ?~クランをクビにされた料理人の俺が実は最強~

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第52話 ドラゴンブレス⑩

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 馬の走る音と馬車の車輪の回転する音が聞こえる。
 この馬の足音は、八本足スレイプニルだ。
 それも二頭立て。

 こんな馬車を使う人物は、私は一人しか知らない。

「ジュウベエ。シュタット爺ちゃん。メーガンが来たよ」

 馬車が到着すると私達が居る古代遺跡の前に横付けして、扉が開く。

 馬車の中からメーガンが降りて来て、それに次いで四人と一匹も降りて来た。

「もう突入したのですか? 『ドラゴンブレス』とその他大勢は?」
「うん。そうだね。20分くらい前かな? それで。その四人組は? メーガンの言ってた人かな」

「そうです。彼らはBランクパーティ『希望食堂ホープダイナー』のメンバーでカインさん。フィルさん。チュールさん。ナディアさん。ケットシーのケラさんです」
「元『ドラゴンブレス』の斥候さん達?」

「違うぞ。俺は料理人だ。斥候はついでにやってただけだ」
「……」

 次の瞬間、ジュウベエが腰の刀を振り抜いた。

『チーン。パキッ』

 何事もなかったかのように、左手に持ったフォークで、ジュウベエの刀の刃を受け止め、そのまま折ってしまった。

「何だこの戦闘民族は? 俺は食えねぇ奴を殺したくないんだから、無駄な事をするな」
「予備の脇差とはいえ、受け止めた上に折っただと? オリハルコンだぞ」

「ああ。殺気は無かったから、それだけにして置いてやる。その背中のでっかい方のが、お前のメインの得物だろ? そっちで斬りかかって来てたら、ちゃんと反撃してやったぞ?」

「ジュウベエ! いきなり何やってくれちゃってるのよ」
「いや、強そうな気がしたからつい…… 予想以上だったがな」

「こんな事をしてる暇はねぇ。本当に孤児院の弟たちも連れて入ったのか? ギースは」
「ああ、そうじゃな」

「フィル。回復が必要になる。一緒に来てくれ。チュールとナディアはここで待ってろ」
「「「うん」」」

 そう言うが早いか、カインはフィルとケラだけを連れて、遺跡へと突入して行った。


 ◇◆◇◆ 


「メーガン。遅かったね」
「カインたちと別れてから半日以上経っていましたから、合流するのに時間が掛かりました」

「そうだとしたら…… 逆によく合流できたね」
「カインが、魔導通話機を持っていましたから、私は登録していましたので」

「えっ? 一般人が魔導通話機を持ってるっておかしくない? 各国の王族やギルドマスターか、私達Sランクにしかまだ持って無い筈だよね?」
「王都のギルドマスターから預かったって言っていましたから、きっとBランクなのは、表面上なのでしょうね」

「猫獣人のお嬢ちゃんと、オッドアイのエルフとはまた珍しい組み合わせだな。オッドアイなんて初めて出会ったよ」

「ナディアと申します」
「チュール。子供じゃない」

「それは失礼」
「お前さん達は、カインから黄金のヒュドラの事を何か聞いた事は無いのか?」

「私は何も伺ってません」
「……」

「チュールちゃんは聞いてる様じゃな」
「う、うん……」

「姉御。こ奴らは何処へ向かっておったのか聞いておるか?」
「本を解読する旅と伺ってるわ」

「本とな?」
「古代エルフ文字で書かれた本だそうよ。私には読めませんが」

「ナディア。その本は今手元にあるのか?」
「一冊だけならございますが」

「あら坊や? あなた古代エルフ文字読めるんだっけ?」
「昔、姉御に頼んで世界樹の島に行った事があるのを忘れたか?」

「そう言えばそうだったね」
「わしは、完全記憶のスキルを持つ賢者じゃからな」

「でも爺ちゃんそろそろボケ始まりそうじゃない?」
「失礼な事を言うな。レオネア」

 ナディアの持つ本に目を通し始めた、シュタットガルドが目を見開いた。

「この遺跡は既に攻略済みのようだな……」

「なんだって?」
「一体誰が…… って他に居ねぇか」

「この本は、箱舟の中に入っている目録の第3巻と書いてある。全13巻の本の様だ」

「箱舟?」
「恐らくそれが、この地下遺跡の最終的な宝だろう。そしてこの索引の部分じゃが最終13巻目のタイトルが、守護竜のセットと充填方法と書かれておる。これが、黄金のヒュドラの正体では無いのか?」

「その、箱舟の中身は古代文明の遺産が大量に収納されとるようじゃな。この本をカインが持っておると言う事は、既にカインが最奥まで到達済みと言う事じゃ」
「あ、あの大きな船の事かな?」

「見たのか? チュールは」
「う、うん。でも、これ以上は言ったらカインに怒られるかもしれないから、戻って来てから本人に聞いて」

「そうじゃな」


 ◇◆◇◆ 


 遺跡内部では態勢を立て直したギース達の9人が奥へと走り去って行く、村人たちを追いかけてひた走っていた。

「ギース。大丈夫なの? この状況」
「心配するな。俺が何の命令もしてないうちに、あいつらは勝手に先頭を走ってくれて、罠などがあったとしても勝手に掛かってくれる。俺達はその後を付いて行くだけで安全に進めてるだろ? これが運を持つ男の強さだよ。それが全てだ」

「そうね。確かにあの村人たちは、私達の命令を無視して勝手に奥に行ってるわね。全滅したとしても、私達が責められることは無いわね」
「ミルキー。今は出来るだけ、消耗しない様に付いて行けばいい」

「解ったわ。でも…… 背後からあの黒いゴーレムたちずっと付いて来てるし、少し急がないと」
「少し村人たちを追い抜けば村人たちを倒すのに忙しくなって、俺達からは離れるさ」

「それは……どうなんですか? ギース様」
「チャールズ。だったらお前が残って食い止めててくれてもいいぞ? 5分は稼げよ。ハルクなら10分は持つからな」

「な…… 急いで追い抜きましょう」
「だろ? それが一番いい判断なんだ」

 そこから、5分程進んだ所で村人たちが立ち止まっていた。

「どうしたんだ? 何故止まっている」
「階段があります。これを降りるべきか判断を聞きたくて」

「勝手に隊列を乱して走り出しておいて、今更か。見た所問題は無さそうだ。造りもしっかりした階段だ。押しあったりしない様に、順番に並んで降りて行けば大丈夫だ」
「解りました」

 村人たちが一列に連なり、慎重に階段を進み始めた。
 そして、200段ほどもある階段に100人程が進んだ時に、もう安全だと判断したギースが、『ドラゴンブレス』のメンバー残り8人と共に降り始めた。

 その直後だった。
 階段がまっ平な状態になり、その先は真っ赤に煮えたぎるマグマの中に続いていた。

 階段を下りていた110人程が、絶叫を上げながら滑り落ちて行く。

 その中には当然ギース達の姿もあった。
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