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16.第一王子の恋心
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(はぁ、何で、何であんなのが聖女なんだ)
聖女召喚の儀は1年前から準備を進めてきた。
現聖女が100歳となり、女神の元に帰る日が近付いてきており、新たに聖女を召喚し、魔物を殲滅し瘴気の沼を浄化させなければ我が国は魔物に飲み込まれてしまう。
聖女は異世界から召喚され、魔法で魔物や瘴気の浄化を行い、さらに能力が高ければ治癒や回復などの力も授かり、その力で病や怪我の完治も可能だという。
我が国は、魔法を使えるものは国民の1割程度で、そのほとんどが貴族だ。
しかし、貴族は貴族で魔法を使いたがらず、それどころか魔法が使えることを隠す者もいる。
貴族は生活のすべてにおいて、メイドや使用人に身のまわりのことや雑務を行わせている。自分で何かすることを好まず、日常生活の中で自らの魔法を使うことに否定的な感情を持っているのだ。
私は魔法にかなり興味がある。
しかし私自身魔力はあるが、人の役に立つまでの能力はない。なので、子供の頃に受けた王子教育で聖女の持つ魔力に心引かれた。
我が国は魔物と瘴気の存在に終わることのない憂いを背負っている。一国どころか世界を救う能力を持つ聖女に憧れと尊敬の念を抱いていた。
先日旅立たれた聖女に数年前にお会いしたことがあるが、100年近くも生きているのにとても美しく若々しく感じた。
私の祖母である前王妃の方が年齢では若いのに、前聖女と比べると年老いて見えた。
この方が国を守ってくれたのだ。
教科書の黒髪の凛とした立ち姿の美しい女性がこの聖女の姿と重なった。
国を守るほどの魔力を持ち、年を召されてもなおこの美しさ。
私は父である陛下に、この度の聖女召喚の儀の統括を願い出た。
召喚された聖女は、第一王子である私の妃になる可能性が高い。私にはすでに婚約者がいるが、召喚された聖女はお飾りの妃だと言われても自分の目で確かめたい。
どれだけ美しいのか。
教科書の姿絵のような、一瞬で心を奪われるような女性。
その聖女が現れる瞬間をこの目に焼き付けたい。
そして召喚後も、聖女の教育や魔法訓練に携わりたい。
聖女の魔法を実際にこの目で見たいのもあるが、すぐにでも両親のような信頼関係と愛情を育み、私の伴侶として良い関係を築いていきたい。
そのために必要な基本的な教育もマナーも私の采配で進めたいのだ。
召喚の儀が行われる一月前、私の婚約者であるリリアーナには改めて聖女は正妃になることを伝えた。
リリアーナはほんの一瞬僅かに目を細めると、
「ええ、フェリクス様、それはもちろん承知しております。近く召喚の儀が執り行われるのはわかっていたことでございましょう?
たとえ召喚された聖女様が正妃になられても、私たちの長年の絆が揺らぐことは有り得ませんわ、ね、そうでしょう?」
リリアーナは我が国の筆頭公爵家の一人娘で、私と同じ年齢であることから幼い頃に王家からの打診で婚約している。王家と公爵家との結び付きを強くするための政略だ。
金色に柔らかく光る髪に、澄んだ空のような青い瞳を持つこの令嬢は、公爵令嬢としての矜持を持って貴族学院や社交界でその立場を揺るぎないものにしている。
マナーや礼儀のなっていない者には容赦なく厳しい指導をする。リリアーナの歩く道に粗相は許されない。
幼い頃はよく笑い無邪気に遊んでいたが、年々自身の立場を理解するのと同時に、彼女の纏う清廉なオーラに背筋が伸びる思いだ。
早く聖女に会いたい。
幼い頃からずっとそう思っていた。
ところが召喚された聖女は二人だった。何が起こった!?どうして二人なんだ?
一人は長い黒髪を後ろで縛っていた。あの教科書で見た美しい黒髪だった。
服は見たこともない形のものを着ていた。上下とも紺色で乗馬服のようだった。
上の服の左胸には何か文字のようなものが書いてある。
顔を見ると間違いなく聖女その人だった。
小さな顔にくるっと大きな瞳は濃い茶色で、その下の可愛らしい小さな鼻とバランスが良い。
唇は怯えもあるせいか血色はあまり良くなかったし、肌は少し日に焼けてはいるが、これから私のもとでこの国の聖女、私の正妃として磨かれていくのだからまったく問題ない。
私は想像以上の聖女の可憐な美しさに、自分の胸の高鳴りと大きな感動が込み上げ立ち尽くしてしまった。
ふと見ると聖女の隣にもう…ひとり?人間なんだよな?美しい少女がしがみついているものに驚いた。
こちらも見たことの無い体型の…女か?顔も体もすべてが真ん丸な女が、濃いグレーの上下の服、寝間着のような服を着て座り込んでいる。
髪は濃い茶色で瞳は黒い。目も鼻も口も、すべてが肉で埋もれているような顔をしていた。
何故だ、何の理由があってこんな醜い女が召喚されたのだ?
