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6.聖女判定
「聖女判定を受けていただけますね?」
座ると同時くらいに王子様が言葉を発した。声も表情もとても穏やかではあるが、当然だという圧もある。
「聖女判定は受けます。ただ、確認したいことがあります」
私は先程美結ちゃんと確認しておきたいと話していたことをたずねた。
私たちがこの世界に召喚された時点で、元いた世界には私たちの存在は元々居なかったことになるらしい。
私の家族はお父さんお母さんと裕太だけの三人家族。
美結ちゃんの家族も、美結ちゃんのお母さんと妹さん二人だけの家族。
戻る場所と時間は私たちがぶつかる直前になるようで、戻った方はこちらの世界の記憶は無いということになる。
なので戻った方は今までの生活をそのまま、不自然なく継続して行けるという。
ただ、残された者は召喚後からはこちらの世界での時間軸で経過しているから、帰還の儀のあとも当然帰ってしまった人を忘れることは無い。
「美結ちゃん、どう?大丈夫?」
「…はい、美麗さんは大丈夫ですか?」
「うん、向こうの世界で私の家族が泣いていないなら…救われた気持ちになる。私たちがぶつかる前に戻るならそれが良いと思う」
「はい、私も同じです。ただ、残る方は覚えているんですね。私が残るとしたら美麗さんのことは絶対忘れません」
「美結ちゃん、ありがとう。私も美結ちゃんを忘れないよ」
私たちは召喚された時の教会のような場所に移動していた。もちろん美結ちゃんは私の腕をしっかりと抱き締めている。
ああ、私の前足のようなどっしりとした腕、背は美結ちゃんと同じくらいなのに横幅は倍なんて…。
召喚された場所は神殿と言うのだと教えられた。召喚された位置のさらに奥に、召喚された時にチラッと見た白い帽子をかぶったおじさんがいた。
「この石板に手を乗せてください。乗せた時の石板の状態で聖女様の力を判定します」
王子様の指示で、先に美結ちゃんの判定を行うことになった。
美結ちゃんは私に向き合いギュッとハグをした。離れた時には目に涙を溜めていたが、小さく頷くと石板のある台の方に向かった。
「それではここに手を当ててください」
今神殿の中には王子様と宰相の他に、召喚の時にいたであろう人たちと、兵士ではなく護衛と言うらしい大きな男の人たちが10人くらい追加され、これだけの人数がいるのに誰ひとり息をしていないかのように静まり返っていた。
美結ちゃんが石板に右手を当てた。
すると石板が柔らかくホワッと一瞬だけ光ったあとすぐに消えた。石が光るってどういった仕組みなの!?
私の視界の端にいた王子様がピクッと動いたのがわかった。周りの人たちがざわめいている。やっぱり王子様の予想通りだったのね。美結ちゃんが聖女なんだ。
複雑な表情で私のいる場所に戻ってきた美結ちゃんに両腕を広げ腕の中に抱え込む。
どちらかが明らかに聖女とわかっても、確認のために二人とも判定すると言われていたので、美結ちゃんの不安げな目を見て小さく頷くと私も石板の前に移動する。
「ではここに手を」
おじさんの態度が美結ちゃんの時と少し違うけど、私は丸々した手を石板にピタっと当てた。
その瞬間、目をつぶってしまうくらい石板が激しく光ったかと思ったら、ゴリッという音がして石板が割れてしまったのだ。図鑑ほどの厚さの石が触っただけで割れる!?
えっ?いくら私が少々ぽっちゃりだとしても、手のひらを当てただけで石板を割れるわけ無いよ!
どうしよう、たぶん凄く価値の有るものなんだよね、せっかく帰れるかも知れないのに責任とって一生ここで働いて返せ!って言われたらどうしよう。
ダラダラとこめかみにも、背中にも冷たい汗が流れ始めた。
「こちらの方が聖女様です。恐らく千年に一度現れる大聖女様で間違いないかと──」
白い帽子のおじさんが静まり返ったこの空間に、抑揚の無い低い声で結果を放った。
静けさが逆にビリビリと耳を塞ぐような空気のあと、周囲の歓声が耳を突き抜けた。
なに!?どうしたの、何が起こってるの?聖女様は美結ちゃんじゃないの?
