美味いだろ？～クランをクビにされた料理人の俺が実は最強～

第77話 帝都の様子

　俺達は、メーガンと爺ちゃんを送り出した後は、一度上空に上りメーガンの帰りを待つ事にした。

「おい。カイン。さっきシュタット爺が言ってた転移門と言うのを見せてくれないか？」
「ああ。いいぞ」

　俺は二つ一組になった転移門を取り出す。
　透明のシート状の物が二枚丸めた状態になっている。
　そのうちの一枚を広げてみると、枠も何もないのに、その場に立てて置く事が出来た。

「不思議な作りだな。どうなってるんだろう」

　広げたシートをチェックしていると、四隅にはミスリルの装飾があり、そこに魔法陣らしき物が刻み込んである事を、確認できる。

「この魔法陣によって、不思議な状態が保たれてるんだろうな？」
「早く、もう一枚も広げてくれ」

　ジュウベエに急かされたので、少し離れた場所へもう一枚のシートを広げた。

　ジュウベエも周りを確認するように眺めていたが、手を伸ばして転移門を触ってみた。

　すると、転移門の反対側には、手が出てこなかった。
　もう一方の転移門を見ると、透明なシートからジュウベエが突っ込んだ手だけが出ていた。

「わっ。ホラーだねジュウウベエ」

　レオネアがそう言って、出て来た手を思いっきり引っ張てみると、ジュウベエの身体がそのまま、転移門から全身で登場した。

「レオネア……　もう少し冷静に考えて行動しろ。焦ったじゃないか」
「細かい事気にしたら禿げるよ？　ジュウベエ」

「書いてある通りの効果で間違いなさそうだな。距離も関係無いなら使い勝手は相当な物だぞ。シュタット爺が帰って来たら、魔法陣を読み解かせて俺達の分も作って欲しいな」

　やはり、一度世界樹の島ユグイゾーラに行って、この古代エルフ文字を読めるようになっていたほうが良いかもな。

　やる事が多すぎて困るぜ。

　取り敢えずは今はこのオメガの艦内にある魔導具は商品見本のような物で、一種類に付き一つしか在庫が置いて無いので、そうそう持ち出して使う訳にも行けない。

　馬車と、この転移門くらいにしておいた方だ良いな。
　魔法陣を読み解いて、同じような物を作るにしても、現物があるのと無いのじゃ大違いだしな。

「なぁ。ジュウベエやレオネアは魔導具作成を覚えようとか思わないのか？」

「僕は無理だね。字を見ると目が閉じて来ちゃうから……」
「俺も、細かな作業などは苦手だ。シュタット爺に任せるのが良いと思う」

「メーガンはどうなのかな？　エルフって手先は器用そうだし。言語も古代エルフ語なら、俺達が覚えるよりは早そうだけどな」
「メーガンは気まぐれだからねぇ……　メーガンを当てにするくらいなら、カインの所のナディアちゃんの方が良いんじゃないの？」

「それもそうだな。おーいナディア。ちょっといいか？」
「はい。伺います」

「世界樹の島ユグイゾーラに行ってハイエルフに出会えたらさ、古代エルフ語を習ってくれないか？」
「カイン様が望まれるのでしたら、頑張ります」

「よし、それじゃぁ時間が空いた時に世界樹の島を探そう。今はオメガがあるから結構簡単だろ？」
「そうですね」

　上空で待機しているとメーガンから連絡が入った。

『戻ったので、降りて頂けますか？』
『了解』

　オメガを地面に着陸させて、メーガンを収容すると帝都の状況を訪ねてみた。

「帝都はどうなんだ？」
「何も発表されていないので、通常と変わらないですね。ただ……　近衛騎士達が、普段は帝都を巡回しているのに、それらしき姿は見ませんでした」

「ギルドは、どうなんだ？」
「詳しく内容を知るのは、マスターだけのようです。一応帝国内のAランク以上の冒険者に、招集をかけて不測の事態に、準備すると言ってましたね」

「そうか、皇帝が居ないんじゃ、誰も命令を出せない情況だよな……」
「そうですね。マスターもAランクを拘束しておくと、結構な収入の保障を行わなければならないから、頭を痛めてましたよ」

「爺ちゃんは、どうするって？」
「市民に被害が出ない様に、ギルドで待機するそうです、一応マスターから皇宮を破壊するのは最終手段にしてくれと言われてましたから」

「犯人からの要求とかも何もないのか？」
「どうでしょうね？　その辺りはマスターにも連絡は行って無いようですし」

「皇帝はどこに？」
「帝都から20㎞程離れた、公爵領に避難してそこに兵を集めて皇宮を取り戻すそうですよ」

「それって……　大軍を引き連れて帝都に攻め込むって事か？」
「敵が占拠してるのは、皇宮だけですから皇宮に攻め込むって事でしょうね……」

「一般の人達に被害が出なければいいけど、どうなるんだろうな？　爺ちゃんは何をする気なんだ？」
「宮廷魔導士に坊やのお弟子さんが結構居たらしくてね。その方達の消息を知りたいと言ってたわ」

「そっか……　知り合いがいると気がかりだよな。俺達はどうするのが良いのかな？」
「何もせずに待っているのが、良いんじゃないでしょうか。相手が魔物ならば私達が出るべきでしょうが、ゴーレムは命令がなければ動かない筈です。と言う事はこれは政治的な戦争です。冒険者が動くと色々問題が起こります」

「そうなんだ。まぁ俺は帝都の知り合いとか、爺ちゃんくらいしか居ないから別にいいんだけどな。だが……　ゴーレムに命令を下した奴が、ギースの可能性もある。そうだったら俺は非戦闘員の人達を殺したあいつを許せないな」

「カイン……　ちょっといいかな」

「どうしたフィル？」
「王都に一度行かない？」

「なんでだ……　あ、ハルク達の葬式か」
「うん。どっちにしても、ギースが王都に戻る事は無いと思うし、クランの人達も連絡がないままじゃ困るでしょ。王都のギルドマスターに会って、状況を説明してクランの解散とクランの所持してる財産を処分して、残ってる人達に分けて上げれる様にして貰いたいの」

「ハルクの葬式は大丈夫だけど、クランの処分は勝手に出来るのか？」
「今残ってる、リーダー達に一度引き継がせる形なら、出来ると思うけど」

「そっか、そうだな。俺も王都のギルマスに一緒に頼めば何とかしてくれるかもしれないな、ここからだとオメガで三時間も飛べば、到着するから行ってみよう」

「ジュウベエ達もちょっと付き合ってくれるか？」
「この船から降りなくても良いんだろ？」

「ああ。それは必要ない」
「じゃぁどこに居ても一緒だから構わないぞ」

　爺ちゃんには、メーガンから連絡を入れて貰って、帝都の問題が片付いたら、連絡をしてくるように伝えて、俺達はハルク達のお墓を用意する為に王都へと戻った。