隣にいた魔法長官を見ると、こいつも理解出来ないと言う顔をして私を見つめている。
直ぐにこの件を調べるように指示を出した。
この場に居ても仕方がない、聖女を休ませてやりたい。
そして、これからのことを二人で話してみたい。
我が国の聖女だと伝えたらさぞ喜ぶだろう。その喜ぶ顔も私が一番に見たい。
貴賓室にエスコートするために聖女に手を差し出すと、涙を溢しながら「イヤッ」と言い拒絶された。
私は自分でも美しい顔であることは理解しているので、その顔の良さを存分に活かしたのだが、涙で私の顔が良く見えなかったのか?
少女はさらに強く隣にいる樽のような女にしがみついた。
こんなにしがみつかれては抱えることも出来ない。
この少女くらいの娘が二人なら私の力でも抱えられるだろう。しかしこの岩のような女となると不可能だ、考える間もなく無理だとわかる。
召喚されたばかりでまだ動揺しているのだろう、宰相に後の事は任せ自分の執務室に戻った。
執務室の机に入れている聖女の教科書を出し、聖女の姿絵を眺める。
同じだった。
長い黒髪に大きな瞳、私が子供の頃から恋い焦がれた美しいその人だった。
胸が高鳴った。これは恋なのか?これが一目惚れというやつか。先ほど見た聖女の可愛らしい姿が頭から離れない。
あの可憐な少女が1年もすれば魔物を浄化させるなんて、その勇ましい姿を想像するだけで興奮した。
しかもその美しい聖女が私の正妃となるのは決定事項なのだ。
あの美しい少女が私の隣に立ち、国民の歓声に微笑むのだろう、なんて幸せなんだ。
美しい彼女のために、ドレスも宝石も惜しみなく贈ろう。欲しがるものはいくらでも与えよう。
そうするに相応しい存在なのだから。
そんなことを考えていると、宰相が私のもとに来た。
聖女召喚の儀は1年前から準備を進めてきた。
現聖女が100歳となり、女神の元に帰る日が近付いてきており、新たに聖女を召喚し、魔物を殲滅し瘴気の沼を浄化させなければ我が国は魔物に飲み込まれてしまう。
聖女は異世界から召喚され、魔法で魔物や瘴気の浄化を行い、さらに能力が高ければ治癒や回復などの力も授かり、その力で病や怪我の完治も可能だという。
我が国は、魔法を使えるものは国民の1割程度で、そのほとんどが貴族だ。
しかし、貴族は貴族で魔法を使いたがらず、それどころか魔法が使えることを隠す者もいる。
貴族は生活のすべてにおいて、メイドや使用人に身のまわりのことや雑務を行わせている。自分で何かすることを好まず、日常生活の中で自らの魔法を使うことに否定的な感情を持っているのだ。
私は魔法にかなり興味がある。
しかし私自身魔力はあるが、人の役に立つまでの能力はない。なので、子供の頃に受けた王子教育で聖女の持つ魔力に心引かれた。
我が国は魔物と瘴気の存在に終わることのない憂いを背負っている。一国どころか世界を救う能力を持つ聖女に憧れと尊敬の念を抱いていた。
先日旅立たれた聖女に数年前にお会いしたことがあるが、100年近くも生きているのにとても美しく若々しく感じた。
私の祖母である前王妃の方が年齢では若いのに、前聖女と比べると年老いて見えた。
この方が国を守ってくれたのだ。
教科書の黒髪の凛とした立ち姿の美しい女性がこの聖女の姿と重なった。
国を守るほどの魔力を持ち、年を召されてもなおこの美しさ。
私は父である陛下に、この度の聖女召喚の儀の統括を願い出た。
召喚された聖女は、第一王子である私の妃になる可能性が高い。私にはすでに婚約者がいるが、召喚された聖女はお飾りの妃だと言われても自分の目で確かめたい。
どれだけ美しいのか。
教科書の姿絵のような、一瞬で心を奪われるような女性。
その聖女が現れる瞬間をこの目に焼き付けたい。
そして召喚後も、聖女の教育や魔法訓練に携わりたい。
聖女の魔法を実際にこの目で見たいのもあるが、すぐにでも両親のような信頼関係と愛情を育み、私の伴侶として良い関係を築いていきたい。
そのために必要な基本的な教育もマナーも私の采配で進めたいのだ。
召喚の儀が行われる一月前、私の婚約者であるリリアーナには改めて聖女は正妃になることを伝えた。
リリアーナはほんの一瞬僅かに目を細めると、
「ええ、フェリクス様、それはもちろん承知しております。近く召喚の儀が執り行われるのはわかっていたことでございましょう?