王子様をチラッと見ると明らかに表情を無くしているように見える。
目の前のおじさん以外の白い服を来た人たちは、笑顔の人と驚いているような顔の人とに別れている。
私のもとに宰相が来て目の前に跪いた。
「女神クリスティーナに感謝致します。聖女様、どうか我々をお導きください。大聖女様をお迎えできたこと、この国の宰相として慶びをお伝えすることをお許し下さい」
と言って、私の右前足、違う、右手を取ってそのプクプクの甲に触れるか触れないかのキスをした。
そのあと、白い帽子のおじさんは神官長と言うそうだ、神官長も私の前に来て跪き、私の右手を神官長の額に当てて、
「女神のお導きに感謝致します。女神のお力を正しく民のために国のために捧げられるよう我が力を尽くします」
実感の無い私はされるがままに手を取られていたが、神官長がその手を離すとき、
「なんでコイツなんだ」
と小さく呟いた。そして立ち上がるとすぐに背を向けて、そのまま石板のあった方へ歩いて行った。
「美麗さん…」
美結ちゃんがなんともいえない顔でそばに立っていた。
「美結ちゃん、私」
「美麗さん、あの、なんと言っていいのか、すみません私だけ帰ることになって…
美麗さん、私美麗さんのこと忘れちゃうけど、忘れたくないです。頑張って思い出します」
美結ちゃんはポロポロと大きな瞳から涙を流し私の両手を掴んだ。
私は美結ちゃんを抱き締めた。
「美結ちゃん、元気で。私の分も自分の人生を大切に楽しんでね」
そのまま時間がないということで、帰還の儀が速やかに執り行われた。
神殿の床に、長い黒髪を後ろで縛り、黒いマントを着けた背の高い男の人が、長い杖のようなもので何かを書き込んでいる。
美結ちゃんがその書き込んだ文字のような上に立たされると、その黒髪の人の他に同じように黒いマントを着けた二人が美結ちゃんのそばに立ち、何か呪文のようなものを言うと両手をその文字の辺りに向けた。
眩しい光に美結ちゃんが包まれ、その光が数秒で収まると、美結ちゃんはもうその場にいなかった。
美結ちゃん、無事に帰れたかな…
私、この知らない世界に一人になっちゃった。
そう思ったあと、意識が途切れた。
座ると同時くらいに王子様が言葉を発した。声も表情もとても穏やかではあるが、当然だという圧もある。
「聖女判定は受けます。ただ、確認したいことがあります」
私は先程美結ちゃんと確認しておきたいと話していたことをたずねた。
私たちがこの世界に召喚された時点で、元いた世界には私たちの存在は元々居なかったことになるらしい。
私の家族はお父さんお母さんと裕太だけの三人家族。
美結ちゃんの家族も、美結ちゃんのお母さんと妹さん二人だけの家族。
戻る場所と時間は私たちがぶつかる直前になるようで、戻った方はこちらの世界の記憶は無いということになる。
なので戻った方は今までの生活をそのまま、不自然なく継続して行けるという。
ただ、残された者は召喚後からはこちらの世界での時間軸で経過しているから、帰還の儀のあとも当然帰ってしまった人を忘れることは無い。
「美結ちゃん、どう?大丈夫?」
「…はい、美麗さんは大丈夫ですか?」
「うん、向こうの世界で私の家族が泣いていないなら…救われた気持ちになる。私たちがぶつかる前に戻るならそれが良いと思う」
「はい、私も同じです。ただ、残る方は覚えているんですね。私が残るとしたら美麗さんのことは絶対忘れません」
「美結ちゃん、ありがとう。私も美結ちゃんを忘れないよ」
私たちは召喚された時の教会のような場所に移動していた。もちろん美結ちゃんは私の腕をしっかりと抱き締めている。
ああ、私の前足のようなどっしりとした腕、背は美結ちゃんと同じくらいなのに横幅は倍なんて…。
召喚された場所は神殿と言うのだと教えられた。召喚された位置のさらに奥に、召喚された時にチラッと見た白い帽子をかぶったおじさんがいた。
「この石板に手を乗せてください。乗せた時の石板の状態で聖女様の力を判定します」
王子様の指示で、先に美結ちゃんの判定を行うことになった。
美結ちゃんは私に向き合いギュッとハグをした。離れた時には目に涙を溜めていたが、小さく頷くと石板のある台の方に向かった。
「それではここに手を当ててください」
今神殿の中には王子様と宰相の他に、召喚の時にいたであろう人たちと、兵士ではなく護衛と言うらしい大きな男の人たちが10人くらい追加され、これだけの人数がいるのに誰ひとり息をしていないかのように静まり返っていた。
美結ちゃんが石板に右手を当てた。
すると石板が柔らかくホワッと一瞬だけ光ったあとすぐに消えた。石が光るってどういった仕組みなの!?
私の視界の端にいた王子様がピクッと動いたのがわかった。周りの人たちがざわめいている。やっぱり王子様の予想通りだったのね。美結ちゃんが聖女なんだ。
複雑な表情で私のいる場所に戻ってきた美結ちゃんに両腕を広げ腕の中に抱え込む。
どちらかが明らかに聖女とわかっても、確認のために二人とも判定すると言われていたので、美結ちゃんの不安げな目を見て小さく頷くと私も石板の前に移動する。
「ではここに手を」
おじさんの態度が美結ちゃんの時と少し違うけど、私は丸々した手を石板にピタっと当てた。
その瞬間、目をつぶってしまうくらい石板が激しく光ったかと思ったら、ゴリッという音がして石板が割れてしまったのだ。図鑑ほどの厚さの石が触っただけで割れる!?
えっ?いくら私が少々ぽっちゃりだとしても、手のひらを当てただけで石板を割れるわけ無いよ!
どうしよう、たぶん凄く価値の有るものなんだよね、せっかく帰れるかも知れないのに責任とって一生ここで働いて返せ!って言われたらどうしよう。
ダラダラとこめかみにも、背中にも冷たい汗が流れ始めた。
「こちらの方が聖女様です。恐らく千年に一度現れる大聖女様で間違いないかと──」
白い帽子のおじさんが静まり返ったこの空間に、抑揚の無い低い声で結果を放った。
静けさが逆にビリビリと耳を塞ぐような空気のあと、周囲の歓声が耳を突き抜けた。
なに!?どうしたの、何が起こってるの?聖女様は美結ちゃんじゃないの?
王子様をチラッと見ると明らかに表情を無くしているように見える。
目の前のおじさん以外の白い服を来た人たちは、笑顔の人と驚いているような顔の人とに別れている。
私のもとに宰相が来て目の前に跪いた。
「女神クリスティーナに感謝致します。聖女様、どうか我々をお導きください。大聖女様をお迎えできたこと、この国の宰相として慶びをお伝えすることをお許し下さい」
と言って、私の右前足、違う、右手を取ってそのプクプクの甲に触れるか触れないかのキスをした。
そのあと、白い帽子のおじさんは神官長と言うそうだ、神官長も私の前に来て跪き、私の右手を神官長の額に当てて、
「女神のお導きに感謝致します。女神のお力を正しく民のために国のために捧げられるよう我が力を尽くします」
実感の無い私はされるがままに手を取られていたが、神官長がその手を離すとき、
「なんでコイツなんだ」
と小さく呟いた。そして立ち上がるとすぐに背を向けて、そのまま石板のあった方へ歩いて行った。
「美麗さん…」
美結ちゃんがなんともいえない顔でそばに立っていた。
「美結ちゃん、私」
「美麗さん、あの、なんと言っていいのか、すみません私だけ帰ることになって…
美麗さん、私美麗さんのこと忘れちゃうけど、忘れたくないです。頑張って思い出します」
美結ちゃんはポロポロと大きな瞳から涙を流し私の両手を掴んだ。
私は美結ちゃんを抱き締めた。
「美結ちゃん、元気で。私の分も自分の人生を大切に楽しんでね」
そのまま時間がないということで、帰還の儀が速やかに執り行われた。
神殿の床に、長い黒髪を後ろで縛り、黒いマントを着けた背の高い男の人が、長い杖のようなもので何かを書き込んでいる。
美結ちゃんがその書き込んだ文字のような上に立たされると、その黒髪の人の他に同じように黒いマントを着けた二人が美結ちゃんのそばに立ち、何か呪文のようなものを言うと両手をその文字の辺りに向けた。
眩しい光に美結ちゃんが包まれ、その光が数秒で収まると、美結ちゃんはもうその場にいなかった。
美結ちゃん、無事に帰れたかな…
私、この知らない世界に一人になっちゃった。
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