たとえ召喚された聖女様が正妃になられても、私たちの長年の絆が揺らぐことは有り得ませんわ、ね、そうでしょう?」
リリアーナは我が国の筆頭公爵家の一人娘で、私と同じ年齢であることから幼い頃に王家からの打診で婚約している。王家と公爵家との結び付きを強くするための政略だ。
金色に柔らかく光る髪に、澄んだ空のような青い瞳を持つこの令嬢は、公爵令嬢としての矜持を持って貴族学院や社交界でその立場を揺るぎないものにしている。
マナーや礼儀のなっていない者には容赦なく厳しい指導をする。リリアーナの歩く道に粗相は許されない。
幼い頃はよく笑い無邪気に遊んでいたが、年々自身の立場を理解するのと同時に、彼女の纏う清廉なオーラに背筋が伸びる思いだ。
早く聖女に会いたい。
幼い頃からずっとそう思っていた。
ところが召喚された聖女は二人だった。何が起こった!?どうして二人なんだ?
一人は長い黒髪を後ろで縛っていた。あの教科書で見た美しい黒髪だった。
服は見たこともない形のものを着ていた。上下とも紺色で乗馬服のようだった。
上の服の左胸には何か文字のようなものが書いてある。
顔を見ると間違いなく聖女その人だった。
小さな顔にくるっと大きな瞳は濃い茶色で、その下の可愛らしい小さな鼻とバランスが良い。
唇は怯えもあるせいか血色はあまり良くなかったし、肌は少し日に焼けてはいるが、これから私のもとでこの国の聖女、私の正妃として磨かれていくのだからまったく問題ない。
私は想像以上の聖女の可憐な美しさに、自分の胸の高鳴りと大きな感動が込み上げ立ち尽くしてしまった。
ふと見ると聖女の隣にもう…ひとり?人間なんだよな?美しい少女がしがみついているものに驚いた。
こちらも見たことの無い体型の…女か?顔も体もすべてが真ん丸な女が、濃いグレーの上下の服、寝間着のような服を着て座り込んでいる。
髪は濃い茶色で瞳は黒い。目も鼻も口も、すべてが肉で埋もれているような顔をしていた。
何故だ、何の理由があってこんな醜い女が召喚されたのだ?
隣にいた魔法長官を見ると、こいつも理解出来ないと言う顔をして私を見つめている。
直ぐにこの件を調べるように指示を出した。
この場に居ても仕方がない、聖女を休ませてやりたい。
そして、これからのことを二人で話してみたい。
我が国の聖女だと伝えたらさぞ喜ぶだろう。その喜ぶ顔も私が一番に見たい。
貴賓室にエスコートするために聖女に手を差し出すと、涙を溢しながら「イヤッ」と言い拒絶された。
私は自分でも美しい顔であることは理解しているので、その顔の良さを存分に活かしたのだが、涙で私の顔が良く見えなかったのか?
少女はさらに強く隣にいる樽のような女にしがみついた。
こんなにしがみつかれては抱えることも出来ない。
この少女くらいの娘が二人なら私の力でも抱えられるだろう。しかしこの岩のような女となると不可能だ、考える間もなく無理だとわかる。
召喚されたばかりでまだ動揺しているのだろう、宰相に後の事は任せ自分の執務室に戻った。
執務室の机に入れている聖女の教科書を出し、聖女の姿絵を眺める。
同じだった。
長い黒髪に大きな瞳、私が子供の頃から恋い焦がれた美しいその人だった。
胸が高鳴った。これは恋なのか?これが一目惚れというやつか。先ほど見た聖女の可愛らしい姿が頭から離れない。
あの可憐な少女が1年もすれば魔物を浄化させるなんて、その勇ましい姿を想像するだけで興奮した。
しかもその美しい聖女が私の正妃となるのは決定事項なのだ。
あの美しい少女が私の隣に立ち、国民の歓声に微笑むのだろう、なんて幸せなんだ。
美しい彼女のために、ドレスも宝石も惜しみなく贈ろう。欲しがるものはいくらでも与えよう。
そうするに相応しい存在なのだから。
そんなことを考えていると、宰相が私のもとに来た。
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